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私的には不満はないです

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「キュー、ごめんね」

兄様がある日、お寺を半日空けた。

帰ってきたと思ったら謝られた。

「なにが?」

「実は、今日…キューの親御さんに挨拶に行ったんだ」

きょとんとする。

胸に手を当てる。

あの日泣き喚いて以降、もう胸の痛みはほとんどない。

今も、特別感じるものはなかった。

「そっか」

「勝手なことをしてごめんね」

そりゃあまあ、いつのまに全部調べ上げたのかとか。

なぜ一言でも言ってくれないのかとか。

思うところはまああるけれど。

「私的には不満はないです」

「そう?」

「一応挨拶は大事」

あの人たちにそんなものいるかどうかは置いておいて。

兄様は律儀だから、娘さんは預かってます元気ですくらいは言っておかないと心配だったんだろう。

そんな人が良い兄様も好き。

「あ」

「ん?」

「弟は元気だった?」

問えば微笑まれた。

「残念ながら直接きちんと挨拶はしていないけれど、乳母に連れられて庭で日向ぼっこしている姿は帰りにちらっと見たよ。健康そうだった」

ほっとする。

ここにきてから幸せいっぱいで、兄様のことばかりだったけど。

心配してないわけではなかったから。

「弟くんは、キューの弟であるならオレの義弟同然だからよろしくお願いしますねって言っておいたから大丈夫」

「ありがとう」

「いいんだよ」

両親は弟は愛していたので大丈夫だと思うけど、今では規模の大きいらしいパラディース教の天主たる兄様がそう言ってくれれば間違いも起きるまい。

兄様はやっぱり、パーフェクト兄様ムーブがとても上手だ。

「そうそう、キューにお土産だよ」

「え、なあに?」

「キューの大好きなメロンパン」

いつだかお目付役の彼に買ってもらったそれ。

残念ながら私が昼まで寝過ごしたので、消費期限一日のそれは彼のお腹に消えたが。

兄様は同じものを買ってきてくれたらしい。

「ありがとう。これ美味しくてとてもお気に入り」

「そっか。寄って良かったよ」

「兄様も一緒に食べよう」

「いいのかい?」

「うん!」

でもそうか。

弟が元気にしているなら良かった。

もう一つ気がかりは。

「ねえ兄様」

「うん」

「私の乳母だった人って、元気かな」

聞けば、兄様は困った顔をした。

でもその後少し困ったまま笑って言った。

「少なくとも身体の方は元気そうにしているらしいよ。精神面までは保証できないけど。でもその人ってキューを捨てた人だよね。気にしなくていいよ」

兄様が気にしなくていいというので、それ以上突っ込むことはしない。

元気らしいし。

精神的に云々というと、やっぱり罪悪感でも持って暮らしてるんだろうか。

あれほど別れ際慰めたというのに。

いつか立ち直ってほしいな。

「それよりほら、キューおいで。メロンパン食べよう」

「うん」

二人でもしゃもしゃ食べる。

やっぱりここのメロンパンは、いつ食べても美味しかった。
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