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二章

11 ドルトンに白夜現る

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「白夜だーっ! 白夜が出たぞーっ!!」

 ザイオスが試合を終えて休憩をとっているときだった。

 シュルコサーコートの胸に、緑色の羽のマークの付いた騎士が馬を駆って広場にかけ込んできた。それは、街を警備する第二騎士団の印だ。ザイオスは腰を浮かせた。

 騎士は市庁舎に飛び込むと何事かまくしたて、またすぐに馬に乗り、広場を飛び出していった。おそらく城に知らせてもらい、自分は白夜の元に戻るつもりなのだろう。

 ザイオスはすぐにその騎士の後を追った。本戦の出場権が手に入ればこんなところに用はない。

 ところが、何人かの男たちが彼を真似て追ってきた。

「ちょ、なんでついてくるんだよ」
「白夜の賞金を奪われてたまるかよっ!」


 賞金目当てか。ザイオスは舌打ちした。彼はただ、白夜を倒したいだけなのだ。

 ドルトンの市街地を西へ抜けると、死の丘と呼ばれる墓場がある。兵士を追ったザイオスたちはそこへたどり着いた。

 やはり胸に緑の羽根のマークを付けた兵士たちが、忙しそうに走り回っている。

 死の丘は、石や木で出来た墓標が立ち並んでいた。

「何だこれは」

 ザイオスは丘陵地帯を登りきったとき、目の前に広がった光景に愕然とした。埋められずにそのままにしてある大きな墓穴。

 そこには無数の骨が積み重なるように放置してあった。墓標などもちろんない。

「罪人の墓だ。埋めるのがおっつかないんだろ。領主の城で刑を執行されたあと、ここに捨てられるんだ。司祭に祈ってもらうことも許されないらしい」

 後からついてきた闘技場出場者の一人がボソッと呟く。

「いや、だって、いくらなんでもこんな数……」
「ドルトンだけじゃねえ。領地のいたるところから、わざわざ運ばれてくるからなぁ」

 さらにもう一つ巨大な墓穴が現れ、そこにも白骨があったが、その上には真新しい遺体が折り重なって捨てられていた。

 穴の周りを騎士たちが囲んでいる。中を覗き込むと、墓穴の遺体は、全員鎖帷子の上から羽織った黒いシュルコに、緑の羽根の紋章をつけていた。

「何だおまえたちは!? 勝手に入ってくるな!」

 駆けつけたザイオスたちを見て、騎士の一人が驚き怒鳴りつけた。

「俺は白夜を捕まえたいんだ」

 ザイオスが静かに言うと、すかさずついてきた他の男たちも賛同した。白夜の賞金目当てである。

「捜索のじゃまになる、出ていけっ!」

 騎士や警吏たちがよってたかって槍で脅す。

 息絶えている第二警備隊の騎士たちの血はまだ乾いてない。白夜はこの近くにいるはずなのだ。
 
 文句を言おうと口を開いたとき、一人の騎士が近づいてきた。胸には緑色の雄鶏が刺繍されている。

 第二警備隊の騎士団長か! ザイオスが思わず身構えると、彼はまっすぐザイオスの前まで来て止まった。

「何か用ですか? おまえたち」

 騎士らしからぬ柔和な顔立ちだった。まだ若い。二十代半ばくらいだろうか。ひょろっとしているが、弱そうな印象は与えない。この若さで団長なのだから、相当な腕の持ち主なのだろう。

