悪役令嬢は、幼馴染の恋を応援する。

平樹美莉

文字の大きさ
10 / 12

勇気を出して 〜ソフィア〜

しおりを挟む
 お昼休みの休憩時間、いつもの木陰のベンチで、わたしは緊張の面持ちで、アレクを待っていた。

(……イヴァンには、ああ言ったけど、本当は自信ないなぁ)

 ゲームの話の流れでは、このままわたしとアレクの仲が深まれば、いずれアレクとベルローズ様は婚約破棄をする。
 でも、わたしとイヴァンが転生者ということが影響して、ストーリーはすでにゲームと異なる進み方をしている。

 ―――ベルローズ様が悪役令嬢化しないのなら、アレクは婚約破棄をする理由はないのだろうか?

 淑女教育、妃教育をしっかり受けたベルローズ様が正室になり、わたしが愛妾にでもなればアレクにとっては万々歳。
 いくらアレクがわたしを好きでいてくれても、アレクはベルローズ様と別れる必要性がないのだ。
 イヴァンには、大見栄張っちゃったけど……。

 ―――アレクは本当にわたしと結婚したいと望んでくれるだろうか?

(わたし、知るのが怖いよ)

 わたしは目を瞑り、深く溜息をついた。
 すると頭をぽんぽんと優しく叩かれ、わたしが顔を上げると、いつの間にか、アレクが目の前に立っていた。

「なんだか思い詰めているみたいだけど、何か悩み事か?」

 アレクが心配そうに見つめてくる。

「あっあのっ、アレクに重要な話が……」

 わたしがアワアワしながら言うと、アレクはわたしの横に腰掛けた。
 わたしは意を決して、アレクの目を見て、話し出そうとするが、なかなか言葉が出てこず、口をパクパクさせてしまう。
 そんなわたしの手を、アレクがぎゅっと握ってくれた。

「あ、あのっ、わたし、アレクが好きです! こんなこと聞くと、アレクに嫌われるかもしれないけどっ、アレクはわたしに側にいて欲しいと言ってくれたのは、愛妾としてですか? 我儘だとは思うけど、わたし、アレクが別の誰かと結婚するのを横で見ているのは、きっと耐えられないっ!」

 感情的になり過ぎて、私の目に涙が浮かぶ。
 わたしの目に浮かんだ涙をアレクがそっと指で拭ってくれた。

「……すまない。私はソフィアを不安がらせていたのだな」

 アレクが悲しそうな顔をする。

(ああ、やっぱり……)

 私は胸が痛むのを耐え、両手を固く握り締めた。
 そんなわたしを、アレクがぎゅっと抱き寄せた。

「正直、私は結婚という未来のことは深く考えていなかった。ソフィアと一緒にいることしか……。まだ14歳だし、結婚はまだまだ先のことだと……。でも、ほとんど会話することもない名ばかりとはいえ、私には婚約者のベルローズがいるもんな。お前にもベルローズにも不誠実だった」

 抱き寄せられて感じていた、アレクの体温がすっと離れる。アレクが私の肩に手を置き、私の目を真剣な眼差しで見つめて、話を続けた。

「私は唯一の相手としか、神に愛を誓いたいとは思わない。つまりお前だ。私は第2王子だし、そこまで跡継ぎについては言われないだろうから、生涯お前だけを妻にすることを誓おう」
「あっ、ありがとう」

 思わずお礼を口にすると、アレクは優しく微笑んでキスを落とした。目元の涙に、頰に、そして唇に。
 お互い額を合わせて、笑い合った。

「でも、ベルローズは公爵の娘だからなぁ。婚約を破棄するには、父上の説得も大変そうだ。ソフィアも協力してくれるか?」

 わたしはばっと顔を上げた。

「そっ、そのことなんですけど!」

 そして、わたしはイヴァンの話を切り出した。
 イヴァンとの話を全部話し終えて、アレクを見ると、固まっている。

「……イヴァンの協力を得るのは分かった。ベルローズを幸せにしてくれるのなら、有り難い。……しかし、なぜにイヴァンが男色になり、わたしに惚れる必要があるのだ?」

 アレクは難しそうな顔をして、首を傾けている。
 やはりアレクには理解不能だったらしい。

「そっ、それは、イヴァン様ご自身の結婚話が出ないようにするためです! ベルローズ様は公爵令嬢ですし、それなりに作戦を立てないと、簡単には婚約破棄できません! 長期戦になることが予想されます!」

(ベルローズ様を悪役令嬢にさせないためだなんて、説明できないから、もうここは勢いでいくしかない!)

「そっ、それに、イヴァン様はベルローズ様の側にいてあげたいそうです! 普通なら、第2王子の婚約者の側に、異性の友達が近づく訳にはいきません! イヴァン様とベルローズ様は元々仲の良い幼馴染だそうですが、そのため、今は距離を置いていたそうです。男色になって、女友達のようでいいから、側にいたいそうですっ!」

 とりあえず勢いに任せて、説得する。
 わたしの勢いに押されたのか、アレクは目を丸くして聞いている。

「わ、分かったよ」

 アレクの顔にはまだハテナが残っているが、なんとか納得してもらえたようだ。

(よっしゃ!)

 わたしは心の中でガッツポーズを決める。

「それに、これが成功すれば、イヴァン様がわたしの後ろ盾についてのいい策を考えてくださるそうです!」

 わたしが胸を張って言うと、アレクは心配そうな顔をする。

「イヴァンが優秀なのは知っているが、どうも私の理解を超えるところがある。その作戦、本当に大丈夫なのか?」
「また、3人で相談しましょっ!」

 ねっ!とわたしは頑張って嘘くさい笑みを貼り付けて、アレクに同意を求めたが、内心は穏やかではない。


 ―――ごめんなさい、アレク。実はわたしもすごく心配しています……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

モブとか知らないし婚約破棄も知らない

monaca
恋愛
病弱だったわたしは生まれかわりました。 モブ? わかりませんが、この婚約はお受けいたします。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

処理中です...