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第二章 15歳、学術学院魅惑のイッチ年生時代
解釈の違いはあるが、いとも容易い「愛ゆえ」に
しおりを挟む『短絡的。……然し、最も効率の良い戦略であった。
予てから用意された愛の受け取りは、美しき悪夢の始まりか、或いはただの悲劇の始まりか』
ビターチョコの様なほろ苦い情欲が燃え盛り、やがて赤い薔薇へと表替わりするであろう病の一つ。
与えられた義務を果たし、責務の消化も伴って。
どうせ、どう歩めど同じ結末。「どうせ、どの道」と儚く散るなら、臆病であるより、死を選べ。
「思ってた通り。こういうのも、偶にはいいね」
『……大丈夫だよ、大丈夫』と、幾度なく。
———後、一撃あれば充分であろう。と、言いたげだ。
(偶には……??)
闇が溶け堕ちた頃、「大丈夫。これから、いつも側にいるから」を繰り返し。羞恥を始め、苦痛ですら蜜の様な甘ったるい味がした。
茹だる熱、朦朧とする意識、下腹部から雨色に染まる藍。
……もし正義の名の下に判決を言い渡すならば、紛うことなき「有罪」である。
「ああ、お労しや、お嬢様……。私が付いていながら、私が不甲斐ないばかりに……っ!」
なんてこと……。
辛うじて最後の一線を越えずに終わった、件の自他はともかく、傍から見れば、まるでこの世のオワリ。
(合算オバサン、自首します……)
と。
いくらそう思うも、時すでに遅し。
———昨晩はお楽しみでしたね♥
隠しても、隠しても……然し、多少隠した所で。
「ウッ! わぁ………………」
なんじゃこりゃ。
肝心なとこを守れても、結局ナニも守れていない。
如何にも事後を示唆するよう"主張"が身体中を所せましと覆い尽くし、繋げればまるで茨の様だった。
……なので。
「普段ならば、いくらでもやり様があるので、隠せても。……でも、肩が多少出る『式典服』ともなれば」
湯気の向こうでゲッと、苦々しい顔をするメイドに、こちらも苦い笑みが零れる。
それだけ、あられもない姿。
鏡の中にいる自分は、ハイネックでもない限り、隠そうも、隠しきれないであろう、赤い血華が四肢から首周りまで、散乱していた。
そして、
「髪、洗い終わった? ほら、おいで」
怒涛過ぎて、許容量越えを起こす。
ほとんど覚えていない現実の破片を繋ぎ合わせてできた夢は、散々舐られたアソコの余韻という結末を以て、その鋭さを隠しきれない。
オフィーリアは「……この変態ほんとマイペースだな」と思いながら、誘われるがまま片足、そんで両脚をするり滑り込ませる。
……と強引半ば。もはや指定席と化しつつあるその場所へ、ドボン。今にも歌い出しそうなご機嫌声に混じって僅かな水飛沫が上がる。
花びらの浮かんだ水面に映った、満足気な男と「自分ではよくわからんのです。今自分が、どんな顔をしているのか……」顔を晒す女のコントラスト、温度差が実に見事だった。
その裏腹、しくしく、しおしお。
誰かが泣いてる音がする……。
だから、彼女は。
「……何事も、最終的には笑顔が一番だよ……」
———だから、もういっそのこと、笑って……くれよ! 何時もみたいに……。
どんな顔をするか分からぬなら。
とりあえず笑いなよ、にっこりと。
「ああ、いけません……とうとう幻聴が……」
寝不足ゆえかしら。
何処からともなく聞こえて来る、嘗て推していた男の会心の一撃ボイスが自然と口からまろび出る。
油断してたら、殺しちゃうかもね。
……と。
今となってはただの幻聴だけれども、芋づる式に思い出すあの頃の課金額に、頭が痛くなる———まるで質の悪い二日酔いのようだ。
心なし。
耳馴染みのある戦闘開始、狼煙音まで聞こえて来るではないか……。
そんな中———かくなる上は、と。
「……かくなる上はこの果報者、うらや……いえ、けしからん獣を殺して、自首をば……」
「オフィーリア、湯加減はどう? 熱くない?? 俺個人としては男だし、君さえいれば特に拘りはないけれど……この入浴剤の香りは好きだなぁ」
言うなれば、今のオフィーリアはあの状態に陥っていた。
よくあるアレだ、アレ…。
は?
