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報告 ※ジョフレイ視点
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ジョフレイは父ヴァンに報告するため、マーニャと共にヴァンの執務室に入った。
ジョフレイは基本、オペがある時以外は呼び出されない。
王侯貴族や裕福な平民のオペを行っている。
オペは予約制。
予約が入っていない日はフリーなのだ。
そこにいたのは丸々と禿げ上がった小太りの男だった。
小太りで団子鼻。黒い立派なひげを蓄えている。
「えへん。どうしたジョフレイ。隣りにいるのは誰だね?」
「はい、その事について報告したくて父上の元に来ました」
「改めまして初めまして、ローレンシア侯爵。私はカントン子爵令嬢のマーニャと申します」
「どういう事だ、ジョフレイ。説明しろ」
ヴァンは眉根を寄せた。
「はい、父上。私達は婚約をしました」
「はい? ではエマヌエラとはどうなったんだ?」
「エマヌエラとは婚約を破棄しました。合わせてのご報告です」
「しかし、なぜにそうなった?」
ヴァンは葉巻に火をつけた。
「はい、実は……私とエマヌエラは政略結婚でしたよね? って事は本人同士の意志は無視って事ですよね? あー、そうそう。エマヌエラは王太子殿下が好きみたいで……」
「ん? 王太子殿下は既に結婚しておるぞ?」
しまった……と思った。
巧妙に嘘をつかないと、エマヌエラに婚約破棄を告げた理由が無くなる。
自分に非があるのはわかっている。
しかし、何としてでもエマヌエラに罪をなすりつけたい。
「エマヌエラは浮気をしていたのは確かです」
「ほうほう。それでなぜマーニャが妊娠をするんだ?」
「なっ……なぜそれを!?」
「エリーザベトから話は聞いている!!」
「なっ……」
エマヌエラがエリーザベトに告げ口をしたのだろう。
「違いますわ、ローレンシア侯爵。明らかにエマヌエラは浮気をしていたのですわ」
「証拠は?」
ヴァンは訝しげにこちらを見てくる。
「はい。それが……」
「無い、とでも言わないよね?」
「既に結婚している王太子殿下と不倫をしようと画策していたのです」
これならバッチリだ。しかし
「エマヌエラが不倫をするような人に思えない。それに、ジョフレイもジョフレイだ。仮にエマヌエラが浮気をしていたとしよう。だからと言ってお前も他の女に乗り換えたりするのか?」
「いや……目には目を、歯には歯をで」
「やり返しをするとはけしからん話だな」
「だけど、生まれながらにして婚約者が決められていたなど、あまりにも不本意ではないですか、父上」
「あのな、私も生まれながらにしてエリーザベトと婚約していた。わがローレンシア家とエリザーベトの出身のバロン伯爵とはな」
生まれながらに婚約者がいるという事は、本人の意志は全く度外視。
ジョフレイはそこに納得がいかなった。
「そもそも父上」
「なんだね、ジョフレイよ」
「なぜ、上位貴族であるローレンシア家と下位中の下位であるシモンチーニ男爵家との婚姻が結ばれるんですか!! もう、滅茶苦茶です」
「そう思うだろうね。でも、シモンチーニ家は私の大叔父が設立した家なのだ。それは納得だろ?」
「そうですね。トニー様はシモンチーニ家の祖ですね。でも、侯爵からなぜ男爵にまで成り下るんですか?」
「トニー様は祖父の一番下の弟だからだよ」
ジョフレイからすれば、曽祖父の息子。
曽祖父は八男二女のきょうだいだったと聞く。
「そうか……そういう事になるんですか」
それから、シモンチーニという姓を時の国王から賜った。
その話はエマヌエラから聞いていた。
「で……。お前はマーニャをはらませた。では、どう責任をとるんだ?」
「マーニャと結婚します」
「そうか。そうするか」
「はい。結婚一択です」
「本当は追い出したいが、お前は次期ローレンシア家の当主だ。仕方がない。結婚を認めよう。但し、だ」
「「但し?」」
ジョフレイはマーニャと顔を見合わせた。
「もう浮気をしない、不倫をしないって約束するな?」
「はい、勿論です!!」
ジョフレイはつとめて笑顔を作った。
「もし、浮気をしたら、継承権は弟のルイに手渡すからな」
ルイは次男。
ルイにだけは継承権を手渡したくはない。
