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 初日までの4日間、日高は多忙を極めた。番組宣伝で朝から昼過ぎまでバラエティー番組を回り、夕方からはリハーサル、夜はラジオの生放送にゲスト出演。雲田や長谷も同行することがあったけれど、すべてではない。私は目の回る忙しさに、自分でも気づかないまま失神してしまうのではないかと不安だった。今までは、決められたスタジオでアーティストの到着を待ち、メディアに送り出すまでの短い時間が私の闘いだった。楽な仕事ではないけれど、日高と行動を共にするうちに痛感した。
 煌びやかな世界の裏で努力するというのは、命を削ることだ。
 私には、とてもまねできない。

 忙しいけれど、苦しくはなかった。収録を見守るのは心が浮き立つし、特に主役の3人がラジオでテンポよく会話を弾ませていたのは、聞いていて本当に楽しかった。

 ひとつ残念なことをあげるなら、ミーチャと顔をあわせる時間はぐんと減ってしまった。リハーサルの間は彼も私も真剣に舞台を見ているし、終われば演出の指示が入り、日高は慌しく劇場を出る。視線があって、お互いに笑顔で数秒、遠くから挨拶できればいいほう。彼と今以上の関係になるとは夢にも思わないけれど、もう少しと欲が出てしまいそうになる。

 でもだめ。
 長くても、公演が終われば北の大国へ帰るひとなのだから、あまり心を投げ渡してはあとが辛くなる。
 けれど、ただ、喜ぶだけならいいでしょう? 

 私は自分を甘やかす。この頃、私のほうから彼の視線に気づくことが増えた。増えたといっても、そう頻繁ではないけれど。特別な感情はないとわかっていても、懐かれているくすぐったさが心地いい。耐えられなくなって、何かと用を見つけ目を逸らすのも私。長谷を羨む気持ちも消せないけれど、彼女の人生と、私の人生はまったく別のものだとわかっている。

 私は、ただ静かに、時間を重ねていければいい。
 でも写真くらいあっても罰はあたらない。私は、公演の中日を過ぎて、千秋楽までの高揚に支配され始める前に、一枚だけふたりで撮らせてもらおうと決めていた。共に舞台に携わった仲間として、友人として。長谷に頼めば、快く引き受けてくれるだろう。

 夜11時半にラジオ局を出た。日高は、私のために駅までスタッフの車を回してくれる。本来そんなことまでしてもらうような立場ではないけれど、はじめは自宅まで送ると言うところから始まり、それをなんとか断って、俺が安心できない、古賀ちゃんが乗らなきゃ俺も乗らない、というお説教と脅しを足して二で割ったような宣言を受け、駅まではご厚意に甘えるということで落ち着いたのだ。

「お疲れ。今日もありがとね」

 人目を気にして、私は毎晩、大急ぎで車を下りる。日高もそれは承知していて、急ぐために少しぞんざいな口調になった。でも必ず、私の腕や肩に優しくふれる。気持ちは嬉しいけれど、それを指先までされてしまうと、写真を撮られたときに言い訳がきかないとわかっているから、私はなおさら焦ってしまうのだった。

 改札を通る直前、忘れ物に気づいた。手帳がない。仕事用ではなく、プライベートの方だ。たいした秘密もないけれど、通院の予定や数値のメモ、薬局の領収証なども数回分入っている。たしか、今日は、劇場を出る前にトイレの個室で薬を飲んで、そのときに開いた。明日、初日を迎える。処方された分の薬で乗り切れることを確かめ、安心したかったのだ。服を直す間、後ろの台に置いた気がする。他の場所は考えられない。
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