神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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SS 新しい家族

約束

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「都、本当にハクトでいいの?」

「うん。ルーナの子じゃ無くてもハクトにするって決めてたんだ」

「双葉じゃ無くても……大丈夫なの?」

「うん。きっと大丈夫、あの子はもう元の世界で自分の人生を歩いているから……双葉と名付けしなくてもいつだって彼を想ってる。だから大丈夫」

 遠い昔の記憶。だけど今も鮮明に脳裏に浮かぶあの薄茶の柔らかな髪に、緑がかったヘーゼルグレーの瞳。ママと抱きつくあの愛しい甘さはきっと死ぬまで心の中に残るだろう。過去に囚われ、グレース神としての役割から逃げた過去。あんな事はもうしない。

「そう決めたなら良いけど。ハクトって白兎の事だろ?どうする、黒兎なら」

「それでも……ハクトで良いよ」

 俺の腹の中で育つ4つの命。愛しさに心が満たされて行く。

「ルーナ、楽しみだね」

「都、俺達だけの家族が出来たね」

「ふふ。あ、そうだ。義父さんと義母さんに連絡したら?結婚報告の時以来でしょ?」

「そうだなぁ。はぁ、連絡したら一族押しかけて来そうで嫌だな」

「良いじゃん。俺、ルーナの家族好きだよ?賑やかで可愛くてさ。義母さん可愛いし」

「そういやユエにも子供生まれたんだった」

「え?本当?知らなかった」

「母さんって言っても再婚した時俺は独立してたから実感湧かないし。ユエは末子だったから2、3回しか会ったことないんだよな。でもあいつが結婚して出産ねぇ。俺も年を取るはずだよ」

 ルーナは晩御飯の下準備を手伝いながら、家族について話をした。ルーナの父モーントは元皇宮医務官で、退官後は現在の東のセイブル領ルートゥーンの一部を買い取り、そこでハーブの栽培をしていた。ハーブは嗜好品として取引されていたが、魔粒子を生み出せなくなった身体に対して、薬効が確認出来たのは植物由来の薬だけだった為、今やモーントの所有する土地は薬地やくちと呼ばれ、製薬の原材料の8割がここの物だった。

「マーンさんが引き継ぐんだっけ?」

「そ。あいつ弟の癖に俺に一言も無かったんだよ?信じらんない」

「まぁ、まぁ。気を遣ってくれたんだよ。義父さんが倒れた時、ルーナとっても心配してたから。安心させたかったんじゃない?」

「まぁ、俺は医務官続けるって決めてたしね」

 都は野菜を洗うルーナを背後から抱きしめ肩に頭を預け囁く。今まで、一体どれだけ少女と見紛うようなこの線の細い男に心を助けられただろうか。そう思うと、初めてこの世界で産み落とす子がルーナの子である事がとても嬉しかった。