「俺は白夜を追っているんだ。捜索を手伝わせてほしい」

 ザイオスが言うと、意外にもあっさり承諾された。

「いいでしょう。数打ちゃ当たる作戦です。おまえたち、白夜の特徴は知っていますね?」
「もちろんだ」
「楽勝だぜ!」

 口々にいう戦士たちににっこり笑うと、隊長は言った。

「ならばさっさとお行きなさい。おまえたちは丘の東側、ふもとの貧民街です。白夜をかくまっているかも知れない。草の根わけても探しだし、殺しておしまいなさい」

 ザイオスは頷いたが、他の者たち、特にこの街の出身者たちはひどく嫌そうな顔をした。



※ ※ ※ ※ ※



 一般には『貧民街』と蔑称で呼ばれているクルト地区だが、まさにまんま典型的なスラムである。

 商売に失敗し財産を失ったもの、農村から流れ着いた浮浪者、孤児などが住み着いていた。

 市税が上がり、その数は増え続けていると言う。


 昔は、聖職者が貧しい者たちのために喜捨を募っていた。浮浪者でも人並みの生活や、復活への道があった。

 だが今は――。



 通りに並ぶ家は、建物の様相をしていなかった。腐って穴が開いた屋根、土壁は崩れ、人が住めるとは思えなかった。

 そんな廃屋が連なった道を、ザイオスは早足で歩いていく。

 あまりの悪臭にそろそろ絶えきれなくなってきていた。

 街は死に絶えたように静かで、ときおりぼろぼろの服をまとった、幽鬼のような人影が路地裏へと入ってゆくのを見かける。

 白夜が隠れていそうな崩れた家の中を覗いてみたが、背の曲がった白髪の老人が座っているだけだった。

 ザイオスは鼻孔を腕でしっかりふさぎ、細い路地を進んでいった。

 水はけの悪い土地で、道には汚水が溢れ、歩くたびに彼の靴を汚す。整備すれば古代の下水道を使用できるはずなのだが、そんな余裕はないのであろう。

 その泥土にまみれて白いものが落ちているのに気づき、よく見てみると何かの骨だったりする。

(これ、人間の頭蓋骨じゃねーの?)

 胸が悪くなる。

 もっと辺境の、行政の行き届かない寒村ならともかく、領都でこのありさまというのは納得できない。

(こんな所に居たら悪い病気にかかっちまう。騎士団の連中がここら辺に来たがらない理由が分かったぜ)

 いつの間にか闘技会の予選に来ていた戦士たちも消えている。逃げやがった。

 舌打ちをすると、歩くスピードをさらに上げた。

「俺はあきらめねーぞ、白夜」
「もし……」

 ザイオスは最初空耳かと思った。きょろきょろとあたりを見渡す。

「もし……」

 か細い声は、道沿いに積み上げられた瓦礫の中から聞こえた。怪訝に思い中を覗いてみる。

 痩せた若い女が瓦礫に埋もれていた。大変だ!

