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12 あるべき愛の形

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 グリフィスは鮮やかだった。
 父が変態ふたりと格闘している間に母とミネルヴァを救出し、サクッとフェルド伯爵家で保護してくれた。それから方々に手を回し、父がカジノに立ち入れないよう特別な契約を交わしたのだ。父は変態ふたりと忙しくて、自分が大好きなカジノに立入禁止になった事を随分あとになって知った。
 つまり、門前払いされた時に。

 その頃には、ヘーグリンド伯爵家から悍ましいふたりは消えていた。
 母は父の愚行よりも兄の蛮行が許せなかったらしい。夫婦の気持ちが重なって、父の意向通り、兄はあっさり勘当された。檻付きの部屋で足枷に繋がれた私としては、兄を庇う気になれなかった。

 そんな兄は現在、ムンディ伯爵夫人が起こした裁判でかなり窮地に立たされているらしい。3人がとてつもない醜聞を撒き散らしているようだけれど、もうヘーグリンド伯爵家は無関係だ。


「ああいう奴らはしぶといからな。簡単には野垂れ死なんだろう!」


 父はカジノに行けなくてプリプリしている。
 とはいっても私の身にかなりの危険が及んだ事で、それなりに反省してくれたみたい。グリフィスに絞られて、領主として浅はかだったと認めた。
 あと単純に、グリフィスがイケメンすぎて美の迫力に負けたみたい。

 
「俺もこの先カリーナのために女装しないと誓いますから、おじさんも財産管理きちっとやってくださいね」

「はい」


 一件落着だ。

 ミネルヴァとテリーから話が広まったのか、使用人たちが徐々に戻って来てくれている。汚れを洗い流して、空気を入れ替えて、すっかり、あるべき形に収まろうとしていた。


 そんな、ある日。


「カリーナ、どした?」


 ふたりで森の径を散歩していたら、グリフィスが私を気遣ってくれた。
 

「ううん。別に」

「なんだよ」

「私たち本当にずっと一緒にいたなって思って。これからも、ずっと一緒にいるような気がして。そうしたら、少し寂しくなって。レディ・グリフィスが、ちょっと恋しいかなって」

「あら、やだん♪」


 懐かしい声に、私はつい笑ってしまった。
 するとグリフィスが背後から私を抱きしめ、すっぽりと包み込んだ。


「……っ」


 狡い。
 それは、ドキドキしてしまう。

 なんといっても現在のグリフィスは正規版のグリフィスで超絶イケメンなのだ。


「カリーナ」


 優しく、名前を呼ばれる。
 それから大きな手が私の手を掬いあげて、あれよあれよという間に薬指に綺麗な指輪をはめてしまった。

 素直に、嬉しい。
 というか正直、待ってましたって感じよ。


「ずっと一緒にいよう」

「……ええ」

「結婚しよう」


 耳元に囁かれて、私はこくんと頷いた。
 
 随分と遠回りだったようで、だけどいつも一緒だったから。
 こうして森で──


「!?」


 足が地面から離れ、ふわりと宙を浮いた。


「やったぁ!」


 浮かれたグリフィスが、私を背中から抱っこしたままクルクル回り始める。


「ちょっと! グリフィス!!」

「カリーナ、ずっとずっとずっと愛してた! これから先もずっとずっとずっと愛してる!! 死んでも天国で愛しあいましょ!」

「目が回るってば!!」


 なんだか感極まったグリフィスがレディに戻りかけているけど、まあ、いいわ。
 愛する人と生きていくのが、やっぱり、最高の幸せだと思うから。

 こうしてふたりで過ごす時間が、本当に大好き。
 
 私たちは、なにがあってもずっと仲良し。
 ずっと一緒が、あるべき愛の形なのだ。



                             (終)
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