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11 驚くべき真実について

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 かなり長い沈黙を経て、


「はっ!?」


 と声を上げたのは、ビルギッタ。
 やはり、頼りになる。


「コウノトリはどうしたの?」


 私が問いかけると同時に、フィリップがカップを置いた。
 ユリアーナが仰のいて大声で笑った。


「アッハッハッ! いやだ、お姉様ったらコウノトリなんか信じてるの? あなた苦労するわね!」


 ユリアーナがテーブルに寄ってきて、フィリップの肩を強く叩いた。フィリップはわずかに眉を上げ、カップを凝視した。大丈夫。零れていないわ。


「いえ。あなたの作戦の話」


 座ったまま見あげる私とそっくり同じその顔が、少し、浮腫んでいる気がした。
 上機嫌なユリアーナはビルギッタの焼いたアーモンドクッキーを鷲掴み、屑が散るのも構わずに獣のような勢いで食べ始める。そして食べ散らかしながら、こんな話をしてくれた。


「それを聞かせたくて帰ってきたのよ! 笑えるの! びっくりして目を回しちゃうかも! 結婚して四日目か五日目くらいの朝にね、アルビン伯爵が早朝ぬっと現れて言ったの。『君、それは芝居か? それとも本気なのか?』って。ヤバッ、と思ったわよ! 冷や汗どころじゃないっつーの。でもね、……ああコレを言いたかった! 義父はこう言ったのよ! 『ベリエスは妻のコウノトリが連れて来たんだ』って!!」



  ~~~ある朝、アルビン城にて~~~


「まあっ、それは素敵な思い出ですねっ。うきゅっ♪」

「妻も『うきゅ』と言っていた。『みゅ』と『キャハ』もね」

「ええ……」

「子作りどころかキスさえままならないうちにアレが産まれた。そう、私の子ではないんだよ。なんてったってコウノトリが連れて来たんだから。わっはっは」

「……キャハ」

「君は妻に似てる。そして息子は馬鹿だ。だから騙されたふりができない。そこで君に確かめておきたい。君の、それは、本気か? 本気なら私から話す事はもうない」

「……」

「……」

「……でしたら、つまり、お義父たまは、血の繋がりがないとわかっていて私のお姉たまとベリたんの婚約を許したわけ?」

「そうだよん」

「最っ悪」

「そう気にする事じゃない。血が繋がってるかどうかなんて、外見や声が似ているかどうかでしか判断つかないものだし、そもそも似ていない親子なんてザラだ。それにその辺の捨子を拾って来て跡継ぎにする貴族だって、少なくないだろう? どの家だって跡継ぎが必要だ」

「(ジッ)……」

「まあ、お相手に黙っているのは気が引けたさ。私も人間だからね」

「ええ」

「だがあの馬鹿と結婚しようって女なんて財産目当てじゃなきゃ同じ馬鹿だろうッ? お似合いじゃないか! 断られるならそっちからだろうと思っていたのに、驚いたよホッ。まさか姉妹間で交代して肝の据わったほうが堂々とやって来るなんてヘッ」

「笑ってんじゃないわよクソ髭チョビン爺」


  ~~~以上、要約おわり~~~



「そうしたら髭チョビンなんて言ったと思う!? 『同じくらい狡猾なお嫁さんが来て後ろめたさもスパッと晴れたよ』ですって!! ウケるぅ~♪」


 妹であり野獣でもあるユリアーナは完食し、くるりとビルギッタのほうへと振り向いた。


「終わっちゃった。まだないの?」

「えっ。あ、まあ……あ、り、ま、す、け、ど」


 ビルギッタの狼狽えっぷりときたら、私とフィリップの分も一人で背負い込んだかのように、真っ青で汗だく。けれど妊婦には慣れているようで、


「マスのマリネをお持ちしましょうか?」

「ええ! 酸っぱいお魚大好き!!」

「少々お待ちを!」


 逃げるように、飛び出て行った。

 
「でね! お姉様!!」


 私には、逃げ場はない。
 フィリップが手を伸ばして私の手を包んでくれたけれど、それも、励ましているのか恐がっているのか、定かではない。


「私は〝コウノトリを信じた可愛いユリアーナ〟のままなのよ!」

「妊娠はしない」

「そう!」


 相槌を打ったのは、私ではなくフィリップ。
 私はこの場の交渉を彼に任す事にして、ユリアーナを見つめていた。


「だが君は産みたい」

「そう!」

「妊婦ではない妻が帰らなくてはいけない」

「ええ、そう!!」


 話はわかった。
 ユリアーナが新しい命を授かったのはとても素晴らしい事だし、産みたいと思うのも当然で、私もぜひ姪を抱きたい。もしくは甥。
 だけれども、アルビン伯爵家に嫁いだ純真無垢なユリアーナが身篭る事は、ありえない。

 そしてユリアーナは、言い出したら曲げない性格。
 これは相談でも交渉でもなく、決定した作戦の極めて正確な伝達。


「……いいけど、父親は誰なの?」


 そこは明確にしておきたい。
 そこが明確になった後に、産まれた子はどうするのかという極めて重大な問題が控えている。


「あぁん。それは心配しないで」


 ユリアーナは手をひらひら。


「それは無理よ」


 私の視界は霞んでゆらゆら。


「大丈夫なの! アルビン伯爵お墨付きのダーリンだもの!」

「誰だい?」


 ありがとう、フィリップ。
 限界だった。


「アルビン伯爵」

「髭チョビンの義父?」

「そうよ!」

「本人?」

「だからそうよぉっ! 私、正式なアルビン伯爵の跡継ぎを産むの!! アルビン伯領は私のものよぉ~っ♪」


 両手を挙げてクルクル回る愉快なユリアーナがいくら私と同じ顔をしていたとしても、この日この瞬間ばかりは双子の姉妹とは思えなかった。
 

「やだぁ! お姉様が眉を寄せて困ってるぅっ! きゃわいィィィィィィィッ!!」

「たすけて……」


 フィリップに、助けを求めた。

 淡い期待は無残にも打ち砕かれる。
 彼も限界だった。
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