縁談を妹に奪われ続けていたら、プチギレした弟が辺境伯令息と何やら画策し始めた模様です

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

文字の大きさ
3 / 35

003 弟は真面目で策士?

しおりを挟む
 弟のアルドは、跡継ぎとして両親から厳しく育てられました。長女の私は基本放置、妹は溺愛、弟は幼少の頃から習い事地獄の末、隣の領地のアーノルト辺境伯様の所へ毎日訓練に通わされていました。
 凡人の私には両親の教育方針が良く分かりません。ただ、弟はとても真面目で誠実な子に育ったので、あの両親自らが教えを説くより、辺境伯様の方が適任であったことは確かだと思っています。

 ですが、二年前、私と辺境伯令息との婚約話が破談になった時から、弟が通うことはなくなりました。アルドは辺境伯様が体調を崩されたと思っていますが、実際は違います。
 そして今は、学園と屋敷だけを往復する毎日を過ごしています。
 アルドは、剣の腕も中々だと聞きますが、私が勉強を教えているので成績も上々です。それなりに学園生活を楽しんでいるのかと思いきや、カーティアの存在がアルドを苦しめていたようです。

「ティア姉様は、学園内の裏新聞の称号を、総ナメ状態なんです」
「はい?」

 裏新聞って何かしら。真面目な弟が変な道に足を踏み入れていないか不安になりました。

「あ、ベル姉様は女性だから知りませんよね。男性だけで作成している学園内のゴシップ紙みたいなものなんですけれど、国内の情勢から、婚約したとか破棄されたとか。後は婚約が成立しなかった場合も記載されています」

 それなら、毎回カーティアの名前が記載されていてもおかしくはありません。
 ですが、称号とは何でしょうか。

「それと、毎月、裏アンケート調査があって。ティア姉様はたくさん称号を獲得していて……」
「どんな称号なのかしら?」
「た、例えば……。頭の中お花畑令嬢とか、告白したら即承諾しそうな令嬢とか。それに、婚約不成立記録更新、連続二十五人斬り達成とか。それから、まだまだ――ですが、もうベル姉様に聞かせても良いような称号が出てきませんっ」

 アルドはそう言って床に崩れ落ちました。

「あ、アルド。気をしっかり持って」
「まさか、ティア姉様があんな人だったなんて。……僕は、学園に通い始めたら素敵なご令嬢とお近づきになれるかもって期待していたんです。なのにティア姉様のせいで、男女関係なく、みんな僕の事を尻軽女の弟として見るんですよ!?」

 可哀想に。アルドは習い事、訓練、屋敷に帰れば食事をして寝るだけの十五年間を過ごしてきました。
 学園生活は同年代の貴族と過ごせる憩いの場だと期待に胸を膨らませていたのでしょう。

「カーティアは今年で卒業ですから、きっとその……裏新聞ですか? それも今年いっぱい我慢すれば……」
「あ。確かに。あれは在学生限定のアンケート結果です」

 良かったです。アルドの顔に生気が戻りました。
 
 そしてアルドは立ち上がると、急に私の手を取りました。
 その瞳には、何故か強い決意が滲んでいます。

「ベル姉様。僕はティア姉様の鼻を明かしてやりたいのです。婚約がまとまらないのは性格のせいかと思っていましたが、まさかベル姉様の縁談を奪っていただなんて。僕は許せません!」
「へっ?」
「ティア姉様なんかより先に、ベル姉様に婚約していただくんです。そうしたら、ロジエ家に婚約の申し込みなんかこなくなるでしょうし、もしかしたら、ベル姉様みたいな女性を目指すようになって、ティア姉様も変わるかもしれません!」
「まぁ……。よく考えたわね」
「はい! それに、ヨハン様が協力してくださるんです」
「えっ。ヨハンって……。ヨハン=アーノルトですか?」

 ヨハン=アーノルトは、アルドが通っていたアーノルト辺境伯様のご長男で私と同い年の令息です。学生時代は良きライバルであり、友人でもあり、私の人生を彩ってくれた大切な思い出の方です。

「そうです! ヨハン様は、二年前にもベル姉様に婚約を申し込んでくださったのですよね。ご相談したところ、快諾してくださいました!」

 アルドはいつヨハン様とお会いしたのでしょうか。
 そう思案している時、扉がノックされ、執事が顔を出しました。

「お嬢様。婚約の申し込みの書状が届いておりまして、旦那様がお呼びです」

 父から婚約に関して私が呼ばれるのは初めてでした。アルドは喜び勇み、瞳をキラキラと輝かせて私の手を引きます。

「ベル姉様。僕が力になりますから。気合いを入れて行きましょう!」

 今日一番のアルドの笑顔をいただきました。
 ですが、一体どんな手を使って私へ婚約のお話が回ってきたのでしょうか。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

婚約者の姉に薬品をかけられた聖女は婚約破棄されました。戻る訳ないでしょー。

十条沙良
恋愛
いくら謝っても無理です。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

処理中です...