35 / 48
カミングアウト
しおりを挟む
私はもう決めていた。自分達の正体を明かそうと。
いざとなったら記憶をいじってなかったことに出来るのなら、コソコソと隠し立てする必要がないのだ。真実を受け入れてくれる可能性もあるのに、勝手に秘密にして壁を作っていては分かり合う機会すら永遠に生まれない。
大体、最初から受け入れてもらえないと決めつけるのは相手に失礼ではないか。リスクを覆せる裏技があるのだから、何を恐れる必要があるのか。積極的に明かしていけばいいのだ。
クラスメイト達とはそれなりに長く付き合ってきた。彼等が善良な人間達であることは分かっている。
とはいえ、明蓮の秘密は明蓮自身の判断で扱うべきだろう。マレビトである私が彼女に興味を持った理由だけごまかせば、それはどうにでもなる。今までの説明を続ければいいのだ。ちょうど天照のおかげで人間とマレビトが同じネットゲームをしているという既成事実が出来上がっている。
「実は、私もこの犬もマレビトなのだ。私は大陸にある黄河という河の化身で、こいつは天照大神という太陽の神だ」
「狼!」
クラスメイト達を見回し、はっきりと告げる。足元から抗議の声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
オリンピックと明蓮が驚いた顔をするが、他の人間達は驚きよりも呆気にとられたように口を開けている。突然の告白に理解が追い付いていないようだ。
だが、少しして一人の男子が口を開いた。修学旅行で同じ部屋に泊まったうちの一人だ。
「なんだ、河伯はマレビトだったのか。道理で人間離れしてると思った」
その言葉を皮切りに、他の人間達も口々に言葉を発した。その中に驚きや疑問の声はあれど、恐怖や非難といった声はない。
「そうなんだー、アリスちゃんもマレビトなの?」
「ああ、オリンピックが裏の森で仲良くなったらついてきたので私の従妹ということにしたのだ」
稲崎先生も自然に受け入れているが、各種記録を改ざんしていることについては気にしていないようだ。もしかしたら私のデータをあまり見ていないのかもしれない。
そんな中、私と明蓮の関係に疑問を持つ者が現れた。思った通りだ。
「河伯君って九頭竜坂さんに興味があって転校してきたって言ってたよね。どういう関係?」
「高天原というネットゲームで知り合ったのだ。天照やオリンピックもやっているぞ」
私はやっていないが、先ほどキャラを作っておいた。明蓮が何故か『河伯』を使っているのが気になったが、今はそれどころではないので置いておこう。
「そうそう、みんな高天原でつながってるんだよ! ねっ、明蓮ちゃん」
オリンピックが話に乗ってきた。明蓮は戸惑いつつも、自分の秘密には触れられない流れを察したようで頷いて応える。
「え、ええ。気が付いたらマレビトだらけだったから、みんなを怖がらせないように秘密にしていたの」
「なんだー、もっと早く教えてくれればよかったのに」
クラスメイト達が私や天照、アリスといったマレビトのことを受け入れている様子に、明蓮は驚きつつも安心した様子で穏やかな表情を見せ始めた。
「どうやらカミングアウトに成功したみたいねー。この機会に高天原をもっと広めるのよ!」
「なぜそんなにゲームを広めようとする」
「私にとってはまさに『布教』だからね。人間の神に対するイメージが良くなればそれだけ楽できるのよ」
なるほど。単なるゲーム狂かと思っていたが、現実的な計算もしていたのか。
この空気なら問題ないだろう。記憶の操作は私も極力したくはないからな。
「なるべく周りに言いふらさないでもらいたい。マレビトを恐れる人間も多いからな」
クラスメイトは信用できても、そこから噂が広がった時にどんな反応があるかは分からない。一応口止めはしておこう。彼等も秘密の共有を楽しんでいるようで、快く聞き入れてくれた。
「それで、さっきの黒いドラゴンっぽいのは何だったの?」
最後の問題だ。クラスメイトから当然の質問が投げかけられた。
「あれは八岐大蛇よ。かつて大暴れして退治された禍津神だけど、幽世の扉が開いてからこっちの世界で少しずつ復活してきてるようでね。どうやら人間と仲良くしてる河伯が気に入らないみたいね」
私が口を開くより早く天照が説明をした。どうやら私より事情に詳しいみたいだな、後でもっと詳しく話を聞かせてもらおうか。
「うっわー、めんどくさい。陰キャの極みって感じ」
クラスの女子が大蛇を罵る。悪意のあるマレビトの悪口を言うのは危険だからやめて欲しい。
「有名なだけあって危険な相手だ。私も警戒をしておくのであまり刺激をしないでくれ」
とりあえず納得してもらえたようで、一連の騒動は終わりの空気を迎えた。
――なるほどね。いいのかい? 明蓮のことは秘密にしておいて。
「何っ?」
大蛇の声がした。まさかこんな短時間で次がやってきたのか?
さっきは私の心の隙をついて、かろうじて首の一本、そのさらに影だけを出してこれた。今の状況で悪さを出来るような干渉が可能とは思えないが――
――そうでもないさ。別に俺が何かをする必要はないからね。
何をするつもりだ?
「なに、どうしたの? また来たの?」
オリンピックに聞かれ、私は周囲を警戒しながら小さく頷いた。
アリスと玉藻の方には異常は感じられない。どこからくる?
