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ようこそ、カーニバル・サーカスへ
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「今宵はなんと!あの美しき猛獣使いヴィラがトップだ!!皆さん、チケットを買うなら今しかないですよ~!!」
紫のシルクハットを被った男が、押し寄せる人波に揉まれながら、小柄な体を跳ねさせて必死に声を張り上げている。
「今宵はなんと!あの美しき猛獣使いヴィラがトップだ!去年の人気投票第一位に輝いた女の魅力、華麗に獣を扱う技、味わうなら今しかありませんよ~!!自分もケダモノだ、あしらわれた~いという紳士諸君、心付け次第では深夜の追加公演が叶うカモ……!」
彼はトランプの柄があしらわれたジャケットを着て、パーカーのフードを襟から出していた。頭に載ったシルクハットは、ややサイズが大きいのか、頻りと滑り落ちそうになっている。それを片手で押さえながら、反対の手で抱えたチラシを無闇にばら撒いていた。真剣に練られた結果なのか、あるいは慣れているのか、随分とそつのない宣伝文句を謳っている。ちょっと野卑な冗談も、下品になり過ぎない程度に混ぜ込むのが巧みな塩梅だ。
「マティーニ」
ムーンは男の正体を見抜き、相棒の脇腹を小突く。彼とは違い、犯人の顔を知らないマティーニは、指を差して確認した。ムーンは無言で頷き、肯定を示す。そのまま自然に歩を速めて、相手との距離を詰めた。
「すみません。ちょっと失礼」
前を塞ぐ人々の間を、謝罪と共にすり抜けていく。同時に、相手も彼の接近を悟ったようで、ピタリとお喋りを止めていた。未だ背中を向け続ける男に、ムーンは素早く近寄り、ジャケットで隠した銃を突き付ける。
「グシオン、だね?」
静かに名前を呼んだ途端、グシオンの手から、チラシの束がこぼれ落ちた。マティーニは万が一に備えて、やや離れたところから、神妙な面持ちで控えている。
「その様子だと、金は持ってきてないようだな?」
銃口を押し当てられても尚、グシオンの態度に変化は見られなかった。淡々とした口調、低く掠れた声音で、冷静に問い返す。妙に肝の座った人物だと、マティーニは実感した。ムーンは口元に笑みを湛えたまま、挑発的に投げかける。
「必要ないだろう?さぁ、二人のところに案内してもらおうか」
「……嫌だと言ったら?」
グシオンはわずかに身動ぎし、両足を肩幅に開いた。彼の気配が変わったことに、ムーンは密かな警戒心を抱く。
「試してみるかい?君の腕か、足か……まず確実に、使いものにならなくなると思うけど」
あまり効果はないだろうと予想しつつも、軽く揺さぶりをかけてみた。案の定、グシオンは微動だにしない。
「ふっ、そいつぁ困るね……」
鼻から失笑を漏らすと、彼はゆっくり片手を上げて、胸元を緩めるような仕草をする。よく見ると、パーカーのフードに隠れて、何か細いゴム紐のようなものが首にかかっていた。彼は毟り取ったそれを、嫌悪感も露わに足元へ投げ捨てる。紐の先には、金色でキラキラとした、蝶ネクタイがくっついていた。いかにもな安物の、パーティーグッズの一つだ。印象は華やかだが、スパンコールはところどころ剥げ落ちて、見窄らしい雰囲気を纏っていた。
ムーンは何気なく、目線を下に落として彼の行為を追ってしまう。それがいけなかった。
前触れもなく放たれた蹴りが、ムーンの手の甲を強かに叩く。ジャケットで覆っていたため痛みはさしてないが、当然握っていた得物はぶれて、相手の背中から銃口が離れた。失態を自覚した直後、顔にばさっと布が被せられ、派手なトランプ柄が視界を塞ぐ。
「ムーン、逃げられるぞ!」