「オレ…? ねぇ貴方、今、俺って言いました……??」
「……そっちこそ今、俺にタメ口きいた??」
「あら、失敬、ケダモノ相手だからと、つい……」
真ん中に挟まれてるサンドイッチの具状態だというのに、何時もの事ながら気づけば喧嘩腰になっている周り。
圧倒的アウェイ感、当の当事者より外野が盛り上がり始まる……アレである。
先ほどまで法螺貝だったのに、次はゴングの鳴る音がした。
"我が事について"でさえなければ。
(後、このポジでさえなければ……)
聞いている分には面白い。
身分や立場を越えた、各々の堂々たる主張———
「……それより、アナタって、俺は君の旦那じゃないんだから、やめてくれない……? 知らない人が聞いて誤解を招いたらどうするんだ。……いつも邪魔ばかりしやがって、君がこの子に仕える、お気に入りじゃなければ……」
いい加減空気読め?
……というか、お前が空気になれよ。
さっきからナニ?
いくら専属筆頭とは言え、メイド風情が何様のつもり??
その目は節穴かよ……。
「眼病に詳しい、医者でも紹介……しようか?」
「ふふ、お戯れを……」
お嬢様もいますのに、嫌ですねぇ……そんなに私を見詰めて。
戯言を、寝言は寝てからおっしゃって下さらない?
———よもや世紀末かの様な空気。
双方の副音声から、ほぼ同時に「は?」という、舌打ちが聞こえて来る。
ただでさえ水気のある、ぬくぬくとした場所だというのに……この二人が散らすプラズマに関電しないか、可愛い我が身、そればかりが気になった。
「「は?」」
何コイツ、ムカつくなぁ……。
たかがメイドだと?
「お嬢様との付き合いの長さからして、そちらの方が新参者のくせに……」
「ミア、声。思うも、あくまで心にしまっておくべき声が漏れてる、漏れてる」
から。
……然し、その様なお嬢様の小さな声は、当事者たちに届くことはなかった……。
はんっ、言ってくれんじゃん!
こちとら(正規)、それに比べテメェなぞ、沸いて出る虫の一匹に過ぎず……花壇にすらなれやしない。
そんな偶然通った道端でポッと生えてきた様な、たかが婚約者(暫定)のくせによォ……。
兄ちゃん。
そこで一寸、ジャンプしてみ……??
(眼を見ずも、時折り雰囲気だけで、人は語り合える)
お嬢様は思った。
そして、その背もたれは、そんな自身の専属メイドに対し。
「…………」
傍から見れば、無そのものではあれど。纏う空気は氷点下、どす黒い。
いくら精神安定剤を抱いていようと、新婚宛らのこの時も邪魔されてるのが、(前々から)気に喰わないし……番関連のことなら尚更。
元より大して広くない、狭い雄心が余計、狭くなる。
番に対してはいくらでも我慢できる(?)が、その他には我慢ならないのだ。
なので、方や時マウント系、もう方や立場マウント系。
……つまり同族嫌悪。
こうしてお互い「馬っ鹿、じゃねぇーの……??」と。
(我が事でさえなければほんと茶番、聞いてる分には面白いんだけどなァ……)
経験上、一々突っ込んでたらキリがないし、身も持たないから、構わないけれど。
ただ、それでも。
(せめて風呂ぐらい…のんびり、心穏やかに入らせてくれよ……)
どこぞの誰かのせいで、お嬢様は心身ともに疲れていた。
心地いいはずの適温に浸かれど、後ろと横の圧、副音声の主張が激し過ぎて、まるで休まらない。
「……………チッ、」
「ふん」
なので、今のオフィーリアが言えるのは、どうやらこの度の勝敗は専属メイド———ミアの方に天秤が傾いたようだった。
生粋の引き籠りなので、余所は分からぬが……環境のせいなのか、この国における北部産の女の子は総じて、気性の荒い傾向があるので。
喧嘩と書いて、立派なコミュニケーション。
何時もの事である。
……いやはや早数年、思い返せば、やや長期に渡る、この二人の確執は根深い。
昔からの事だから、今更気にする必要もない。
———が。
「お嬢様がお優しいのをイイことに、何とも汚らわしい……———どうせ『未遂』な訳ですし、これは離婚……お嬢様、いい子ですから、ね? もうこんな危ない、ヤバい、頭可笑しい三銃士? な顔、地位しか取り柄のない男なんて、一刻も早く『おさらば』して次ですよ、次!」
