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お仕置だから縛るね

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 そう言った途端、エイベル君の顔から表情が抜け落ちた。

 気のせいかしら、真顔で舌打ちされたんだけど。

 え、エイベル君?

 さらにはくるっと背を向けて部屋を横切り、廊下に出て行ってしまった。

 うそ……置き去りにされてしまったわ。唖然と立ち尽くすことしかできない私だった。

 一体何が!? 何が彼を怒らせてしまったの?

 変なことを言ってしまったみたいだけど、それが何かすら分からない。

 どうしてこう、私は空気を読めないのだろう。人との接し方がダメダメな、氷の鉄仮面のまま。

 怒らせて、終了させてしまった。恋人契約を……記念となる夜を……。

 とりあえず、私が処女のまま人生を終えることは決定した。エイベル君と以外、したくないもん。

 ハラハラ涙をこぼしながら私は俯いた。

 いやよ。怒らせたままサヨナラなんて嫌なの。

 せめてお礼くらい言わせてよ。女の子らしい気持ちを分からせてくれたお礼くらい──楽しかった恋人契約期間のお礼くらい言わせてよ!

 キッと扉を睨み、追いかけるために部屋を出ようとしたその時、先に扉が開いた。

 エイベル君は扉のすぐ前にいた私に一瞬驚き、疑うようにじっと見据えた。それから私の頬に流れる涙を指で拭う。

「そんな加虐心を煽る顔で、どこに逃げようとしていたの?」
「え?」
「中に入って」

 戻ってきてくれたのは嬉しけれど、なんだかまだ怒っているような……。

「そこに立って」

 ベッドの前に立たされた。なんだろう、お説教かしら。何が彼の逆鱗に触れたか分からないが、取り敢えず土下座して謝ろうかしら。

「あの、エイベル君、ごめ──」
「僕、君のこと好きだって言ったよね?」
「う、うん、私も好きよ。何をされてもいいくらい好きよ」

 やや必死になってしまう私。嫌われたくなくて、卑屈になってしまうのだ。

 でもこんな鉄面皮で言われても、彼には届かないわよね。眉尻を下げ、祈るように胸の前で手を握る。

「行かないでほしいの。最後に思い出が欲しいの」

 エイベル君のこめかみが波打つ。あれ、やっぱり怒ってる? なんなの?

 すると彼は、びっくりするほどの満面の笑みを浮かべた。

 えくぼがボコッと引っ込む。いつもなら天使の笑顔だと思うところなのに、今はどう見てもサイコパス。

 彼は私の頬を撫で、はーっとため息をついた。

「やっぱり分かってないね」

 小さく、だけど忌々しそうに呟くと、彼は吹っ切れたように頷いた。

 どこから調達してきたのか分からない赤いロープを、顔の前でビシッと引っ張る。

 黒い前髪がサラリとこぼれ落ち、彼の真紅の瞳を隠した。

「それじゃあ縛るね」
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