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娘が無事だと知った

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「ふーん」

送られてきた報告書に、まあこんなものかと納得する。

キューを捨てた乳母の家族は、突然乳母が行方不明になり途方にくれる…かと思えば。

実際には彼女が消えたことでたんまりと入ってきたお金…退職金兼口止め料だったそれを使ってそれなりに楽しく暮らしているらしい。心配する様子は見受けられないとか。

幼子を山に捨てる薄情者にはお似合いの仕打ちだと言えるだろう。

おかげでこちらも罪悪感など持たずに済むが。

「乳母自身は…」

今更沸いた罪悪感や家族への未練からだろうか。

坑夫たちの前では明るく元気に気遣い上手な寮母でいるようだが。

一人きりになると、死んだ様な表情だ。

「こちらは、罰としては十分かな」

こちらに関しては納得はいった。

あとは、両親の方。

とはいえ、キューは弟は好きだという。

キューはオレの番なので、その弟は一応オレの義弟なわけだ。

両親には仕置をしたいが、弟に影響が出ない範囲でとなると…。

「オレが出向くしかないかな」

オレは準備をして、ある日半日だけ寺を空けた。













最近やり手の、パラディース教という新興宗教。

平民や商人たち、果ては貴族にまで影響力を持つという。

ついこの間、どこかの家が目をつけられて潰されたという噂も耳にした。

そんな宗教の教主が何故か私に会いたいという。

下手に断れる相手ではないので、予定を組んでお出迎えした。

「…お初にお目にかかる。オレを迎え入れてくれて、どうもありがとう」

余裕たっぷりに、年齢不相応な余裕を見せるその幼子は。

私が捨てた娘、キューケンと同じ色を宿していた。

「あ…」

「オレの可愛い義妹の、実の親に会えてとても光栄だよ」

柔らかな笑みの奥に燃えるような怒りを感じる。

目をつけられてはいけない存在に目をつけられた。

だが、私は場違いにも安心と喜びを感じている。

我が身可愛さに、理不尽に捨てた実の子が無事だと知ったから。

我ながら、勝手なものだ。

「さて。我が義妹…可愛いキューはもうこちらの子にした。一応その報告と挨拶にきたんだ」

「…ありがとうございます」

「ありがとうございます?すごいすごい!捨てた子を拾ってくださってありがとうございます、なんて普通の親には言えないよ!」

おっしゃる通りで。

「…申し訳ありません」

「言う相手が違うんじゃないかな」

「私には、会えません」

「うん、絶対死んでも会わせないよ」

微笑みを絶やさないのに、その目は私を射殺すように鋭い。

「…オレはいつでもどうとでもできる。そうしないのは、キューが弟とやらを今でも大切に思っているから」

「…!」

「肝に命じて、我が義弟をしっかり大事に育てなよ」

キューの弟なら、オレの義弟同然だからね。

そう言われて、心に決める。

あの子を今まで以上に死ぬほど大切にしようと。

でなければこの幼い獣は私と妻をいとも容易く喰い殺すだろう。

そんな予感がした。

「時間と手間を取らせたのにごめんね。キューが寂しがるからもう帰るよ。下山も登山も結構あるからね」

踵を返して颯爽と帰る姿に、色々な意味で安堵と恐ろしさを感じて死にそうなくらいうるさい心臓に胸を掻き毟くった。
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