マティーニがすかさず追いかけようとしたが、すぐに人垣に阻まれ、動けなくなった。視界の自由を取り戻したムーンは、一瞬銃を構えかけ、躊躇う。これだけの人がいる中で発砲すれば、まず間違いなく大騒ぎになるだろう。たとえガイアモンドの力を借りたとしても、完全に隠蔽することは不可能なはずだ。無関係の者に怪我をさせる危険もある。グシオンはそれを分かっていたからこそ、落ち着いた態度を保っていられたに違いない。
彼は今、薄グレーのパーカー一枚という姿で、群衆の中に埋没してしまっている。広場を埋め尽くす人混みを、器用にすり抜けテントへと急いだ。対するムーンとマティーニは、牛歩の状態だ。特にムーンの長身が裏目に出て、中々前に進めない。それでも彼の優れた視力は、人々の頭を通り越し、先方を行くシルクハットを捉え続けていた。
グシオンは通行人たちの間を縫って、ようやっとテントに辿り着く。コンクリートブロックの重石を足で退けると、安っぽいナイロンのシートをばさばさとたくし上げた。生じた隙間からは、内部の喧騒や熱気がむわっと漏れ出てくる。しかし、躊躇っている場合ではない。ムーンたちに捕まる前にと、彼は四つ這いになって素早く身体を滑り込ませた。
テントの内側は、魔法的空間拡張により、見かけ以上の広さを誇っていた。実際のところは不明だが、団長曰く、アメジストで最も大きい劇場に匹敵するとのことだ。円形の客席は中央に向かって傾斜を作り、一番下に要であるステージが設けられている。既に席は八割程埋まって、辺りは客たちの話し声で満ち満ちていた。
ステージでは、トップバッターを務めるヴィラが、団員と共に最終確認をしているところであった。猛獣使いという触れ込みの彼女は、意味もなく露出の多いレザースーツのような服を着込み、腰には鞭を束ねている。エスニックで情熱的な顔立ちを、濃い化粧と嗜虐的な笑みで飾った彼女は、今最も客から愛されるパフォーマーだった。きっと今夜も、猛獣と戯れるのはそこそこに、前歴を活かしたポールダンスでも披露するのだろう。豊満な体つきとしなやかな筋肉を武器に、露骨な動きで淫猥なアピールをするに違いない。観客たちはそれを、固唾を飲んで凝視する。欲望に目を塞がれている彼らは、真実なんて知ろうともしないのだ。
彼らは金によって、檻の中の彼女を支配しているのではない。本当は自分たちこそが、彼女の掌で踊らされ、財を毟り取られているのにも関わらず。まさしく哲学者の論じる深淵のように、客もまたステージから見られているとは思いもしない。彼ら愚か者たちの理想を演じ、影の支配者として現実を誤魔化し、甘い夢を与えるのが彼女の仕事。己を食らい搾取するのなら、こちらも利用し倒すまでと、ヴィラは認識していた。そういう意味では、天才的な猛獣使いである。
彼女の視線がグシオンを捉えた。彼は邪魔なハットを脱ぎ捨てて、客席沿いの階段を一気に駆け降りる。客席の前を固める鉄柵を軽々と跨ぎ、ステージ上に身を躍らせた。
「邪魔だよ、グシオン!」
抗議の声を上げるヴィラの細い腰に手を当て、観客に背を向けさせる。そして、彼女の耳元にヒソヒソと語りかけた。
「触んないでよ、変態!」
「開演だ、ヴィラ。ショーを始めろ」
「は?でもまだ時間じゃ」
「いーから!……これ、返してほしいだろ?」
「なっ!?」
有無を言わさぬ命令に、憤慨しかけた彼女の前へ、一台の携帯端末が突き付けられる。それは間違いなく彼女自身の持ち物で、ショー出演の片手間にやっている、パトロンとの交際に必要不可欠な道具だった。グシオンも事情を知っているからこそ、彼女を脅し、指示に従わせようとしているのだ。
「あんた、いつの間に!」
まさか、先程のたった一瞬の接触で、盗み出されてしまうとは。相変わらず手癖の悪い彼を、ヴィラはきつく睨み付ける。しかし彼女の眼差しも、グシオンにとっては微風程度の威力しか持たない。彼は素早く背後を窺ってから、ヴィラに目配せして急かした。