「ありがとう。医務官続けてくれて、いつも側にいてくれて」

「なっ、何急に!や、やめてよ。照れるじゃん」

「ねぇ、兎ってさ。みんな兄弟多いよね?」

「ま、まぁ。そうだね」

「なら兎の子が沢山居ないとこの子は寂しいかもよ?」

「‼︎」

 カイリが世界を命で満たした様に、俺は伴侶である彼等の命をこの世界に沢山残していきたい。そんな願いが心を満たしていて、まだ生まれても居ないのに次を考えてしまった。

「なら次も俺の子産んで」

「ふふ。何度でも、産めるだけうんだげるよ。義父さんや義母さんに負けない位ね」

「はぁ、20人は流石に多すぎるかな……」

「あははは!良いじゃん、賑やかでさ」

 久しぶりに深くキスをして、ルーナは都を抱き上げると都の部屋へと向かおうと階段を上り出した。しかし、背後からぐっと肩を掴まれた。

「なーにしに行くつもりだよ!」

「はぁぁぁっ……おかえりビクトラさん。折角久しぶりに抱けると思ったのに!」

「それより!検診するんだろ?皆んな戻ったんだ、やろうぜ」

「「あ……」」

 既にやってしまったとは雰囲気的に言え無かったが、都の眠気も何処かに消えてしまっていて、ならば皆んなでもう一度見ようと魔術具を設置し直し様子を見せた。

「都様っ!私の子です!龍の獣体!あぁっ!幸せでっ」

バタバタとはしゃぐサリューンは既に涙で顔がぐちゃぐちゃになっていて、側に居たカナムも泣いて「良かった、お世継ぎが陛下の子で」と胸を撫で下ろしていた。

「あぁっ、陛下っ!獣体になるなっ、ここは狭いんだよ!」

「あっ、しっ、失礼した!」

皆、喜色満面であったが、1人浮かれない顔をしたサリーは魔術具をじっと見ていた。

「ふむ。だとすればこれは俺の子か?」

「嬉しい?サリー」

「……」

 サリザンドは、軽く息を吐くと何も言わずに部屋を出て行った。その顔は苦悶している様にも見えて、都は不安に駆られた。

「何だあいつ。自分の子供なのに嬉しくないのかよ?」

「あれじゃん?自分のマッドな部分が遺伝してるかもーって怖くなったんじゃね?」

「カムイ様っ!その様な事を……」

 リャーレはチラリと都を見た。扉を見つめるその目には薄らと涙が見えて、流石のカムイも口を手で塞いだ。

「都、行って来なよ。ちゃんとサリザンドと話して来たら?」

「ルーナ……」

 アガットに抱き上げられ、床に足を付け立ち上がると都はサリザンドの後を追った。

「サリー。入っても良い?」

 返事の無い部屋の中を都は伺うが、ただ息苦しそうな音が聞こえるだけで、都はサリザンドが何か怒っているのではないか。そんな不安から、そっとドアノブを押して扉を開けた。

「サリー」

「くっ、ぐっ……」

 真っ暗な部屋の隅で、サリザンドは壁にもたれて頭を抱えている。都は恐る恐る近付き顔を覆うその手を取った。

「泣いてるのか?」

「都……」

「嫌だった?」

「違うっ!そうじゃ……そうじゃ無いんだ」

「なら、嬉しかったの?」

「あぁ。あぁ!俺とお前の子供だ、嬉しいに決まっているだろう!やっと……お前は俺に縛られたんだ!お前はついに俺の子を産むんだ!」

「サリー。信じて無かったのかよ、俺はとっくにサリーに縛られてる。俺も嬉しいよ、サリーの子供が産めて」

「これでお前は何処にも行かない。そうだろう?」

「はぁ。信用無いなぁ、行かないよ。サリーは何処に行っても側に居てくれるんだろ?」

「だが……」

「だが、何?」

「俺に家族が出来て良いのか?」

 初めて見るサリザンドの号泣する姿に、俺も涙が止まらなかった。彼のマッドな部分は孤独から来る物なのかもしれないと常々思ってはいた。彼に家族は居ない。宮廷鑑定士となる前の彼は農奴だったと聞いた。親代わりが出来たのは20歳を過ぎた頃で、彼の師匠だったと言う。彼の才を見出したその人はありとあらゆる事を教えてくれはしたが、家族の温もり、人を愛する方法だけは教えてはくれなかった。彼は一度、育成帯摘出手術を受けようとしたと言う。無駄に来る発情期、その度に無意味に男を抱く日々が虚しかった。けれど自分を殺す覚悟も出来ず、体を傷付けても癒せない渇き。仕事を得てからは男を蹂躙し、痛め付ける様な恋愛とも呼べない交際関係しか持たなかったと言っていた。

「やっと、一つになれたんだ、やっとこれで俺とサリーは一つの家族と言う形に収まったんだ。きっと可愛い梟の子が生まれる」

「俺に……こいつを可愛がれるだろうか」

「大丈夫。これは未来視だ……サリーはこの子を俺以上に愛するよ」

 そんな権能無くても分かる。サリーは子煩悩になって、沢山の知識をこの子だけじゃ無い、他の子にも齎すだろう。あぁ、愛しいな。ずっとこの大家族で生きていきたいな。

「都、都!」

「うん」

「ありがとう。俺の子を孕ってくれて」

「そう、望んだからね。最初はルーナとサリーの子が欲しいって」

「……産み分けが、出来るのか?」

「ぷはっ!何だよ、やっぱり研究者だなぁ!サリーは」

「そうじゃない。それが可能なら、今後は俺の子だけを産んでくれ。他の奴の子は産んでほしく無い!お前は俺の物、そうだろ?」

 うっ、その蕩けた目に弱いんだよ!はぁ、駄目!ここでキスでもしようもんなら嫌でもイエスと言っちゃう!

「だーめ!せめて1人は産んであげたいんだ。皆んな……家族とは無縁な人が多いだろ。ちゃんと彼等を親に、家族にしてあげたいんだ。それは譲れない」

「約束してくれ。その時は俺の子も共に孕むと」

「……ルーナとサリーの子。沢山産むよ、だから俺以外の誰かを束縛したら……殺すからね」

「あぁ、良いな。お前に殺される程求めて貰えるなら……浮気の一つでもしてみるか?」

「殺す!」

 涙に濡れる緑の睫毛、美しい薄い唇を都はキスをして慰めた。他の伴侶を含め沢山の約束を都はした。けれど、彼との約束だけは重過ぎて違える事など出来そうに無いと、笑いながら溜息を吐いた。




























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