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4 私たちの望むもの

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「はあっ!? 〝僕をうっとり見つめて頬染めて笑え〟ですって!? まったく、お姉様に向かってどの面下げて……たまたま母親に似て美形に生まれてきただけじゃない! 老けたら禿げるくせに!」

「私たちは禿げない」

「ええ、そうよ! あの身の程知らず。こっちは王家に恐れられる美貌だっつーの!」

「表情豊かな分、私よりあなたのほうが皴が──」

「黙れ」


 ユリアーナを怒らせるのは楽しい。
 

「あっ。お姉様、今、ちょっと笑った……!?」

「私、笑ってた?」

「それを知りたいのは、私よ」


 血の気が多いユリアーナであれば、王女と殿方を取り合って血祭にあげたりできるかもしれない。想像すると、楽しい。


「……ねえ、やっぱりちょっと笑ってるわよね? もしかして、お姉様、あいつ嫌いだった? 婚約破棄が嬉しいの?」

「順番に答えると、わからない・そう・そう」

「自分の気持ちくらいわかるでしょう!?」

「顔は気持ちじゃない」

「あ、そうね。……ん?」


 なにか腑に落ちない様子だけれど、問題ない。
 双子だからすべて理解しあえるだなんて幻想は、5才の頃に捨てた。妹があまりにも私とは違い過ぎて。


「まあ、いいわ。でも惜しいわね。アルビン伯領って大きな湖があって綺麗だって聞くし、もし結婚していれば夫の頭は悪いけど住むのはお城でしょ? 勝手に転ぶとかで先に死んでくれれば全部私たちのもの──ハッ!」

「ユリアーナ、これ美味しいわ。半分こしましょう。刻んだオレンジの皮が……ふぅん……なるほどね」

「お姉様!」

「ビルギッタ、このオレンジの皮が入っているの美味しいわ。また焼いて」

「ええ、お嬢様。喜んで♪」

「お姉様聞いて! ビルギッタ黙って!」

「はぁ~いハイハイ、黙りますよぉ~。でもお嬢様、黙る前にひとつだけ言わしてくださいまし」

「なによ」

「このクリームを塗ると、二度美味しい♪」


 ビルギッタの言う通り、こうして3人で過ごすティータイムが永遠に続けばいいのかもしれない。


「ユリアーナがなにを考えているかわかるわ」


 私はマフィンにクリームを塗った。


「本当?」


 ユリアーナの知りたいのは、クリームを塗ったあとのマフィンの味ではない。


「私もそう思った事がある」

「やっぱそうよね?」


 私は親指がべとつくのも気にせず、マフィンを割った。そして片方を口に含む直前、ユリアーナを促す。


「言ってみて?」

「私があのアホの理想の妻を演じてアルビン伯領を手に入れる!」


 言うと思った。


「んまあっ!」


 ビルギッタは心底驚いた様子。
 異様に煌めく瞳で明後日の方向を向いたユリアーナの口に、私はマフィンを押し込んだ。


「ゴフッ……やだ、ビルギッタ。これ本当に美味しいわ……!」

「あら、やだ、まあ、本気ですかッ?」

「本気よぉ。あなた天才ね」


 噛み合ってはいない。
 でも、気にするほどの事でもない。


「ユリアーナ。クリームを塗っていないほうも」

「待って。お姉様、先に紅茶を」

「そうね。ベリエスを誘惑するなら大袈裟に可愛いふりをするといいわ」

「馬鹿言わないで。私はこのままで最高に可愛いわよ」

「怒ってる時間が長い」

「怒っても可愛いの!」

「私が魚なら、あなたは熊ね」

「やめてぇ~? せめて栗鼠って言ってぇ~?」

「それを言うなら猫よ。この泥棒猫。2分半も早く生まれた私から婚約者を奪おうって言うのね」

「ええ、そうよ! 悔しいか! ざまぁみろ!! ……あの、お姉様、今の冗談よね?」

「お芝居してみた」

「そうよね、よかった」


 本当に仲がよろしい事、と、ビルギッタが感極まった様子で呟いた。
 離れ難い気持ち、わかるわ。
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