「ほら、早く。女王様」
「……分かったわよ」
彼女は不服そうにしながらも、やむを得ず了承する。実のところ、彼にこのような頼み事をされるのは、一度目ではなかった。いい歳のはずだが一向に落ち着かないグシオンは、今までに何度も無茶をして、その尻拭いを仲間に任せきりにしている。だから、男女問わず多くの団員たちに疎まれ、かつ一方では羨まれる存在だった。ヴィラも例に漏れることなく、どこかチャーミングな彼を嫌いになりきれないで、何くれと世話を焼いてしまっていた。
「しかしあんた、今度は何を」
「じゃ、頼んだぜ!サイナラ!」
呆れ半分、好奇心半分で尋ねるものの、肝心の本人は聞いてはいない。彼は追手たるムーンたちの気配を察知して、ステージの奥へ逃げようとしていた。しかしちょうど舞台袖は、人体切断マジックの大掛かりな道具が搬入される最中で、周囲の者の行き来を妨げている。彼は仕方なく、さっと周囲を見回し、他に逃走経路がないかを探した。
ステージの片隅に、彼の背丈ほどもあるカラフルなボールが置かれている。玉乗りのパフォーマンス用に、準備された物だろう。その真上には、空中ブランコのバーが吊り下げられているのも見える。グシオンはぴんと閃き、躊躇いなくボールに足を乗せた。少し位置を調整してから、高く跳躍し、ブランコに指を引っ掛ける。勢いのままに、中空を弧を描いて移動し、背景の書き割りを飛び越えた。タイミングよく手を離して、テントを支える鉄骨のフレームにしがみつく。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました!予定より若干前倒しですが、日頃のご愛顧にお応えして、開演時間を繰り上げさせていただきます!前座は、僭越ながらわたくしが……」
背後から、ヴィラの華やかな口上が漏れ聞こえてきた。グシオンはほくそ笑んで、舞台裏の暗がりへと姿をくらました。
紫のシルクハットを被った男が、押し寄せる人波に揉まれながら、小柄な体を跳ねさせて必死に声を張り上げている。
「今宵はなんと!あの美しき猛獣使いヴィラがトップだ!去年の人気投票第一位に輝いた女の魅力、華麗に獣を扱う技、味わうなら今しかありませんよ~!!自分もケダモノだ、あしらわれた~いという紳士諸君、心付け次第では深夜の追加公演が叶うカモ……!」
彼はトランプの柄があしらわれたジャケットを着て、パーカーのフードを襟から出していた。頭に載ったシルクハットは、ややサイズが大きいのか、頻りと滑り落ちそうになっている。それを片手で押さえながら、反対の手で抱えたチラシを無闇にばら撒いていた。真剣に練られた結果なのか、あるいは慣れているのか、随分とそつのない宣伝文句を謳っている。ちょっと野卑な冗談も、下品になり過ぎない程度に混ぜ込むのが巧みな塩梅だ。
「マティーニ」
ムーンは男の正体を見抜き、相棒の脇腹を小突く。彼とは違い、犯人の顔を知らないマティーニは、指を差して確認した。ムーンは無言で頷き、肯定を示す。そのまま自然に歩を速めて、相手との距離を詰めた。
「すみません。ちょっと失礼」
前を塞ぐ人々の間を、謝罪と共にすり抜けていく。同時に、相手も彼の接近を悟ったようで、ピタリとお喋りを止めていた。未だ背中を向け続ける男に、ムーンは素早く近寄り、ジャケットで隠した銃を突き付ける。
「グシオン、だね?」
静かに名前を呼んだ途端、グシオンの手から、チラシの束がこぼれ落ちた。マティーニは万が一に備えて、やや離れたところから、神妙な面持ちで控えている。
「その様子だと、金は持ってきてないようだな?」
