縁談を妹に奪われ続けていたら、プチギレした弟が辺境伯令息と何やら画策し始めた模様です

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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025 招待状 

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 ベル姉様がアーノルト家に囲われてから早三週間。
 日に日に顔色が良くなっていくベル姉様に僕は満足している。
 ヨハン様も機嫌が良く、稽古もつけてくれるし、辺境伯様のご病気がただの腰痛だった事も身内の特権で教えてもらえたし、良いこと尽くしだったのだけれど――。

 学園から帰ってくると、執務室に呼ばれた。
 扉を開け、まず視界に飛び込んできたのは床に散らばった書類。それから、書類を握り締め、真っ赤な顔でソファーにふんぞり返って座っている父の姿だった。

「アルドっ! お前は知っていたのか!?」

 父がテーブルに叩きつけたのは結婚式の招待状だった。それにはロジエ家に届いたものとは違い、姉とヨハン様の名前が記載されていた。
 人様の招待状をぐちゃぐちゃにしたのか。僕は溜め息が溢れそうになったけれど何とか飲み込んだ。

「グライン伯爵の家には、こんな招待状が届いたそうだぞ!」
「はい。先日父上からお預かりしました契約書にも、そう記載されておりました」
「な、何だと!? エイベルっ。エイベルを呼べっ」

 父が呼びつけると、エイベルは契約書を持ってすぐに現れた。
 多分、廊下で待っていたんだろうな。
 来るのが早すぎるよ。

「旦那様。契約書はこちらです。こちらを紛失もしくは消失されますと、違約金が発生いたしますので、お取り扱いにはお気をつけくださいませ」
「うるさいっ。早く寄越せっ!」

 父はエイベルから契約書と虫眼鏡を奪い取ると、読み始めて直ぐに舌打ちした。そして違約金に関する文面へ移行したのか、顔色がどんどん青白くなっていく。
 内容を読んで大人しく理解を示してくれればいいんだけれどな。

「父上。契約を結んでいただきありがとうございます。このような契約内容を取り付けることが出来たのは、父上の手腕のお陰です。この契約によって、今後のロジエの発展は約束されるようなものなのですから」
「はっ。こんな契約を結んだのは、相手が死にかけの辺境伯だと思ったからだ。それがヨハンだと言うのなら、この契約に書かれた優遇措置を今すぐに執り行うべきだ! そうだろう!?」

 父は当たり前の権利を主張していると言った顔で僕に同意を求めた。
 だからさ。契約書を読んでよ。
 
「それは如何なものでしょうか。契約書にもう一度目を通していただいて――」
「明日、アーノルトへ行く。ここまで馬鹿にされて黙っておられるかっ。もし要求に応じないなら、ベルティーナを連れ帰ってくる」
「そんな事をしたら、婚約を破棄することに為り兼ねませんよ」
「知ったものかっ!? こんな小さな文字で私を欺きおって。私の要望をはね除けようものなら、契約を白紙に戻させてやるっ」

 そんなこと出来る筈ない。
 ヨハン様、怒るだろうな。
 でも、式で騒がれるよりは、前もって黙らせておいた方が都合が良いとも言っていたな。
 
「父上。僕もお供致します」
「そうだな。明日、アーノルト辺境伯に必ず謝罪させてやろう」

 謝罪するのは父の方になるだろうけれど、僕はこの人の息子として、最後まで見届けようと心に決めた。
    
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