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10 止め処なき試練の果て
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「ユリアーナはどうやって赤ん坊ができるか知らないんだ! 自分の股から出てくる事も知らない! 愛しあっていれば鳥が運んでくるものだと信じ切って待っているんだッ!! いくら可愛くても我慢の限界だッ!!」
私も、楽しくても我慢の限界。
唾を避けるために、背後へステップしすぎて壁際に追い込まれてしまった。
切り返さなくては。
「でも、そういう純真無垢なあの子が〝理想の妻〟と仰いましたわね? お幸せじゃありませんこと?」
「馬鹿を言うな! 純粋にしても度が過ぎるよ! あれじゃ僕の娼婦じゃなくて僕の幼女だ!! これは君らトイファー伯爵家の教育の問題だ! 『おかぁたまに会いたいわ。あれっきり御手紙もくだたらないのよ? なんだか怒ってるみないなの。ベリたん、あたちをおうちへつれてって?』なんて言われて、じゃあこの際ケリをつけてやろうってこうしてわざわざ来たんだよ!!」
「あなたに頼り切って、実に可愛い」
「可愛くても我慢の限界だって言ってるだろ!? 元はと言えば君のせいだぞ!? 君に多少の可愛げさえあれば僕はこんなにヤキモキせずに済んだんだ!! 責任を取って、母親と二人掛かりでユリアーナを教育し直せッ!!」
「ご期待に沿えるとは思えませんわ。オホ」
「誰が期待なんかするかッ! これは正当な命令──えっ、君、今笑った?」
恋をすると、表情が豊かになるものなのよ。
あなたも私にとって期待外れの婚約者だった。
そう言ってやりたい気持ちは山々だったものの、ぎょっと目を見開いた愚義弟の顔が面白くて、満たされた。
私は口元を手で隠し、目を伏せた。
一瞬の沈黙を待ち構えたように、父が玄関広間に現れた。
「ベリエス卿、なにを? それは貴殿が突っ返した姉のほうですぞ。いくら同じ顔だろうと、夫たるもの判断がつかないとは、さすがに親として心外ですな」
自分だって見分けがつかなくて困惑していたくせに、よく言うわ。
でも、登場には感謝する。
これでも父なのだから、役に立ってもらわないと。
「いや、義父さん。違います。これには訳があるんです」
「ほう。どんな」
「男親には話したくありません!」
「連絡もなしに突然現れてそれか。とんだ無法者の義息子を持ったものだ」
「ああそれはすみませんでしたねッ!」
男同士の話が始まったので、私は迅速にその場を離れ、私室に向かった。
「あーん、お姉様ただいま! もうもうっ、素敵なお相手じゃないのッ!」
「ビルギッタ……?」
あまりにも浮かれた様子のユリアーナが、まるでビルギッタのような勢いで、驚いた。
「ああ、もうっ、1年ぶりでございましょう!? 毎日見ているお顔のはずなのに、やっぱり懐かしく感じて涙がこみ上げましたよッ!!」
「やだもうっ、ビルギッタったらありがとうっ! 私も会いたかったわッ!!」
「お嬢様っ! ああ、ごめんなさいもう奥様でしたね! 奥様だなんてキャアアァァァァッ!!」
「キャアアァァァァッ!!」
私がいてもまだ感動の再会を続けているユリアーナとビルギッタの前を素通りして、奥でカップ片手に寛いでいるフィリップの向かいに座った。
「顔が同じだから見分けがつかないってよく言われたけれど、そうでもないわね」
「楽しいよ。さっきからあの調子だ」
「私には真似できないわ」
「君のほうが楽しいから安心して」
「お姉様! 〝おかえり〟って言ってもらうの待ってるんだけどもういいわ! いつもの事だし、この感じが欲しかったのよ!!」
「ユリアーナ、おかえ──」
仲良し3人組が、仲良し4人組へと進化した記念すべき瞬間かと思われた、その時。
ユリアーナの驚くべき発言に、私たちは凍りついた。
「妊娠した。だから、交代して?」
私も、楽しくても我慢の限界。
唾を避けるために、背後へステップしすぎて壁際に追い込まれてしまった。
切り返さなくては。
「でも、そういう純真無垢なあの子が〝理想の妻〟と仰いましたわね? お幸せじゃありませんこと?」
「馬鹿を言うな! 純粋にしても度が過ぎるよ! あれじゃ僕の娼婦じゃなくて僕の幼女だ!! これは君らトイファー伯爵家の教育の問題だ! 『おかぁたまに会いたいわ。あれっきり御手紙もくだたらないのよ? なんだか怒ってるみないなの。ベリたん、あたちをおうちへつれてって?』なんて言われて、じゃあこの際ケリをつけてやろうってこうしてわざわざ来たんだよ!!」
「あなたに頼り切って、実に可愛い」
「可愛くても我慢の限界だって言ってるだろ!? 元はと言えば君のせいだぞ!? 君に多少の可愛げさえあれば僕はこんなにヤキモキせずに済んだんだ!! 責任を取って、母親と二人掛かりでユリアーナを教育し直せッ!!」
「ご期待に沿えるとは思えませんわ。オホ」
「誰が期待なんかするかッ! これは正当な命令──えっ、君、今笑った?」
恋をすると、表情が豊かになるものなのよ。
あなたも私にとって期待外れの婚約者だった。
そう言ってやりたい気持ちは山々だったものの、ぎょっと目を見開いた愚義弟の顔が面白くて、満たされた。
私は口元を手で隠し、目を伏せた。
一瞬の沈黙を待ち構えたように、父が玄関広間に現れた。
「ベリエス卿、なにを? それは貴殿が突っ返した姉のほうですぞ。いくら同じ顔だろうと、夫たるもの判断がつかないとは、さすがに親として心外ですな」
自分だって見分けがつかなくて困惑していたくせに、よく言うわ。
でも、登場には感謝する。
これでも父なのだから、役に立ってもらわないと。
「いや、義父さん。違います。これには訳があるんです」
「ほう。どんな」
「男親には話したくありません!」
「連絡もなしに突然現れてそれか。とんだ無法者の義息子を持ったものだ」
「ああそれはすみませんでしたねッ!」
男同士の話が始まったので、私は迅速にその場を離れ、私室に向かった。
「あーん、お姉様ただいま! もうもうっ、素敵なお相手じゃないのッ!」
「ビルギッタ……?」
あまりにも浮かれた様子のユリアーナが、まるでビルギッタのような勢いで、驚いた。
「ああ、もうっ、1年ぶりでございましょう!? 毎日見ているお顔のはずなのに、やっぱり懐かしく感じて涙がこみ上げましたよッ!!」
「やだもうっ、ビルギッタったらありがとうっ! 私も会いたかったわッ!!」
「お嬢様っ! ああ、ごめんなさいもう奥様でしたね! 奥様だなんてキャアアァァァァッ!!」
「キャアアァァァァッ!!」
私がいてもまだ感動の再会を続けているユリアーナとビルギッタの前を素通りして、奥でカップ片手に寛いでいるフィリップの向かいに座った。
「顔が同じだから見分けがつかないってよく言われたけれど、そうでもないわね」
「楽しいよ。さっきからあの調子だ」
「私には真似できないわ」
「君のほうが楽しいから安心して」
「お姉様! 〝おかえり〟って言ってもらうの待ってるんだけどもういいわ! いつもの事だし、この感じが欲しかったのよ!!」
「ユリアーナ、おかえ──」
仲良し3人組が、仲良し4人組へと進化した記念すべき瞬間かと思われた、その時。
ユリアーナの驚くべき発言に、私たちは凍りついた。
「妊娠した。だから、交代して?」
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