銃口を押し当てられても尚、グシオンの態度に変化は見られなかった。淡々とした口調、低く掠れた声音で、冷静に問い返す。妙に肝の座った人物だと、マティーニは実感した。ムーンは口元に笑みを湛えたまま、挑発的に投げかける。
「必要ないだろう?さぁ、二人のところに案内してもらおうか」
「……嫌だと言ったら?」
グシオンはわずかに身動ぎし、両足を肩幅に開いた。彼の気配が変わったことに、ムーンは密かな警戒心を抱く。
「試してみるかい?君の腕か、足か……まず確実に、使いものにならなくなると思うけど」
あまり効果はないだろうと予想しつつも、軽く揺さぶりをかけてみた。案の定、グシオンは微動だにしない。
「ふっ、そいつぁ困るね……」
鼻から失笑を漏らすと、彼はゆっくり片手を上げて、胸元を緩めるような仕草をする。よく見ると、パーカーのフードに隠れて、何か細いゴム紐のようなものが首にかかっていた。彼は毟り取ったそれを、嫌悪感も露わに足元へ投げ捨てる。紐の先には、金色でキラキラとした、蝶ネクタイがくっついていた。いかにもな安物の、パーティーグッズの一つだ。印象は華やかだが、スパンコールはところどころ剥げ落ちて、見窄らしい雰囲気を纏っていた。
ムーンは何気なく、目線を下に落として彼の行為を追ってしまう。それがいけなかった。
前触れもなく放たれた蹴りが、ムーンの手の甲を強かに叩く。ジャケットで覆っていたため痛みはさしてないが、当然握っていた得物はぶれて、相手の背中から銃口が離れた。失態を自覚した直後、顔にばさっと布が被せられ、派手なトランプ柄が視界を塞ぐ。
「ムーン、逃げられるぞ!」
マティーニがすかさず追いかけようとしたが、すぐに人垣に阻まれ、動けなくなった。視界の自由を取り戻したムーンは、一瞬銃を構えかけ、躊躇う。これだけの人がいる中で発砲すれば、まず間違いなく大騒ぎになるだろう。たとえガイアモンドの力を借りたとしても、完全に隠蔽することは不可能なはずだ。無関係の者に怪我をさせる危険もある。グシオンはそれを分かっていたからこそ、落ち着いた態度を保っていられたに違いない。
彼は今、薄グレーのパーカー一枚という姿で、群衆の中に埋没してしまっている。広場を埋め尽くす人混みを、器用にすり抜けテントへと急いだ。対するムーンとマティーニは、牛歩の状態だ。特にムーンの長身が裏目に出て、中々前に進めない。それでも彼の優れた視力は、人々の頭を通り越し、先方を行くシルクハットを捉え続けていた。
グシオンは通行人たちの間を縫って、ようやっとテントに辿り着く。コンクリートブロックの重石を足で退けると、安っぽいナイロンのシートをばさばさとたくし上げた。生じた隙間からは、内部の喧騒や熱気がむわっと漏れ出てくる。しかし、躊躇っている場合ではない。ムーンたちに捕まる前にと、彼は四つ這いになって素早く身体を滑り込ませた。
テントの内側は、魔法的空間拡張により、見かけ以上の広さを誇っていた。実際のところは不明だが、団長曰く、アメジストで最も大きい劇場に匹敵するとのことだ。円形の客席は中央に向かって傾斜を作り、一番下に要であるステージが設けられている。既に席は八割程埋まって、辺りは客たちの話し声で満ち満ちていた。
ステージでは、トップバッターを務めるヴィラが、団員と共に最終確認をしているところであった。猛獣使いという触れ込みの彼女は、意味もなく露出の多いレザースーツのような服を着込み、腰には鞭を束ねている。エスニックで情熱的な顔立ちを、濃い化粧と嗜虐的な笑みで飾った彼女は、今最も客から愛されるパフォーマーだった。きっと今夜も、猛獣と戯れるのはそこそこに、前歴を活かしたポールダンスでも披露するのだろう。豊満な体つきとしなやかな筋肉を武器に、露骨な動きで淫猥なアピールをするに違いない。観客たちはそれを、固唾を飲んで凝視する。欲望に目を塞がれている彼らは、真実なんて知ろうともしないのだ。