「生き埋めになったのか!」

 慌てて彼女を引っぱり出そうとすると、女は首を振った。

「着るものがないから重みをつけて寒さをしのいでいるのです」

 確かに女は、すり切れた薄い下着のような生地のチュニックを一枚着ているだけだった。暖かくなって来たとはいえ、まだうすら寒い。

 よくこの冬を越せたものである。

 さらに驚いたことに彼女は子どもを抱えていた。

「この子にミルクを飲ませてあげたいのです。どうかお恵を……」
「父親はどうした?」

 ザイオスは不憫に思い、銅貨でなく銀貨を渡しながらきいた。もしかしたら、この女から白夜の情報を聞き出せるかもしれない。

「この子の父は三カ月前に盗みを働き、あの丘へ連れて行かれました」
「そうか」
「この子のためだったのに」
「気の毒だったな」

 ザイオスは眠っている子どもの頭を撫でてやりたかったが、親子のあまりの臭さにためらった。

 くさい。

 鼻がちぎれるんじゃないかと思えるほど臭いのだ。

 一刻も早くこの場所から離れたいという衝動を抑え、女に尋ねる。

「おまえ、白夜を見なかったか。もしかしたらここら辺に逃げたかも知れないんだ」

 女はうつろな瞳でザイオスを見返した。

 はじめて、彼女の目の焦点が合ってないことに気づいた。女は、うっすらと笑った。

「知りません」
「……嘘じゃないだろうな?」

 女の笑いがさらに大きくなった。ザイオスはそれを見てぞっとした。

「嘘をついてどうなるんです? もし白夜を知っていたら、私はすぐに警吏に売りますよ。この子の病気を治すために……ねぇ、坊や」

 ザイオスは初めて子どもの顔を見た。

「ぐっ……」

 吐き気がこみ上げ、ザイオスは口を押さえてその場を逃げ出した。

 子どもは腐っていた。死んで何日も経っている。母親は気が狂っていたのだ。

 とにかくその臭いから逃れたかった。

 彼は大股で足早にあるきながら、結局は自分がお坊ちゃんであることを、思い知らされたような気がした。己がこんなにやわだったとは……。

 そのとき、突然路地裏から出てきた小柄な人影と衝突した。

「きゃっ!」

 相手は、見事にはじきとばされた。被っていた頭巾ウィンプルがずれ、淡い金髪がこぼれる。

「す、すまん!」

 我に返り、慌てて助け起こす。

 そして目を丸くした。少女だ。しかもこんな貧民街にいるような娘には見えない。

「汚れちまったか?」

 少女はスカートに付いた泥をはたき落としながらにっこり笑った。

「大丈夫です」

 何この子、めっちゃ可愛いやん!? 鼻の下が伸びるのを自分で意識した。

 身なりは粗末で、どこの馬の骨とも分からなかったが、嫁さんにしてもいいと思うくらいきれいな娘だ。

 少女は、怪訝そうにザイオスの顔を見あげた。

「どうかなさいました? お顔が真っ青……」

 ザイオスは苦笑する。

 彼は次期侯爵の身分であるにもかかわらず、お忍びで旅をしてきた。

 庶民と同じ目線になったつもりでいた。この領地の現状を知ったつもりでいた。

 それが――。

「ここんとこさ、国家レベルの大きな戦が無いんだぜ?」
「え……あ、はい、そうですね」

 少女は唐突な話を振られて一瞬きょとんとしたが、真面目な顔で頷く。性格も素直そうだ。

「今のうちに、もう少し豊かになってなきゃあダメだと思ってるんだ。国民ひとりひとりの生活を向上させてな」

 少女は目を見開いて話を聞いて居る。やべ、まじで可愛い。

「俺は……ここじゃ、すぐには何も出来ない。手が出せない。それがショックだったんだ」

 最後の方は独り言のように呟くと、金髪の少女が首を傾げた。

「エスペランス州はいいところです。バスクは例外ですけど、他の州にもここのような似たような所はいっぱいありますよ。諸侯の闘争時代は、どこもこんなものだったって聞いたことがありますし……」

 少女の何気ない一言に、少しだけ救われたような気がした。

 それでも、飢えて死んでゆく人々の未来は、自分の手にかかっているということに変わりはないのだが。


「君は? ここに住んでいるのか?」

 ザイオスが肌ツヤのいい少女を眺め、不思議そうに聞く。少女は首を振った。

「今はベネクリア地区に滞在しています。あの、仕事で……よそ者です」
「なんで、こんなところをウロウロしてるんだ。身ぐるみはがされるぞ?」

 この娘、身なりは貧しいが、清潔にしている。健康的だし、そこそこ収入がある家庭の子であろうに。ルエラは困ったように俯く。

 そして少しためらった後、晴れた空の色をした瞳でザイオスを見上げた。

「私、人に会いに来たんです。ドルトンには会いたい人がいるから」

 なんだよ恋人いんのかよ、と舌打ちしたそのとき、路地の向こうで騎士の一人が手招きしているのに気づいた。

 まさか、見つけたのか!?

「す、すまんお嬢さん。俺はもう行く。病気をうつされるか、強姦されるまえにとっとと帰んな」

 彼は一目散に駆け出した。

 そこでは、五人の騎士たちが何事か相談していた。ザイオスが行くと、そろって眉をひそめた。

「おまえ一人か。他の奴等はどうした?」
「知りませんよ、用事を思い出して帰ったんだんじゃないっすか」
「ちっ、腰抜けどもが!」

 本当は彼らも、こんな所は一刻も早く立ち去りたかった。貧民街の連中は騎士や警吏を憎んでいる。たまにこのあたりを巡回中の兵士が消えるのは、事実なのだ。

「それよりどうしたんです?」

 ザイオスは苛立ちをあらわに聞いた。一人が、怪しい人影を見た、と言った。

「修道士の服を着ていたのか?」
「いや、黒っぽいマントをすっぽりかぶっていた。陽が落ちる前の活動だし、ましてや逃走中の白夜は目立つ格好はしていないはずだろ。その下に例のメーベルナの服装を隠しているのやも……なにより、剣を身につけていたのが見えたんだ」

 ザイオスは頷く。貧民街にそんな人間がいるはずはない。

「どこですか?」
「あっちだ、二手に分かれて追いつめよう」




 まもなく、ザイオスは目的の男に追いついた。

 通りをすたすたと足早に歩いていく。後ろ姿しか見えないが、長身ですらりとした体型をしているのが分かった。

 男の前に突然数人の兵士が立ちふさがった。

「止まれーっ!」

 男は足を止めた。すぐに身を翻した。だが後ろにはザイオスたちがいる。

「こっちも通せないぜ」

 にやりと笑うと、ザイオスは無造作に男に近づいた。ぎょっとしたように兵士たちが止める。

「ばか、慎重に行け! 相手は白夜だぞ!!」

 その言葉に男が顔を上げ、今までフードで隠されていた帽子と、その下の素顔がはっきり見えた。

「おまえは!?」

 それは『車輪の下』で会ったクレト・ガルメンディアだった。

「待てっ、ちがうっ! こいつは白夜じゃないっ!!」

 剣を抜き、一斉に走りよってきた騎士たちを止めようと、ザイオスはクレトの珍しい帽子をフードごと乱暴に取り去った。

 兵士たちは現れた彼の目の色を見た。赤くない。

「同じ宿に泊まってる。知り合いなんです」
「何だ、人騒がせな」

 兵士たちは一気に緊張を解き、ぶつぶつ言いながら散っていった。
 
 残ったのは、ザイオスとクレト二人だけになった。

 ザイオスはなぜか気軽にクレトに話しかけることが出来なかった。クレトは、殺気だっていたのである。

(なんてぇ雰囲気だよ)

 帽子を彼の頭に被せると、一瞬髪に触れた手を、ビリッとした空気が弾いた。クレトは帽子を抑え、鋭い目を向けてくる。

「返したぜ、悪かったな……そんなに怒るなよ」

 ザイオスが言うと、帽子の縁を下げ、黙って立ち去ろうとする。

「おい、待て!」

 慌てて追いかけた。なぜか、彼の様子が気になった。

 並んで歩きながら努めて明るく問いかける。

「頭頂部がハゲてるのかと疑ってたんだ。髪あるじゃねえか。なんでいつも帽子なんだ」
「ファッションだ」
「そうなの!?」

 クレトはうるさそうに横目でにらむ。再び黙った彼にザイオスはさらりと尋ねた。

「なぜこんな場所にいた?」

 クレトは今度は無言だった。表情が乏しいので、何を考えているか読みとれない。

「白夜が出たの知ってるか? 墳墓の丘で騎士団を殺したらしい」
「……」
「奴等は平民に恨まれているからな、また白夜の英雄説が広がるというわけだ」
「……そうか」
「何しろ残忍な貴族ばかり殺しやがるから……」
「おう」
「おまけにあの格好だ。地母神が復活したと思ってる奴もいるらしいぜ」
「へぇ」
「……おまえなあ」

 ザイオスが話題に乗ってこない相手にぶち切れそうになった。

 このコミュ障丸出しの男に話題をふれとまでは言わないが、少しは会話をしようという気にはなれないのか? 犬相手にしゃべった方がマシだ!

 クレトが立ち止まった。な、なんだよ。ザイオスがたじろく。

「酒は平気だったよな?」

 ぎょっとして、クレトを見つめるザイオス。コミュ障が飲みに誘ってきた!