「父上、ありがとうございます」
「侯爵様、ありがとうございますわ」
これで、罪を一方的にエマヌエラに着せる事に成功した……が……そこに邪魔が入った。
コンコン。
「ああ、誰だね? ティサか?」
ティサとは侍女長だ。
「そうです。エリーザベト様をお連れしました」
なんと、エリーザベトがわざわざヴァンの執務室までやってきたのだ。
エリーザベトとエマヌエラは仲良し。
エマヌエラが何を入れ知恵しているかわからない。
しかし、ルイには継承権を譲りたくはない。
「エリーザベトか。入れ」
「ヴァン様。話は全て聞いていましたわ」
「どういう事だね?」
「エマヌエラはむしろ、ジョフレイがマーニャに浮気していた事をわたくしに相談に来ましたわ」
「なっ……何だって」
ヴァンは葉巻を口に運び、勢いよく吐き出した。
「そうなんですの。エマヌエラは浮気なんかする人ではないわ。王太子殿下に不倫を申し込むだなんて愚の骨頂ですわ」
「ああ。私もエマヌエラは浮気などする人には思えないとは思った」
「待った!!」
ジョフレイは二人の会話に首を突っ込んだ。
「エマヌエラは間違いなく王太子殿下に憧れていた。『私は王太子殿下のような人が好きなの』と言っていました」
嘘だった。
しかし、でっち上げなければ自分が悪者になる。
それに、下手をすれば継承権をルイに奪われる。
「王太子殿下とは身分が違い過ぎますわ。エマヌエラは男爵令嬢。それに、王太子妃は隣国の王女なのよ」
絶句。
どう言い訳したら良いかわからなくなった。
「しかし、言ったのは間違いないです。エマヌエラは身分を弁えない人物ですからね」
「そうは思えないわ。ヴァン様は信じるんですの?」
ヴァンは再び葉巻を口に運んだ。
煙が天井へと立ち昇る。
「私もやはり、エマヌエラを信じている。だけど、結婚を認めるほかないだろう?」
「どうしてですの? 余りにも理不尽ですわ。シモンチーニ男爵様にはどう説明するんですの?」
「ああ、私が言っておくよ。それに、お腹の子には罪は無い」
「確かにそうですが……」
「私も本当は結婚など認めたくはない。だが、次期ローレンシア家の継承者はコイツだからな」
ヴァンはそう言ってジョフレイを指さした。
「わたくしはエマヌエラの浮気は無いと思いますわ」
「私も無いとは思っている。だが、仕方がない」
そう言って葉巻を咥えた。
ジョフレイは基本、オペがある時以外は呼び出されない。
王侯貴族や裕福な平民のオペを行っている。
オペは予約制。
予約が入っていない日はフリーなのだ。
そこにいたのは丸々と禿げ上がった小太りの男だった。
小太りで団子鼻。黒い立派なひげを蓄えている。
「えへん。どうしたジョフレイ。隣りにいるのは誰だね?」
「はい、その事について報告したくて父上の元に来ました」
「改めまして初めまして、ローレンシア侯爵。私はカントン子爵令嬢のマーニャと申します」
「どういう事だ、ジョフレイ。説明しろ」
ヴァンは眉根を寄せた。
「はい、父上。私達は婚約をしました」
「はい? ではエマヌエラとはどうなったんだ?」
「エマヌエラとは婚約を破棄しました。合わせてのご報告です」
「しかし、なぜにそうなった?」
ヴァンは葉巻に火をつけた。
「はい、実は……私とエマヌエラは政略結婚でしたよね? って事は本人同士の意志は無視って事ですよね? あー、そうそう。エマヌエラは王太子殿下が好きみたいで……」
「ん? 王太子殿下は既に結婚しておるぞ?」
しまった……と思った。
巧妙に嘘をつかないと、エマヌエラに婚約破棄を告げた理由が無くなる。
自分に非があるのはわかっている。
しかし、何としてでもエマヌエラに罪をなすりつけたい。
「エマヌエラは浮気をしていたのは確かです」
「ほうほう。それでなぜマーニャが妊娠をするんだ?」
「なっ……なぜそれを!?」
「エリーザベトから話は聞いている!!」
「なっ……」
エマヌエラがエリーザベトに告げ口をしたのだろう。
「違いますわ、ローレンシア侯爵。明らかにエマヌエラは浮気をしていたのですわ」
「証拠は?」
ヴァンは訝しげにこちらを見てくる。
「はい。それが……」
「無い、とでも言わないよね?」
「既に結婚している王太子殿下と不倫をしようと画策していたのです」
これならバッチリだ。しかし
