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6 髪が伸びるまで待って
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「あぁ……アン王女、来てくれたね……」
「陛下」
カミーユの父バレク国王は寝台で衰弱していた。
「可愛いアン王女の顔を見たら……まだ生きられそうな気がしてきたよ……」
「ええ。そうですよ。これからです」
「どうか……ずっとカミーユの傍にいてくれ」
「もちろん、ずっとここにいます」
「ありがとう……」
そして、バレク国王は静かに眠りに就いた。
そして空腹で目を覚まし、食事を摂れるようになり、回復していった。
「どうしよう、アン! 船が! 戦艦が見えるんだ!!」
「本当?」
一難去ってまた一難。
バレク国王が順調に回復しているというに、完全復活を待たずしてミルスカが攻めて来たのか。そう思った。けれど人だかりに交じって水平線を眺めた私は、ほっと胸を撫でおろした。
「アン?」
「カミーユ。あれは兄の戦艦よ」
「え!? シモンの兵!?」
「それと神殿兵」
「ブラッドまで……!」
双眼鏡で確認した。
兄はミルスカとの交戦に早くから備え、海軍を結成し強化してきた。逆に弟のブラッドは早くから聖職者の道へ進んだものの、結局、神殿で神殿兵を結成し軍神の旗を立て頭角を現していた。
「凄い。トラウゴット王国には軍神とその兵団がいる。君は神の王女なんだね」
「大きくなり過ぎたわ。ミルスカから学び、悪の道に堕ちないようにしないと」
「大丈夫だよ」
「ブラッドが来たのかしら。顔を見るのはもう……何年ぶりか忘れちゃったわ」
「私も久しぶりに会う。楽しみだ」
港に集まったバレク国民は一様に喜び、笑顔で散った。それから歓迎の準備に奔走し、まるでお祭りかのような騒ぎを3時間ほどで整えてしまった。
国王も回復してきているから、浮かれている。
気を引き締めないと。
兄が率いるトラウゴット海軍が神殿兵まで乗せてくるという事は、やはりミルスカ帝国が迫っているという事なのだから。
私とカミーユも出迎えの準備を整えた。
特にカミーユは国王の代理を務める初めての公務になる。
「ああ、シモンかな。ブラッドかな」
「兄にとっては、あなたが兄みたいなものだもの。守り切るわよ」
「アン」
ふと真顔になってカミーユが声を落とした。
「もう海で戦わないで欲しい」
「仕方ないわ。戦いさえ終わればまた漁もできる」
「違う。君に戦ってほしくない」
「ああ、その事」
私はカミーユの胸に頭を預け、こすりつけた。
カミーユがすかさず私の頭を撫でる。
「私はあなたを守る。あなたの傍で、バレクを守るわ」
「バレクは幸いだ」
「そうね」
カミーユと初めて会った瞬間から、私は恋をしていた。
私のすべてを包み込んでくれる、彼の大きな愛。カミーユの傍を離れるなんて考えられない。私は死んでも離れない。天国とこの世で引き裂かれるわずかな時間だけが、私たちを阻める。
「早く伸びないかな」
「鬘でいいのに」
「いけないよ。アン、君の美しい髪でないと」
うなじで私の毛先を指で梳いて、カミーユが切なそうに呟く。
結婚式を、私の髪がもう少し伸びてから行う事になったからだ。私は鬘でいいと言ったのだけれど、バレクには私のような栗色の髪が少ない。漆黒かもっと赤茶けた色がほとんどで、わずかに金髪の人がいるくらいだ。
「待てる? 結えるようになるまで1年はかかるのよ?」
「ああっ、悩ましい……!」
カミーユが苦悶している。そんな姿も、本当に愛しい。
結局、弟のブラッドが軍神を気取って髪を伸ばしていた事が幸いした。ブラッドも祖父からの隔世遺伝で同じような髪色と髪質なのだ。ブラッドの髪を切り、私の髪と結わき合わせなんとか女性らしく結ったり飾ったりして、結婚式となった。
