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077 Дмитрий

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 我に返る。僕は、何をしていたんだ。

 まりえを立たせ肩を抱いた。傷口はすぐに、僕が舌をあてた直後、塞がっている。舌で肉がくっついていくのを感じた。彼女は、たぶん病気のせいで治癒能力が低いままなのだろう。僕は、彼女の薬だ。
 ひとまず、侵入者を排除するしかない。
 まりえは腕の中でふるえている。

「言ったよ。僕は悪人だ。逃げるなら、タツオのところだよ」

 壁際に寄せた荷物から手早く銃を取り出し、一丁を腰にさした。まりえは息を止めたが、しがみついてくる。なにしろ、警報が鳴り響くなか頼れるのは僕だけだ。窓を見ても狙撃の気配はない。だが、離れていた方が安全だ。インターホンの脇の装置で液晶をひらき、破られたセキュリティーがどこか探る。屋上だ。距離は近いが、ここの住人は一人ともれず戦闘経験があるはずだと思うと、気が休まった。何より、僕は不死身だ。

「大丈夫。怖くないよ」

 ふるえる細い肩をしっかりと抱きこみ、優しく囁く。

「こんなことからも、君を守るんだ。僕がね」

 気づくと、頭のてっぺんに頬擦りをしていた。いけない。もっと大切に、丁重にお守りしないと。
 唐突に警報が止んだ。まりえが、不安そうに僕を見あげた。僕の服をつかんでふるてている小さな拳を見ていると、想いがこみあげ、ぐっと奥歯を噛んでこらえる。

 僕は、踏みとどまれる。

 受話器が鳴った。外線電話ではない。通信機能が自動的に切り替わり、張りつめた空間に懐かしい声が流れた。

《ごめん、僕だよ》

 力をぬき、溜め息をつく。構えていた銃もいちばん近かった台所の棚に置き、まりえの顔をのぞきこむ。

「弟だ。味方だよ」

 彼女は言葉を失くし、ただ頷いた。

《荷物が多いんだ。担いで下りるから、合図したら開けて》

 通信が切れる。応答しなくても、向こうは向こうで僕の無事を確認できているからだ。まりえは完全に硬直してしまったが、僕がうながすとゆっくり従ってくれた。椅子じゃかわいそうだ。柔らかいソファーに並んで座り、腕をさすった。

「ごめんね。びっくりしたね」

 撫でる僕の手をとめて、まりえは口をぱくぱくさせた。何か言おうとしている。いろいろ言って宥めていると、きゅっと指を握られた。ああ、小さな手。なんて可愛いんだ。

 彼女ははじめ、日本語で何か言った。僕は答えられず、わからないよと伝えるのも躊躇われ黙っていた。うつむいて下に流れる髪や、小さな胸のふくらみ、細い鼻筋を見おろしていると、キスしたくなる。
 流されては駄目だって、叱られたばっかりだっていうのに。
 でも、僕は踏みとどまれる。

 大切なひとだから。
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