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7 12人目の聖女と婚礼を

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 あの瞬間から私はおかしい。
 まるでノアに心を開いてしまったように、無意識に彼を探して、彼の姿を見つけると安心してしまう。私を助けて、私を守って、私の胸に刺さった棘を抜いた。

 私の罪は消えない。
 でも、痛みは確かに、ノアが奪い去ってしまった。

 彼はわかってくれた。
 私たちは同じものを見ているのだと、わかった。

 ノアの存在に、救われた。
 これは裏切りだ。
 でも、いい。仇討ちが済んだら、ノアを討って私も逝く。

 だから私たちは、仲睦まじく寄り添い続ける。


「初めての味はどうだ?」

「舌が蕩けそうよ」


 口にした事もない味の肉厚な鹿肉を咀嚼して、嚥下する。


「そんな目で睨むな。そいつはもう死んでる。そして煮られた」

「怒ってないわ。ただの罪悪感だから気にしないで」


 私たちが情熱的に愛しあっている事を、すべての国民に示さなければならない。将軍ノア・ラングフォードは籠の鳥だった聖女に世俗的な楽しみを味わわせ、女の喜びを惜しみなく与えている。朝・昼・晩。毎日。毎日。


「聖女だって外食するだろ」

「王族御用達の店で? まさか」


 貴族のように着飾って、祈りも捧げず贅沢な料理を優雅に味わう。これは食事ではない。享楽だ。能天気なふりはできない。でもやれるだけの事はやろう。目を細め、口角をあげた。


「いい笑顔だ。可愛いよ」

「ありがとう」

「将軍」


 給仕が次の皿を持って現れた。


「未来の奥方様へ、甘い焼き菓子をどうぞ」


 果物とクリームと花が盛りつけられた焼き菓子の存在は知っている。
 目の前で微笑むノアの表情を真似て、フォークを構えた。


「?」

「どうした? 大丈夫、きっと気に入る」

「なにか書いてあるわ」


 焼き菓子の下に、料理に添えるには厚すぎる紙が敷かれていて、明らかにインクが染みていた。焼き菓子が大きすぎて文字が見えないし、柔らかすぎて退かす事もできない。
 私は甘い焼き菓子を頬張るしかなかった。

 ノアは嬉しそうに私を笑顔で見守っているものの、紙の存在には気づいている。
 やがて文面が読めるまでになると、ノアが囁いた。


「部下からだ」


 焼き菓子でいっぱいの口を動かし、美味しさに感動しているような顔で頷く。


「預言者ヨエルが新しい12人目を選ぶ。エルシィ、今夜、婚礼の宴を開くぞ」

「ふぇ!?」

「生贄を選ぶよりお前の純潔を確かめると言い出す前に、俺の妻にする。美味いだろ? 手伝ってやる。早く食え」


 ノアの言う事は尤もだった。
 私たちは料理を平らげ、汚れた紙を丸めて握りしめ席を立った。


「でも12人目はどうするの? 助けてくれる?」

「まずはお前だ。二度と同じ過ちは犯さない」

「?」
 

 過ち?

 気になるものの、一刻を争う事については同じ意見だ。
 私はノアの妻になり、力を得る。聖女ではなく将軍の妻に。そして王族になる。預言者ヨエルにはもう手が出せない。
 
 時が来たのだ。
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