彼らは金によって、檻の中の彼女を支配しているのではない。本当は自分たちこそが、彼女の掌で踊らされ、財を毟り取られているのにも関わらず。まさしく哲学者の論じる深淵のように、客もまたステージから見られているとは思いもしない。彼ら愚か者たちの理想を演じ、影の支配者として現実を誤魔化し、甘い夢を与えるのが彼女の仕事。己を食らい搾取するのなら、こちらも利用し倒すまでと、ヴィラは認識していた。そういう意味では、天才的な猛獣使いである。
彼女の視線がグシオンを捉えた。彼は邪魔なハットを脱ぎ捨てて、客席沿いの階段を一気に駆け降りる。客席の前を固める鉄柵を軽々と跨ぎ、ステージ上に身を躍らせた。
「邪魔だよ、グシオン!」
抗議の声を上げるヴィラの細い腰に手を当て、観客に背を向けさせる。そして、彼女の耳元にヒソヒソと語りかけた。
「触んないでよ、変態!」
「開演だ、ヴィラ。ショーを始めろ」
「は?でもまだ時間じゃ」
「いーから!……これ、返してほしいだろ?」
「なっ!?」
有無を言わさぬ命令に、憤慨しかけた彼女の前へ、一台の携帯端末が突き付けられる。それは間違いなく彼女自身の持ち物で、ショー出演の片手間にやっている、パトロンとの交際に必要不可欠な道具だった。グシオンも事情を知っているからこそ、彼女を脅し、指示に従わせようとしているのだ。
「あんた、いつの間に!」
まさか、先程のたった一瞬の接触で、盗み出されてしまうとは。相変わらず手癖の悪い彼を、ヴィラはきつく睨み付ける。しかし彼女の眼差しも、グシオンにとっては微風程度の威力しか持たない。彼は素早く背後を窺ってから、ヴィラに目配せして急かした。
「ほら、早く。女王様」
「……分かったわよ」
彼女は不服そうにしながらも、やむを得ず了承する。実のところ、彼にこのような頼み事をされるのは、一度目ではなかった。いい歳のはずだが一向に落ち着かないグシオンは、今までに何度も無茶をして、その尻拭いを仲間に任せきりにしている。だから、男女問わず多くの団員たちに疎まれ、かつ一方では羨まれる存在だった。ヴィラも例に漏れることなく、どこかチャーミングな彼を嫌いになりきれないで、何くれと世話を焼いてしまっていた。
「しかしあんた、今度は何を」
「じゃ、頼んだぜ!サイナラ!」
呆れ半分、好奇心半分で尋ねるものの、肝心の本人は聞いてはいない。彼は追手たるムーンたちの気配を察知して、ステージの奥へ逃げようとしていた。しかしちょうど舞台袖は、人体切断マジックの大掛かりな道具が搬入される最中で、周囲の者の行き来を妨げている。彼は仕方なく、さっと周囲を見回し、他に逃走経路がないかを探した。
ステージの片隅に、彼の背丈ほどもあるカラフルなボールが置かれている。玉乗りのパフォーマンス用に、準備された物だろう。その真上には、空中ブランコのバーが吊り下げられているのも見える。グシオンはぴんと閃き、躊躇いなくボールに足を乗せた。少し位置を調整してから、高く跳躍し、ブランコに指を引っ掛ける。勢いのままに、中空を弧を描いて移動し、背景の書き割りを飛び越えた。タイミングよく手を離して、テントを支える鉄骨のフレームにしがみつく。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました!予定より若干前倒しですが、日頃のご愛顧にお応えして、開演時間を繰り上げさせていただきます!前座は、僭越ながらわたくしが……」
背後から、ヴィラの華やかな口上が漏れ聞こえてきた。グシオンはほくそ笑んで、舞台裏の暗がりへと姿をくらました。
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