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10 お姫様はひとりでいい

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「お母様」

「?」


 階段あがった廊下の角で捉まえた。
 

「私に毒を盛ったわね?」

「……あなた、なにを言っているの?」


 まあ、白を切るでしょうね。


「あれだけハッキリ顔色を変えておいて、『私は無実』とでも言うつもり?」

「自分が特別だと思いたくて仕方ないのね」

「それは御自分なのじゃなくて?」


 父の目がない所では、わりとズケズケものを言うのよ。この女は。


「私が仕返しでお母様を殺すと思う?」

「馬鹿な事を言ってないで、もう寝なさい」

「こどもじゃないのよ」

「知ってます。じゃあ、私、忙しいので」

「チッ」


 娘を亡き者にしようとしておいて、逃げようっていうの?
 どこまでも根性が腐っちゃって、本当に我が母親ながら軽蔑しかない。


「ルシオ卿だってお母様を怪しんでるわ。どこに隠したか知らないけど、私にこっそり飲ませたか嗅がせたか塗ったかした毒薬を見つけ出したら、お母様は終わりよ」

「……」

「なんと言っても国王陛下が御存じだものね。今回の件は、王宮が興味津々の奇跡。それが母親による子殺しだったなんて知れ渡りでもしたら……お母様、凄い勇気。感心しちゃう」

「!」


 唐突に振り向いた母が、私を押した。


「わっ」


 階段のほうに向かって。
 あ、これもう殺すつもりですね。

 でも、腕力じゃそんなもんよ。
 せいぜい私が尻もちつくくらい。階段の、はるか手前でね!


「お母様、やりやがったわね」

「黙って聞いてれば生意気な……!」


 いやいやいやいや。
 娘を殺そうとした女に、生意気とかそういう小さい事をグダグダ言われたくない。

 さあ、化けの皮がメリメリ剥がれるわよ。


「あんたは昔っから私に反抗的で、産んでやったのに私からありとあらゆるものを奪っていった……! ダニーロの愛も! あんたは周りのすべての人間にチヤホヤされなきゃ気が済まないのよ!」

「それはお母様でしょ」


 母の悍ましさに、気持ちが冷めていく。
 怒りも沸点越えて、なんだか氷のような殺意が沸いた。

 伯母はこんな気持ちだったのかしらね。


「フォルテア伯爵家のお姫様はひとり! ダニーロに愛されるお姫様はひとり! それはあんたじゃなくて私なのよ!!」

「なんで産んだのよ」

「ダニーロが欲しがったからよ! 幸せにしてあげたのに、あの人の心はどんどん二人の娘に傾いていった……男の子だったらよかったのに! そうしたら一生、私だけを愛してくれたのに!!」

「呆れた。お母様、人間の親になるべきじゃないわ」

「そうやって感謝もしないで私を貶すような娘だから悪いのよ! あんたが悪いの!! あんたを消さなきゃ私は一生不幸なままよ!! 娘なんて……私から愛を奪う娘に死んでほしいって思って何が悪いのォッ!!」
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