25 / 35
025 招待状
しおりを挟む
ベル姉様がアーノルト家に囲われてから早三週間。
日に日に顔色が良くなっていくベル姉様に僕は満足している。
ヨハン様も機嫌が良く、稽古もつけてくれるし、辺境伯様のご病気がただの腰痛だった事も身内の特権で教えてもらえたし、良いこと尽くしだったのだけれど――。
学園から帰ってくると、執務室に呼ばれた。
扉を開け、まず視界に飛び込んできたのは床に散らばった書類。それから、書類を握り締め、真っ赤な顔でソファーにふんぞり返って座っている父の姿だった。
「アルドっ! お前は知っていたのか!?」
父がテーブルに叩きつけたのは結婚式の招待状だった。それにはロジエ家に届いたものとは違い、姉とヨハン様の名前が記載されていた。
人様の招待状をぐちゃぐちゃにしたのか。僕は溜め息が溢れそうになったけれど何とか飲み込んだ。
「グライン伯爵の家には、こんな招待状が届いたそうだぞ!」
「はい。先日父上からお預かりしました契約書にも、そう記載されておりました」
「な、何だと!? エイベルっ。エイベルを呼べっ」
父が呼びつけると、エイベルは契約書を持ってすぐに現れた。
多分、廊下で待っていたんだろうな。
来るのが早すぎるよ。
「旦那様。契約書はこちらです。こちらを紛失もしくは消失されますと、違約金が発生いたしますので、お取り扱いにはお気をつけくださいませ」
「うるさいっ。早く寄越せっ!」
父はエイベルから契約書と虫眼鏡を奪い取ると、読み始めて直ぐに舌打ちした。そして違約金に関する文面へ移行したのか、顔色がどんどん青白くなっていく。
内容を読んで大人しく理解を示してくれればいいんだけれどな。
「父上。契約を結んでいただきありがとうございます。このような契約内容を取り付けることが出来たのは、父上の手腕のお陰です。この契約によって、今後のロジエの発展は約束されるようなものなのですから」
「はっ。こんな契約を結んだのは、相手が死にかけの辺境伯だと思ったからだ。それがヨハンだと言うのなら、この契約に書かれた優遇措置を今すぐに執り行うべきだ! そうだろう!?」
父は当たり前の権利を主張していると言った顔で僕に同意を求めた。
だからさ。契約書を読んでよ。
「それは如何なものでしょうか。契約書にもう一度目を通していただいて――」
「明日、アーノルトへ行く。ここまで馬鹿にされて黙っておられるかっ。もし要求に応じないなら、ベルティーナを連れ帰ってくる」
「そんな事をしたら、婚約を破棄することに為り兼ねませんよ」
「知ったものかっ!? こんな小さな文字で私を欺きおって。私の要望をはね除けようものなら、契約を白紙に戻させてやるっ」
そんなこと出来る筈ない。
ヨハン様、怒るだろうな。
でも、式で騒がれるよりは、前もって黙らせておいた方が都合が良いとも言っていたな。
「父上。僕もお供致します」
「そうだな。明日、アーノルト辺境伯に必ず謝罪させてやろう」
謝罪するのは父の方になるだろうけれど、僕はこの人の息子として、最後まで見届けようと心に決めた。
日に日に顔色が良くなっていくベル姉様に僕は満足している。
ヨハン様も機嫌が良く、稽古もつけてくれるし、辺境伯様のご病気がただの腰痛だった事も身内の特権で教えてもらえたし、良いこと尽くしだったのだけれど――。
学園から帰ってくると、執務室に呼ばれた。
扉を開け、まず視界に飛び込んできたのは床に散らばった書類。それから、書類を握り締め、真っ赤な顔でソファーにふんぞり返って座っている父の姿だった。
「アルドっ! お前は知っていたのか!?」
父がテーブルに叩きつけたのは結婚式の招待状だった。それにはロジエ家に届いたものとは違い、姉とヨハン様の名前が記載されていた。
人様の招待状をぐちゃぐちゃにしたのか。僕は溜め息が溢れそうになったけれど何とか飲み込んだ。
「グライン伯爵の家には、こんな招待状が届いたそうだぞ!」
「はい。先日父上からお預かりしました契約書にも、そう記載されておりました」
「な、何だと!? エイベルっ。エイベルを呼べっ」
父が呼びつけると、エイベルは契約書を持ってすぐに現れた。
多分、廊下で待っていたんだろうな。
来るのが早すぎるよ。
「旦那様。契約書はこちらです。こちらを紛失もしくは消失されますと、違約金が発生いたしますので、お取り扱いにはお気をつけくださいませ」
「うるさいっ。早く寄越せっ!」
父はエイベルから契約書と虫眼鏡を奪い取ると、読み始めて直ぐに舌打ちした。そして違約金に関する文面へ移行したのか、顔色がどんどん青白くなっていく。
内容を読んで大人しく理解を示してくれればいいんだけれどな。
「父上。契約を結んでいただきありがとうございます。このような契約内容を取り付けることが出来たのは、父上の手腕のお陰です。この契約によって、今後のロジエの発展は約束されるようなものなのですから」
「はっ。こんな契約を結んだのは、相手が死にかけの辺境伯だと思ったからだ。それがヨハンだと言うのなら、この契約に書かれた優遇措置を今すぐに執り行うべきだ! そうだろう!?」
父は当たり前の権利を主張していると言った顔で僕に同意を求めた。
だからさ。契約書を読んでよ。
「それは如何なものでしょうか。契約書にもう一度目を通していただいて――」
「明日、アーノルトへ行く。ここまで馬鹿にされて黙っておられるかっ。もし要求に応じないなら、ベルティーナを連れ帰ってくる」
「そんな事をしたら、婚約を破棄することに為り兼ねませんよ」
「知ったものかっ!? こんな小さな文字で私を欺きおって。私の要望をはね除けようものなら、契約を白紙に戻させてやるっ」
そんなこと出来る筈ない。
ヨハン様、怒るだろうな。
でも、式で騒がれるよりは、前もって黙らせておいた方が都合が良いとも言っていたな。
「父上。僕もお供致します」
「そうだな。明日、アーノルト辺境伯に必ず謝罪させてやろう」
謝罪するのは父の方になるだろうけれど、僕はこの人の息子として、最後まで見届けようと心に決めた。
3
あなたにおすすめの小説
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。
水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。
兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。
しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。
それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。
だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。
そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。
自由になったミアは人生を謳歌し始める。
それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる