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第六章 | クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花
クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ壱
しおりを挟む「敷地にさえいれてくれないって、どういうことだよ!ケチすぎんだろ、あのゴリラちょんまげ」
道修町薬種屋仲間前。尻もちをついたなおは、大声でぎゃんぎゃんと叫んでいた。
「こっちは客だぞ?せめてホップがあるかどうかくらい教えてくれてもよくないか?!」
「唐薬種を見せてくれないか」、そういって門を叩いたのは数分前。しかし入り口で門番の男たちに追い返されてしまった。それでもめげずに中に入れてくれと食い下がったなおは、六尺棒を振りかぶられ、門の外に転がり出る始末だった。
「こっちのことは客とすら思ってないんだよ」
ねねがため息をつく。一見のどこの誰だかわからない輩が、紹介状もなしに唐薬種を買えるはずがないのだ。
「目の前にホップがあるってのに……!喜兵寿、何かいい案はないか?」
なおの言葉に、喜兵寿が考え込む。
「……そうだ、幸民先生の名前を出してみるか!蘭学者として有名なお方だ、ひょっとしたらここにも繋がりがあるかもしれない」
しかし川本幸民の名前をだしたところで、結果は同じ事だった。筋肉マッチョな門番たちに問答無用で押し返される。
「誰かの紹介ならば、紹介状を用意しろ。まあ紹介状があったとて、蘭学者の連れが入れるはずもなかろうがな」
門番は薄く笑いを浮かべ、ぴしゃりと門戸を閉めた。それを見てなおはぎりぎりと歯ぎしりをし、地団太を踏む。
「なんだよ、あいつ偉そうに!もういっそ忍び込むか?もしくは強行突破しちまうか?!」
今にも突っ込んでいきそうななおの襟首を、喜兵寿は掴み持ち上げた。
「一度出直して策を練るぞ。あきちゃんのところへ戻るぞ」
(どうやっても無駄だと思うけど……)
ねねは喉元まで上がってきた言葉をぐっと飲み込むと、2人に向かって手を振った。
「わたしはここから別行動をさせてもらうよ。そろそろ荷主を集めて会合を開かなければならないからね」
その言葉を聞いた喜兵寿となおは慌ててねねに駆け寄り、その手をとった。
「もう行くのか。あまり無理しすぎるんじゃないぞ?何か困ったらすぐに呼べよ」
「大丈夫か?一人で行けるか?」
さっきまであんなに怒っていたにも関わらず、一瞬で表情の変わった二人を見てねねは思わず吹き出す。
「あははは!大丈夫だよ。命まではとられるわけじゃなし」
実際にはどれだけ詰められるかはわかったもんじゃないが、弱音を吐いたところでどうこうなるものではない。ねねは思いっきり口を開けて笑った。
「諸々片付いたら一杯やろう。それまでにそっちもほっぷを手に入れられていることを祈るよ」
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