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1 修羅場になりましたが?

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 せっかくの晩餐会で婚約者とはぐれたら、探すでしょう?
 私も探したのよ。

 そうしたら、1時間弱くらいした頃に、フラッと広間に戻ってきたのよ。私の婚約者ビーコンズフィールド伯爵ジェラルド・レヴィーン卿が。なんとなく艶めいて、気怠そうな雰囲気で、目を潤ませて、襟と髪をちょっと乱し、あと唇にどちら様かの口紅をつけて。頬にはみ出しちゃったりしたままで。

 事後確定。
 ちょっと姿を見失ったと思ったら、脳みそドロドロになって戻っていらっしゃったわよ。


「……チッ」


 もう、ぷっつんよ。
 これでキレなかったら私はなんなのよ。

 でもここはお招きに与ったベッカム侯爵主催の晩餐会。お行儀よくしますとも。
 
 しれっと傍まで寄ってきたジェラルドにワインのグラスを差し出しながら、言ってあげた。


「ジェラルド様? お口に」

「ふぇっ? なんだい?」


 浮気をした上に馬鹿丸出しってどういう事?
 腹立つわ。


「ここに」

「んあ? なんだい、ロレイン。人前で馴れ馴れしく触るなよ」


 人影でどなたかと慣れ親しんで来た人は言うことが違うわね。
 私は、口紅を拭ってあげようとしたのよ。

 でも私に触られたくないみたい。
 今さっきまで触ってた相手に操立てちゃって、律儀ね。


「ちょっと外で風にでもあたっていらしたほうが」

「僕に指図するな! まったく、うるさいな君は!!」

「……」


 あらやだ、こんなにじっと我慢してさしあげているのに?
 喚いてあげてもいいのよ?

 沸々とこみあげる怒りをじっと耐えていると、ジェラルドが私にワイングラスを投げつけた。さっき渡してあげたやつ。もちろん入ってるやつ。

 あ、これ。
 ジェラルドもぷっつんキレたっぽい?

 浮気してきた分際で?
 

「あら。濡れた」

「もううんざりだ! その顔に騙された! 君はまったく可愛くない!! この婚約は破棄させてもらうッ!! んおっ!?」


 突然、誰かがジェラルドの肩を掴んだ。


「あ゛? 随分と勝手な言い草だな。間男野郎が」

「えっ?」

「ふえっ!?」


 私たちの間に颯爽と割って入ったその人は、グレイ侯爵令息。
 晩餐会の主催者であるベッカム侯爵、の親友、の息子。

 とてもドスの効いた声。
 凄い殺気でジェラルドを睨んでる。


「セシルに俺が〝できない〟イイコトしてくれたんだって? ア゛ァッ!?」

「ひえっ」

「はっ?」


 えっ、じゃあジェラルドのお相手ってセシルなの!?
 さっき私たち、グレイ侯爵令息とラングリッジ伯爵令嬢セシル・コンクエストの婚約発表に拍手したじゃない!


「嘘でしょ?」
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