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6 強靭たる天真爛漫の功罪

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「どっ、どどどっ、毒!?」

「まだ断言はできないが、今、さっきの唾液に中和作用があるか検査している」

「中和……」

「中和というのは、毒性のある物質に対して、その毒性を無効化し──」

「言葉の意味はわかってます!」


 私、毒殺されたわけ?
 で、効き目が微妙で起きたわけ?
 

「あらぁ……あなたぁ……。本当に頑丈でよかったわねぇ」


 伯母はご満悦。
 なぜか、涙ぐんでる。


「アリシア、なにか如何わしいモノを口にしたとか、酒だと思って妙なモノを飲んだとか、興味が沸いて謎の植物を食べたとか、そういう覚えは?」

「馬鹿にしてる……?」

「念のため事故の可能性を示してみた。毒殺は女の手口として有名だ」


 言葉に詰まっちゃうわ。
 私が馬鹿で変なモノを口にしていなかった場合、面識のある女の誰かが私に毒を盛ったって事なんだもの。

 今までぼんやりとしていて見ないふりをできたものが、急に形を持って主張してきた。私、勝手に死にかけたんじゃなくて、誰かにむりやり殺されかけた。


「……」


 誰よ、そいつ。
 許さない。


「誰か君を恨んでいる女は?」

「この子は天真爛漫なとってもイイコです! 恨むような馬鹿がいますか!!」

「伯母様、黙ってて」


 ルシオ卿が逡巡して、


「気の弱い女に強めな言葉をかけたとか」

「……」

「綺麗好きな女の前で、げっぷしたとか」

「……」

「物静かな女の傍で煩くしたとか」

「……」


 すごく身に覚えのある事を言い出した。


「そんな事で?」


 伯母はまた憤慨。
 ルシオ卿はしれっとしたもので、


「毒殺なんてつまらない事を考える女は、どんな些細な事だろうと自分への攻撃と捉えて恨むものです。注目すれば恐がり、存在を無視すれば泣いて癇癪を起こし、謝れば媚びていると受け取り、距離を取ると裏切り者と詰る」

「なんだか身に覚えのある感じね」

「昔、いろいろね」


 たぶん、ルシオ卿は嫌われてただけ。
 

「そんな、面倒くさくてひねくれた性格の知り合いなんて……」

「……」

「……」


 どうしよう。
 いたわ。


「嘘でしょう?」


 伯母も、同じ事を考えたみたい。


「どうやら心当たりがあるようだ」


 ルシオ卿だけ、楽しそう。


「ありきたりな毒殺は面白味の欠片もないが、毒薬を凌駕した君の体と、君の体に完敗した毒薬の正体が気になって仕方ない!」


 盛り上がっちゃったし。
 まったく、人の気も知らないで。


「行こう! 見果てぬ探求の旅へ!!」

「ああ、神様……」


 伯母が私の気持ちをほぼ代弁して、天井を仰いだ。
 きっと、複雑な気持ちなんでしょう。

 でもね、伯母様。
 私だけ、当事者なのよね。


「くっそ……」


 純然たる怒りがこみ上げて、体がメラメラ燃えちゃいそうよ!
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