――ククク、ビビるなよ。そんな大したことは起こらねぇよ。
不愉快な声が終わると同時に、教室の扉が開いた。
いざとなったら記憶をいじってなかったことに出来るのなら、コソコソと隠し立てする必要がないのだ。真実を受け入れてくれる可能性もあるのに、勝手に秘密にして壁を作っていては分かり合う機会すら永遠に生まれない。
大体、最初から受け入れてもらえないと決めつけるのは相手に失礼ではないか。リスクを覆せる裏技があるのだから、何を恐れる必要があるのか。積極的に明かしていけばいいのだ。
クラスメイト達とはそれなりに長く付き合ってきた。彼等が善良な人間達であることは分かっている。
とはいえ、明蓮の秘密は明蓮自身の判断で扱うべきだろう。マレビトである私が彼女に興味を持った理由だけごまかせば、それはどうにでもなる。今までの説明を続ければいいのだ。ちょうど天照のおかげで人間とマレビトが同じネットゲームをしているという既成事実が出来上がっている。
「実は、私もこの犬もマレビトなのだ。私は大陸にある黄河という河の化身で、こいつは天照大神という太陽の神だ」
「狼!」
クラスメイト達を見回し、はっきりと告げる。足元から抗議の声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
オリンピックと明蓮が驚いた顔をするが、他の人間達は驚きよりも呆気にとられたように口を開けている。突然の告白に理解が追い付いていないようだ。
だが、少しして一人の男子が口を開いた。修学旅行で同じ部屋に泊まったうちの一人だ。
「なんだ、河伯はマレビトだったのか。道理で人間離れしてると思った」
その言葉を皮切りに、他の人間達も口々に言葉を発した。その中に驚きや疑問の声はあれど、恐怖や非難といった声はない。
「そうなんだー、アリスちゃんもマレビトなの?」
「ああ、オリンピックが裏の森で仲良くなったらついてきたので私の従妹ということにしたのだ」
稲崎先生も自然に受け入れているが、各種記録を改ざんしていることについては気にしていないようだ。もしかしたら私のデータをあまり見ていないのかもしれない。
そんな中、私と明蓮の関係に疑問を持つ者が現れた。思った通りだ。
「河伯君って九頭竜坂さんに興味があって転校してきたって言ってたよね。どういう関係?」
「高天原というネットゲームで知り合ったのだ。天照やオリンピックもやっているぞ」
私はやっていないが、先ほどキャラを作っておいた。明蓮が何故か『河伯』を使っているのが気になったが、今はそれどころではないので置いておこう。
「そうそう、みんな高天原でつながってるんだよ! ねっ、明蓮ちゃん」
オリンピックが話に乗ってきた。明蓮は戸惑いつつも、自分の秘密には触れられない流れを察したようで頷いて応える。
「え、ええ。気が付いたらマレビトだらけだったから、みんなを怖がらせないように秘密にしていたの」
「なんだー、もっと早く教えてくれればよかったのに」
クラスメイト達が私や天照、アリスといったマレビトのことを受け入れている様子に、明蓮は驚きつつも安心した様子で穏やかな表情を見せ始めた。
「どうやらカミングアウトに成功したみたいねー。この機会に高天原をもっと広めるのよ!」
「なぜそんなにゲームを広めようとする」
「私にとってはまさに『布教』だからね。人間の神に対するイメージが良くなればそれだけ楽できるのよ」
なるほど。単なるゲーム狂かと思っていたが、現実的な計算もしていたのか。
この空気なら問題ないだろう。記憶の操作は私も極力したくはないからな。
「なるべく周りに言いふらさないでもらいたい。マレビトを恐れる人間も多いからな」
クラスメイトは信用できても、そこから噂が広がった時にどんな反応があるかは分からない。一応口止めはしておこう。彼等も秘密の共有を楽しんでいるようで、快く聞き入れてくれた。
「それで、さっきの黒いドラゴンっぽいのは何だったの?」
最後の問題だ。クラスメイトから当然の質問が投げかけられた。
「あれは八岐大蛇よ。かつて大暴れして退治された禍津神だけど、幽世の扉が開いてからこっちの世界で少しずつ復活してきてるようでね。どうやら人間と仲良くしてる河伯が気に入らないみたいね」
私が口を開くより早く天照が説明をした。どうやら私より事情に詳しいみたいだな、後でもっと詳しく話を聞かせてもらおうか。
「うっわー、めんどくさい。陰キャの極みって感じ」
クラスの女子が大蛇を罵る。悪意のあるマレビトの悪口を言うのは危険だからやめて欲しい。
「有名なだけあって危険な相手だ。私も警戒をしておくのであまり刺激をしないでくれ」
とりあえず納得してもらえたようで、一連の騒動は終わりの空気を迎えた。
――なるほどね。いいのかい? 明蓮のことは秘密にしておいて。
「何っ?」
大蛇の声がした。まさかこんな短時間で次がやってきたのか?
さっきは私の心の隙をついて、かろうじて首の一本、そのさらに影だけを出してこれた。今の状況で悪さを出来るような干渉が可能とは思えないが――
――そうでもないさ。別に俺が何かをする必要はないからね。
何をするつもりだ?
「なに、どうしたの? また来たの?」
オリンピックに聞かれ、私は周囲を警戒しながら小さく頷いた。
アリスと玉藻の方には異常は感じられない。どこからくる?
――ククク、ビビるなよ。そんな大したことは起こらねぇよ。
不愉快な声が終わると同時に、教室の扉が開いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる