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ソフィアの葛藤
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私はヒロインになると覚悟を決めてから、自分の気持ちを隠さなくなった。
――わたしはアレクサンドル様が好き。
学園でも徐々に、隠れず堂々と2人でいる時間が増えていった。それに伴い、2人の気持ちは急速に近づいていく。
お昼休みの木陰のベンチは、すっかり2人が落ち合う秘密の場所となっていた。その日も、ベンチに2人で腰掛けて、いつものように他愛のない会話を楽しんでいた。
「アレクサンドル様は試験勉強、順調ですか?」
「アレクサンドル様……か」
王子は質問に答えず、呼称を指摘してきた。
「ソフィア、そろそろ私のことはアレクと呼んでくれないか。お前は私の特別だろ?」
じっと見つめて言ってきた。
「あ、アレク?」
ただ呼び捨てにしただけなのに、恥ずかしくて顔が見れない。自分でも、顔が赤くなるのが分かった。
名前の呼び捨て。それは嬉しい反面、なんだかとても大きな一線を越えるような気がして、急に不安になる。
「……アレク、わたし、あなたとずっと一緒にいたい。でも、わたしにその資格が本当にあるのかな……。わたしはこれからずっと、あなたを好きでいても、いいですか?」
アレクの制服の裾を思わずぎゅっと掴む。アレクが優しく私の頭を撫でてくれた。
「何を言っているんだ。ずっと一緒にいてくれと、私がお願いしたんだぞ。私が選んだのは、お前だけだ」
撫でてくれていた手が、そっと頰に添えられる。
「私はお前が好きだ」
アレクはわたしにぐっと真剣な眼差しを向けると、はっきりと言い切ってくれた。
嬉しくて、思わずわたしの目が潤む。
すると、もうすぐ14歳の少しずつ精悍になりつつあるアレクの美しい顔が、ゆっくりわたしに近づいてきた。まるで全てがスローモーションのよう。わたしの胸が最高潮に高鳴る。
わたしはそっと目を閉じた。
ふわっと感じる唇の感触。わたしのファーストキス。
いつものお昼休みのベンチでのひと時。いつもと同じ空なのに、時間が止まり、すべてが輝いて感じた。
もともとあの乙女ゲームの中でも、アレクは正統派王子様で大好きなキャラだった。
アレクに見つめられるだけで、わたしは何も考えられなくなる。
―――認めよう。前世・今世を通して、生まれて初めて好きな相手と想いが通じ合うという奇跡に、わたしはすっかり恋愛脳に侵されてしまっていた。そう、脳内お花畑状態である。
だから、幸せのあまり、すっかり頭から抜け落ちていた。
―――アレクには、婚約者である公爵令嬢ベルローズがいるということを。
次第に周りもわたし達2人の関係にざわつき出した。
「あの娘、男爵令嬢ではなくて?アレクサンドル様には、公爵令嬢のベルローズ様という完璧な婚約者がいらっしゃるのに、近づき過ぎではなくて?」
「しかも、男爵が妾に生ませた子で、母共々、市井に捨て置かれていたらしいわよ。身分もわきまえずアレクサンドル様に近づくなど、なんて卑しいんでしょう!」
嫌でも耳に入ってくる罵詈雑言。
乙女ゲームをしている時は何も考えていなかったけど、婚約者がいる異性に近づくなんて、前世でも今世でも倫理的に考えれば、どんな理由があろうとも最低だ。例え、アレクとベルローズ様は政略で、アレクが自ら選んだ相手ではなく、2人の関係が冷めきったものだったとしてもだ。
周りが悪口を言うのも、嫌がらせをしてくるのも当然だ。
―――今思うと、ヒロインて狡いなぁ……。虐められて当然なのに、それを理由にアレクに断罪させて婚約破棄って。
(あ、ヒロインって、わたしのことか)
なんだか他人事のように思え、自分の愚かさに、悲しくて笑けてくる。
(ヒロインって、実は悪役だったのね)
でも、わたしはヒロインになるともう決めたし、もう今更後には引き返せない。
でも、ふと冷静になる。
前世で乙女ゲームをしている時は、ハッピーエンドの結末になることしか考えていなかった。
ゲームのエンディングが流れれば、それでお終い。でも、この世界は私にとってリアルである。エンディングの後にも話が続く。
―――ゲームの内容をよく思い出せ。
このまま進むと、おそらく悪役令嬢ベルローズがヒロインであるソフィアを虐めて、卒業パーティーで婚約破棄という流れ。そして、最後のエンディングでは、卒業パーティー終了後に、学園のチャペルでアレクと2人きりでひっそり永遠の愛を誓い合い、口付けをして、幸せに涙しながらハッピーエンドという終わり方ではなかっただろうか。
……わたしは肝心なことに気が付いてしまった!
あのゲームは、アレクが悪役令嬢ベルローズと婚約破棄して、ヒロインと一緒になることを匂わせてハッピーエンドだったとしても、2人がみんなに祝福されてはっきり結婚した訳ではない!!!
よく考えれば、この世界で男爵の娘が、しかも市井でずっと暮らしていたような娘が王妃になれるはずがない。おそらく側室ですら、難しい。
ベルローズ様と婚約破棄したところで、別の上位貴族の娘が正妻に選ばれることだろう。
つまり、あのエンドのソフィアは、愛妾になったということ!?
前世では、一夫一妻制の日本で生まれ育った私だ。今世での母は、わたしが生まれてから父に捨てられ、わたしをとても愛してくれてはいたけど、決して幸せそうには見えなかった。
(絶対、愛妾なんて嫌! アレクが他の女性を妻にして、それを近くで見続けるなんて耐えられない!)
やはりアレクのずっと側にいることは、無理なの……?
わたしは絶望感で、目の前が真っ暗になった。
――わたしはアレクサンドル様が好き。
学園でも徐々に、隠れず堂々と2人でいる時間が増えていった。それに伴い、2人の気持ちは急速に近づいていく。
お昼休みの木陰のベンチは、すっかり2人が落ち合う秘密の場所となっていた。その日も、ベンチに2人で腰掛けて、いつものように他愛のない会話を楽しんでいた。
「アレクサンドル様は試験勉強、順調ですか?」
「アレクサンドル様……か」
王子は質問に答えず、呼称を指摘してきた。
「ソフィア、そろそろ私のことはアレクと呼んでくれないか。お前は私の特別だろ?」
じっと見つめて言ってきた。
「あ、アレク?」
ただ呼び捨てにしただけなのに、恥ずかしくて顔が見れない。自分でも、顔が赤くなるのが分かった。
名前の呼び捨て。それは嬉しい反面、なんだかとても大きな一線を越えるような気がして、急に不安になる。
「……アレク、わたし、あなたとずっと一緒にいたい。でも、わたしにその資格が本当にあるのかな……。わたしはこれからずっと、あなたを好きでいても、いいですか?」
アレクの制服の裾を思わずぎゅっと掴む。アレクが優しく私の頭を撫でてくれた。
「何を言っているんだ。ずっと一緒にいてくれと、私がお願いしたんだぞ。私が選んだのは、お前だけだ」
撫でてくれていた手が、そっと頰に添えられる。
「私はお前が好きだ」
アレクはわたしにぐっと真剣な眼差しを向けると、はっきりと言い切ってくれた。
嬉しくて、思わずわたしの目が潤む。
すると、もうすぐ14歳の少しずつ精悍になりつつあるアレクの美しい顔が、ゆっくりわたしに近づいてきた。まるで全てがスローモーションのよう。わたしの胸が最高潮に高鳴る。
わたしはそっと目を閉じた。
ふわっと感じる唇の感触。わたしのファーストキス。
いつものお昼休みのベンチでのひと時。いつもと同じ空なのに、時間が止まり、すべてが輝いて感じた。
もともとあの乙女ゲームの中でも、アレクは正統派王子様で大好きなキャラだった。
アレクに見つめられるだけで、わたしは何も考えられなくなる。
―――認めよう。前世・今世を通して、生まれて初めて好きな相手と想いが通じ合うという奇跡に、わたしはすっかり恋愛脳に侵されてしまっていた。そう、脳内お花畑状態である。
だから、幸せのあまり、すっかり頭から抜け落ちていた。
―――アレクには、婚約者である公爵令嬢ベルローズがいるということを。
次第に周りもわたし達2人の関係にざわつき出した。
「あの娘、男爵令嬢ではなくて?アレクサンドル様には、公爵令嬢のベルローズ様という完璧な婚約者がいらっしゃるのに、近づき過ぎではなくて?」
「しかも、男爵が妾に生ませた子で、母共々、市井に捨て置かれていたらしいわよ。身分もわきまえずアレクサンドル様に近づくなど、なんて卑しいんでしょう!」
嫌でも耳に入ってくる罵詈雑言。
乙女ゲームをしている時は何も考えていなかったけど、婚約者がいる異性に近づくなんて、前世でも今世でも倫理的に考えれば、どんな理由があろうとも最低だ。例え、アレクとベルローズ様は政略で、アレクが自ら選んだ相手ではなく、2人の関係が冷めきったものだったとしてもだ。
周りが悪口を言うのも、嫌がらせをしてくるのも当然だ。
―――今思うと、ヒロインて狡いなぁ……。虐められて当然なのに、それを理由にアレクに断罪させて婚約破棄って。
(あ、ヒロインって、わたしのことか)
なんだか他人事のように思え、自分の愚かさに、悲しくて笑けてくる。
(ヒロインって、実は悪役だったのね)
でも、わたしはヒロインになるともう決めたし、もう今更後には引き返せない。
でも、ふと冷静になる。
前世で乙女ゲームをしている時は、ハッピーエンドの結末になることしか考えていなかった。
ゲームのエンディングが流れれば、それでお終い。でも、この世界は私にとってリアルである。エンディングの後にも話が続く。
―――ゲームの内容をよく思い出せ。
このまま進むと、おそらく悪役令嬢ベルローズがヒロインであるソフィアを虐めて、卒業パーティーで婚約破棄という流れ。そして、最後のエンディングでは、卒業パーティー終了後に、学園のチャペルでアレクと2人きりでひっそり永遠の愛を誓い合い、口付けをして、幸せに涙しながらハッピーエンドという終わり方ではなかっただろうか。
……わたしは肝心なことに気が付いてしまった!
あのゲームは、アレクが悪役令嬢ベルローズと婚約破棄して、ヒロインと一緒になることを匂わせてハッピーエンドだったとしても、2人がみんなに祝福されてはっきり結婚した訳ではない!!!
よく考えれば、この世界で男爵の娘が、しかも市井でずっと暮らしていたような娘が王妃になれるはずがない。おそらく側室ですら、難しい。
ベルローズ様と婚約破棄したところで、別の上位貴族の娘が正妻に選ばれることだろう。
つまり、あのエンドのソフィアは、愛妾になったということ!?
前世では、一夫一妻制の日本で生まれ育った私だ。今世での母は、わたしが生まれてから父に捨てられ、わたしをとても愛してくれてはいたけど、決して幸せそうには見えなかった。
(絶対、愛妾なんて嫌! アレクが他の女性を妻にして、それを近くで見続けるなんて耐えられない!)
やはりアレクのずっと側にいることは、無理なの……?
わたしは絶望感で、目の前が真っ暗になった。
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