* * * * *


 戻ってくるなり浴びるようにビールを飲みだした二人を見て、ノアは首を傾げた。

 変わった客だと思っていたが、やはり変わっている。

 二人ともさっきからまるで義務のように黙々と木製のジョッキを口に運ぶだけで、一言も口をきいていない。

「どうしたんだい? あんたたち」

 ザイオスはノアの問いに苦笑いで答えた。

 こっちが聞きたいぐらいだ。

 この無愛想な男は人を飲みに誘っておきながら、まるで一人で飲んでいるのと同じ態度をとってやがる。まー、そうだろうと思ったけど。

 ザイオスから話をふろうにも、さっきのようにそっけない返事がくるだけだろう。

 女の話でもして盛り上がろうかとも思ったが、よく考えてみれば彼はホモだと聞いているし。

 あ、お尻気をつけなきゃ。
 

 それにしてもこの男、けっこう酒に強いな。このハーブの臭いがきついビールがよほど気に入ったのか……ガブガブいってやがる。

 一番大きいジョッキで十杯目だが、ほんのり頬が赤いくらい。

 やがて、思い出したようにボソッとこう言う。

「やはり俺はワイン派だった」

 今度は聖地特産のワインをゴクゴクやりだす。こちらは値が張る特級品だ。

 店主であるノアは勘定の心配ではなく、単純にクレトの様子を気遣っているようだった。

「店の酒全部飲んじまうつもり? あんた、顔はけっこう赤いよ、そこそこ効いてるんだろ?」

 ザイオスは州都にいる仲間たちからザルと呼ばれている。

 その彼をはるかに上回るペースで杯を空にしてゆくクレトに、なぜか不安を感じた。

 何かを忘れようとしているようだ。

 そこまで考えてふと、この男の忘れたい物とはどのようなものだろう、と思った。

 こんな鉄面皮でも辛いと思うことがあるのだろうか。

 ザイオスは彼の顔を盗み見た。

 酔うどころか特に様子は変わらない。

 と、そのとき、彼が口を開いた。

「酔いたい時に酔えないのも、つらいな」

 相変わらずの無表情で無感動に言ったので、彼が本当にそう思っているのか分からなかった。

 ザイオスはビールを飲み干すと、何気なく聞いた。彼が引っ掛かりを覚えていたことだ。

「おまえ、貧民街に知り合いでもいるのか?」

 ゴンッと言う音に横を見ると、クレトはスイッチが切れたようにカウンターに倒れ込んでいた。

(え?)

 ザイオスが焦って彼の顔をのぞき込むと、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 眠ってしまっただけらしい。

 一瞬わざとかと思ったが、本当に熟睡しているのを見て呆れる。

「こいつは限界を迎えると、いきなり寝るタイプなのか。たち悪りーな」

 それにしても、この男は一体何者なのだろう。

 背中につるした長剣は、並の男に扱えるような代物ではない。

 騎士が持つような諸刃の剣ではなく、片刃で薄く細い剣だった。微かに湾曲している。たしか、聖地土産でこんな形の剣を見たことがあるが、異教徒のものでも無い。

「単なる飾りってわけじゃないだろう」

 この禍々しさ。明らかに遣われている剣だ。やはり、戦ってみたい。

「明日はこいつを、今日中止になった予選会に引っぱっていくぞ」

 個人的に決闘を申し込むのも気が引ける。なんとしても闘技会に出場させなければ……。

 ザイオスは死んだように眠っているクレトを見て思った。

 もし今俺が襲いかかったら、こいつは反応するだろうか。

 一瞬、自分の剣を抜いて彼を刺し貫くイメージをしてみた。殺気を込めて。

 以外に察しがいいらしく、ノアがビクッとなりデカンタを落としそうになる。

「スースースー」

 肝心のクレトはぴくりともしない。見込み違いだろうか。

 なんにせよ、貧民街でのことも彼の素性も、どうでもよくなったのは確かだ。

 白夜以外の人間があそこにいようと問題はないんだ。彼の目は赤くない。

 事実、自分だってあの場所にいたのだから。

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