悪役令嬢は、幼馴染の恋を応援する。

平樹美莉

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新たなゲームの始まり

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 ―――やはり、この世界のイヴァンはおかしい?

 それは、わたしがアレクへの想いと未来の現実との狭間で葛藤する毎日を送っている頃だった。
 イヴァンの様子が変であると気が付いたのは。
 イヴァンは学園に入学してからしばらくして、少しずつ髪の毛を伸ばすようになった。この時点でもおかしいなと思っていた。わたしの知るゲームのイヴァンは、短髪だったから。
 学園2年目を過ぎた頃には、言葉遣いや仕草まで、どことなく女っぽくなってきた。

 わたしの乙女ゲームの記憶では、イヴァンはそういうキャラではない。イヴァンはサラサラした銀の短髪で、いつも冷静沈着、学園ではいつも首席のインテリタイプのキャラ設定だったはずである。

(何が起きてるの!?)

 そういえば、そろそろ起きるはずの、ベルローズからの接触も嫌がらせもない。何かがおかしい。

 そして13歳の秋、授業が終わって1人教室の外に出たタイミングで、すっかり髪の毛が伸び、美しい銀髪を緩やかに結わえるようになったイヴァンが廊下で声を掛けてきた。

「ち、ちょっとアンタ、悪いけど、私のアレクサンドル様に纏わりつくのはやめてちょうだい!」
「えっ!?」

 一瞬聞き間違えかと、自分の耳を疑った。
 でも、何だろう?この懐かしい感じ……。

「アンタよ、アンタ。アンタに言ってんの。いつもアレクサンドル様にベタベタして、目障りなのよ!」

(そうだ!これは、オネエ? 前世でそんな芸能人が流行ったこともあったっけ?)
(あれ? でも、オネエって、この世界にはいないよね!?)

 ……もしかして!?

 そもそもイヴァンが悪役令嬢に恋をしている時点でイレギュラーだし、さらに異性愛者の設定のイヴァンがなんだかオカマになっているし、すでにゲームの世界と大分ズレている。
 こんなにズレているのにはきっと理由が……。
 私みたいな人間が、他にいてもおかしくない。

(これは確認しなくては!)

 わたしはイヴァンの袖を掴んで、引き摺るように空き教室に連れ込んだ。
 教室の中に誰もいないことを確認する。

「イヴァン様、‘オネエ’という言葉を知っていますか?」

 わたしは両腕を組み、仁王立ちになり、イヴァンを問い詰める。

「な、何のことかしら?」
「イヴァン様が使われている言葉は、‘オネエ’言葉ですよね!?」
「?」

 彼は何を言われているのか分からないという顔をしている。

「この国にもオカマな人はいると思うけど、その場合、女らしく‘貴女’と言うと思います! 貴族なのに ‘アンタ’なんていうのは、オネエですよねっ!?」

(まだ分からないの? おいおい、インテリキャラのイヴァン様は、どこにいったの?)

 わたしはすぅっと息を吸い、トドメの一言を放った。

「この世界に、‘オネエ’という概念はおりません。イヴァン様、あなた、私と同類ですねっ!?」

 彼の口がぽかんと空き、顔が固まる。

「え!?え!?君も!?転生者!?」

 わたしは大きく頷く。

 ―――これはチャンスではなかろうか。未来を切り開くための仲間を作る……。

「イヴァン様は、ベルローズ様のことが好きなんですよね?」
「え!?なんで知ってるの?」
「イヴァン様の目線を追えば、いつもベルローズ様がいました。バレバレです」

 イヴァンは視線を明後日の方向に向け、ポリポリと頬をかく。

「わたしはアレクサンドル様が好きです。でも、ワンオブゼムは嫌なんですっ!この感覚、元日本人の貴方なら分かりますよね?」

 私はぎゅっと手を握り締めて、話を続ける。

「この世界の王室は、側室も愛妾も認められています。わたしの身分だと、せいぜい頑張っても側室。そんなの絶対に嫌っ!別に正室という地位が欲しい訳ではないの。……我儘かもしれないけど、アレクを他の女の人と共有とか、考えられない……」

 わたしは、強い意志を込めて、イヴァンを見つめる。

「イヴァン様、わたしと手を組みませんか?」
「手を組む?」
「イヴァン様はベルローズ様を悪役令嬢にしたくありませんよね? 断罪されれば、彼女は修道院送りか国外追放。それを免れたとしても、一生その罪を背負って生きていかなければなりません」

 イヴァンの表情が険しくなるが、私は言葉を続ける。

「わたしが卒業パーティでベルローズ様を断罪して婚約破棄にしても、結局、別の上位貴族の令嬢が新たな王子妃候補として挙がってきます。わたしはアレクサンドル様が他の女性と結婚するのを横で見ているのは嫌なのです。……だから、わたしがなんとか、ベルローズ様が悪役令嬢にならずに婚約破棄をできるようにイヴァン様を手伝います。その代わりに、上位貴族であるイヴァン様は私の後ろ盾作りに協力してください!」

 イヴァンが難しい顔をして、腕を組んで考え込む。

「我が家は侯爵家で父は重鎮だが、あくまでも力があるのは父だ。侯爵家の嫡男だからと言って、君を正室にできるほどの権力がある訳ではない。どこまで君を助けられるか分からないよ」

 わたしは唇をきつく噛み締め、俯いた。
 やはり現実はそう簡単にはいかないか……。
 2人の間に、しばし沈黙が流れる。

「……でも、僕たちには、他の人が持ってない前世の知識がある。知恵を絞って、やれるだけのことをやってみるか? この世界で」

 わたしがパッと顔を上げると、イヴァン様が何かを企む笑みを浮かべていた。

「でも、アレクサンドル王子が一夫一妻制に納得しなかったらどうする?」
「それはわたしがなんとかするわ」

 イヴァンが大きく頷いた。

「分かった。手を組もう」
「協定成立ね!」

 わたしが右手を差し出すと、イヴァンがぐっと握り返してくれた。


 ―――さぁ、ここから、わたし達の本当のゲームが始まる。
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