「エマヌエラが不倫をするような人に思えない。それに、ジョフレイもジョフレイだ。仮にエマヌエラが浮気をしていたとしよう。だからと言ってお前も他の女に乗り換えたりするのか?」
「いや……目には目を、歯には歯をで」
「やり返しをするとはけしからん話だな」
「だけど、生まれながらにして婚約者が決められていたなど、あまりにも不本意ではないですか、父上」
「あのな、私も生まれながらにしてエリーザベトと婚約していた。わがローレンシア家とエリザーベトの出身のバロン伯爵とはな」
生まれながらに婚約者がいるという事は、本人の意志は全く度外視。
ジョフレイはそこに納得がいかなった。
「そもそも父上」
「なんだね、ジョフレイよ」
「なぜ、上位貴族であるローレンシア家と下位中の下位であるシモンチーニ男爵家との婚姻が結ばれるんですか!! もう、滅茶苦茶です」
「そう思うだろうね。でも、シモンチーニ家は私の大叔父が設立した家なのだ。それは納得だろ?」
「そうですね。トニー様はシモンチーニ家の祖ですね。でも、侯爵からなぜ男爵にまで成り下るんですか?」
「トニー様は祖父の一番下の弟だからだよ」
ジョフレイからすれば、曽祖父の息子。
曽祖父は八男二女のきょうだいだったと聞く。
「そうか……そういう事になるんですか」
それから、シモンチーニという姓を時の国王から賜った。
その話はエマヌエラから聞いていた。
「で……。お前はマーニャをはらませた。では、どう責任をとるんだ?」
「マーニャと結婚します」
「そうか。そうするか」
「はい。結婚一択です」
「本当は追い出したいが、お前は次期ローレンシア家の当主だ。仕方がない。結婚を認めよう。但し、だ」
「「但し?」」
ジョフレイはマーニャと顔を見合わせた。
「もう浮気をしない、不倫をしないって約束するな?」
「はい、勿論です!!」
ジョフレイはつとめて笑顔を作った。
「もし、浮気をしたら、継承権は弟のルイに手渡すからな」
ルイは次男。
ルイにだけは継承権を手渡したくはない。
「父上、ありがとうございます」
「侯爵様、ありがとうございますわ」
これで、罪を一方的にエマヌエラに着せる事に成功した……が……そこに邪魔が入った。
コンコン。
「ああ、誰だね? ティサか?」
ティサとは侍女長だ。
「そうです。エリーザベト様をお連れしました」
なんと、エリーザベトがわざわざヴァンの執務室までやってきたのだ。
エリーザベトとエマヌエラは仲良し。
エマヌエラが何を入れ知恵しているかわからない。
しかし、ルイには継承権を譲りたくはない。
「エリーザベトか。入れ」
「ヴァン様。話は全て聞いていましたわ」
「どういう事だね?」
「エマヌエラはむしろ、ジョフレイがマーニャに浮気していた事をわたくしに相談に来ましたわ」
「なっ……何だって」
ヴァンは葉巻を口に運び、勢いよく吐き出した。
「そうなんですの。エマヌエラは浮気なんかする人ではないわ。王太子殿下に不倫を申し込むだなんて愚の骨頂ですわ」
「ああ。私もエマヌエラは浮気などする人には思えないとは思った」
「待った!!」
ジョフレイは二人の会話に首を突っ込んだ。
「エマヌエラは間違いなく王太子殿下に憧れていた。『私は王太子殿下のような人が好きなの』と言っていました」
嘘だった。
しかし、でっち上げなければ自分が悪者になる。
それに、下手をすれば継承権をルイに奪われる。
「王太子殿下とは身分が違い過ぎますわ。エマヌエラは男爵令嬢。それに、王太子妃は隣国の王女なのよ」
絶句。
どう言い訳したら良いかわからなくなった。
「しかし、言ったのは間違いないです。エマヌエラは身分を弁えない人物ですからね」
「そうは思えないわ。ヴァン様は信じるんですの?」
ヴァンは再び葉巻を口に運んだ。
煙が天井へと立ち昇る。
「私もやはり、エマヌエラを信じている。だけど、結婚を認めるほかないだろう?」
「どうしてですの? 余りにも理不尽ですわ。シモンチーニ男爵様にはどう説明するんですの?」
「ああ、私が言っておくよ。それに、お腹の子には罪は無い」
「確かにそうですが……」
「私も本当は結婚など認めたくはない。だが、次期ローレンシア家の継承者はコイツだからな」
ヴァンはそう言ってジョフレイを指さした。
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