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捨てた後の心境

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娘を捨てた。

珍しい色を宿していたとはいえ、正真正銘の血の繋がった実の娘を捨てた。

血の繋がりは魔術で確認できたのに、なお珍しい色を受け入れられず。

次いで生まれた我らの後継たる息子は、普通の子だったから余計に娘を受け入れられなくなった。

わかっている。我らは親としてあまりにも最低だと。

「…ただ、怖かったのだ」

そう。怖かった。

あの美しく珍しい娘が、ただただ怖かった。

そして、幼くして聡明な娘が…そう、怖かったのだ。

たしかに自分の娘であるはずなのに。

まるで違う生き物のようで。

「…どんなに言い訳をしても、我らの罪は晴れない」

乳母に命じた。

娘を捨ててこいと。

捨てる場所は乳母に任せた。

詮索はしなかった。

おそらく、スラムかどこかに捨ててきただろう。

「乳母にはたんまりと退職金を積んだが…酷なことをさせてしまった」

口止め料も含めて、たくさんの金は渡した。

しかし乳母に罪を背負わせた。

我らのしたことは、許されることではない。

「それでも、祈ることは許してほしい」

一度、我が子として生まれた子だ。

どうか、我らのあずかり知らぬところで幸せになってほしい。

捨てておいて願うことでないのはわかっている。

それでも、決して不幸になってほしいわけではないから。

「姉様」

三歳になる息子が、ふとキューケンを呼ぶ。

なにがわかっていて、なにがわかっていないのかわからない普通の速度で成長する三歳児。

キューケンは、並々ならぬスピードで成長して聡明な子だったからその意味では楽だったな。

「姉様は、もういないよ」

「ないない?」

「そう、ないない」

私が息子にそう言えば、息子は困ったような表情。

本当に、どこまで理解しているのやら。

ああ、息子も普通の成長速度とはいえ他の子よりは優秀なのかもしれないな。

「…お前から、姉様を奪ってごめんよ」

「…むー」

わかっているのかいないのか。

息子は不満を示す。

ああ、そうだ。

キューケンは息子を愛していた。

自分は愛されない子だったのに、誰からも愛される実の弟をいっとう大切にしていた。

「…やはり、我々は罪深いな」

息子から。

愛すべき息子から、愛してくれる優しい姉を奪ったのだ。

いつか真実を知る時、息子は我々をどう思うだろう。

「それでも、ただあの娘が怖かったのだ…」

許されぬ、許されぬ。

我らが罪は許されぬ。

それでも、ただ怖かったのだ。

怖かったのだ…。

「…どんなに珍しくても、どんなに聡明でも、ただの娘であることに変わりがないというのに」

我らは、あの子のなにがそんなに怖かったのだろう。

今にしてそんなことを思っても、意味はないのだけど。
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