そう、私はカミーユと結婚したのだ。
とても幸せ。この幸せを守ってみせる。命を掛けて。
(終)
「陛下」
カミーユの父バレク国王は寝台で衰弱していた。
「可愛いアン王女の顔を見たら……まだ生きられそうな気がしてきたよ……」
「ええ。そうですよ。これからです」
「どうか……ずっとカミーユの傍にいてくれ」
「もちろん、ずっとここにいます」
「ありがとう……」
そして、バレク国王は静かに眠りに就いた。
そして空腹で目を覚まし、食事を摂れるようになり、回復していった。
「どうしよう、アン! 船が! 戦艦が見えるんだ!!」
「本当?」
一難去ってまた一難。
バレク国王が順調に回復しているというに、完全復活を待たずしてミルスカが攻めて来たのか。そう思った。けれど人だかりに交じって水平線を眺めた私は、ほっと胸を撫でおろした。
「アン?」
「カミーユ。あれは兄の戦艦よ」
「え!? シモンの兵!?」
「それと神殿兵」
「ブラッドまで……!」
双眼鏡で確認した。
兄はミルスカとの交戦に早くから備え、海軍を結成し強化してきた。逆に弟のブラッドは早くから聖職者の道へ進んだものの、結局、神殿で神殿兵を結成し軍神の旗を立て頭角を現していた。
「凄い。トラウゴット王国には軍神とその兵団がいる。君は神の王女なんだね」
「大きくなり過ぎたわ。ミルスカから学び、悪の道に堕ちないようにしないと」
「大丈夫だよ」
「ブラッドが来たのかしら。顔を見るのはもう……何年ぶりか忘れちゃったわ」
「私も久しぶりに会う。楽しみだ」
港に集まったバレク国民は一様に喜び、笑顔で散った。それから歓迎の準備に奔走し、まるでお祭りかのような騒ぎを3時間ほどで整えてしまった。
国王も回復してきているから、浮かれている。
気を引き締めないと。
兄が率いるトラウゴット海軍が神殿兵まで乗せてくるという事は、やはりミルスカ帝国が迫っているという事なのだから。
私とカミーユも出迎えの準備を整えた。
特にカミーユは国王の代理を務める初めての公務になる。
「ああ、シモンかな。ブラッドかな」
「兄にとっては、あなたが兄みたいなものだもの。守り切るわよ」
「アン」
ふと真顔になってカミーユが声を落とした。
「もう海で戦わないで欲しい」
「仕方ないわ。戦いさえ終わればまた漁もできる」
「違う。君に戦ってほしくない」
「ああ、その事」
私はカミーユの胸に頭を預け、こすりつけた。
カミーユがすかさず私の頭を撫でる。
「私はあなたを守る。あなたの傍で、バレクを守るわ」
「バレクは幸いだ」
「そうね」
カミーユと初めて会った瞬間から、私は恋をしていた。
私のすべてを包み込んでくれる、彼の大きな愛。カミーユの傍を離れるなんて考えられない。私は死んでも離れない。天国とこの世で引き裂かれるわずかな時間だけが、私たちを阻める。
「早く伸びないかな」
「鬘でいいのに」
「いけないよ。アン、君の美しい髪でないと」
うなじで私の毛先を指で梳いて、カミーユが切なそうに呟く。
結婚式を、私の髪がもう少し伸びてから行う事になったからだ。私は鬘でいいと言ったのだけれど、バレクには私のような栗色の髪が少ない。漆黒かもっと赤茶けた色がほとんどで、わずかに金髪の人がいるくらいだ。
「待てる? 結えるようになるまで1年はかかるのよ?」
「ああっ、悩ましい……!」
カミーユが苦悶している。そんな姿も、本当に愛しい。
結局、弟のブラッドが軍神を気取って髪を伸ばしていた事が幸いした。ブラッドも祖父からの隔世遺伝で同じような髪色と髪質なのだ。ブラッドの髪を切り、私の髪と結わき合わせなんとか女性らしく結ったり飾ったりして、結婚式となった。
そう、私はカミーユと結婚したのだ。
とても幸せ。この幸せを守ってみせる。命を掛けて。
(終)
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