「あ""?」
「……ほらね、お嬢様、こんな男と婚約、婚姻だなんてやめて。今すぐ離婚、離縁、婚約破棄しちゃいましょうよ……ね??」
オフィーリアお嬢様。
「……いい度胸だ。そんな命張ってまで俺に構って欲しければ、来いよ、可愛がってやる」
より早く、旦那(暫定)のほうが反応した。
……ところで、私はそろそろお暇を……。
「あ、コラ。どさくさに紛れて、脱出を図ろうとしないで」
「お嬢様……」
しようとしたが、オフィーリアは秒で捕まった。
立とうとした途端、女の子の中で最もデリケートな部分(※お腹周り)を男の力で絡めとられたのである。
これは酷い。
胸を揉まれる以上に嫌な気持ちになる、とても酷いセクハラだ……。
ひん。
「……オフィーリア?」
「婚約破棄します? 迷う必要なんてありません、そうしましょう??」
「オイ、まだ言うか……大体俺らの婚約は…」
公爵様が。
———と、男は言いかけた。
が……何故か途中で言うのを辞めた。
なので。
後ろに美男、横に美女。
(私さえ…ワタシさえこの構図に入っていなければ……っ)
旦那( )の膝上で、お嬢様は項垂れる。
これまで凡そ15年、正しく今のように燃え尽きること、はや何度目か……。
可愛い我が身を挟んでの、先ほどからの会話内容はともかく……せめて場が場、私を挟んだ上でのやり取りでさえなければな……。
(可愛いかよ。……とりあえず、金を払わせろ)
然し結局思うのは、こう言ったやり取りは、画面の向こうで見るのに限る。ということだ。
……そんなことを考えながら、領域展開も脱走も失敗したお嬢様は。
「———ほら、ミア、いい加減になさい」
「オフィーリアお嬢さまぁ……」
今この時も見え隠れしてる、相手の瞳奥に宿るどろりとした「ナニカ」に触れないことにして、事態が更に炎上する前にと、言葉を続けた。
「私のことが心配なのは分かりました。けれど、ここは公爵邸ではないのですよ? 郷に入っては郷に従え……です」
「はい……」
「分かれば、よし」
血のつながりのない他者に、それだけ、思われる。
……と言うのは、普通「嬉しがるべき場面」ではあるだろうけれど、やはり何事も適度・適切が最も良いものだ。
過ぎたれば疲弊し、なければ枯れる。のである。
……後門に狼、横に戦闘メイド。
思わず頭が痛くなる、特にメイドの方。口は笑っているのに、瞳から光が消えているのが普通に怖い、今この時……。
この度得た婚約者が婚約者なら、幼い頃から何かと付き添い合い、その時の分だけ近い関係にある、メイドの方もメイドなので……。
(お嬢様もつらいよ……)
優雅なのは、響きばかり。
あっちこっちで板挟み、"ストッパー"であることを、ここに来てまで強いられている。
(という、この心労よ……)
適当に宥めすかし、ミアを退室させながら、オフィーリアはこれまでの人生を振り返ってみた。
……一部さえ除けば、普通に「好い世界」なのに、残酷なことだ。
ウン。
「ちゅっ♡」
「!! ん、」
アイツもコイツも、どいつもこいつも、まるでみんなが挙って二重人格、若しくはサイコパスを患っているとしか思えない。
事件は何時も現場で起こる、退室失敗したからには、諦めて迎え討つしかないのである……。
だから。
「んぅ、んん~~~~~~~ッ! ぷはっ、」
「……ふわふわなのに、重みがあって」
———最っ高。
じゃない。
「ちょっ…と、手! てをどこ、て、ひゃぁっ」
と現実では、そう思うも。
嫁の味をしめた旦那に……正直、こう言うシチュも嫌いではないが。ソレは、あくまで創作の中で「は」の話。
風呂場に来てまで、これってない……。背後から迫りくる魔の手に、オフィーリアは身をよじらせる。
……何度も言うが、この手のコトに関し、現実の我が身ともなれば、話はまるで違くなる、理想と現実は別物なので。
本当に、
応援ありがとうございます!
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