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第四章 パレスチナの月
救出
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「地球の子」
四、パレスチナの月
ここはどこだろう。上半身は暖かいが、足元が寒い。両手と両足は硬い椅子に括り付けれていて、身動きが取れない。薄いワンピースをはおっただけなので、足元から吹いてくる冷たい風が、次第に体に回り始めてきた。目の前は目隠しされていて見えない。
クエナは疲れ切っていた。何度も何度も誰かがここに来て、自分の中を引っ掻き回しては大事な情報を抜き取っていった。いや、まだ情報は残っているから、コピーされたのだろう。クエナとクリスフォード博士をさらった人間がそれで何をしようとしているのか、それはわからなかった。よくないことに使われるのだろう、そんな予感もした。
ふと、風が止まった。誰かの気配がする。遠くから、靴音を立ててこちらに近づいてくる。また情報を抜かれるのだろうか。恐怖で体が硬くなる。しかし、それもわずかな間だった。その靴音は、クエナが閉じ込められている部屋の前で止まって鍵を開け、中に入ってきた。
新しい風が吹いた。暖かくはないが爽やかな風だ。懐かしい風、故郷のアンデス山脈を吹き渡る厳しい風。そして、晴れた日の日向に吹く柔らかな風。
クエナのすぐ前に立ったその人は、彼女の目隠しはそのままで、彼女を椅子に縛り付けていた金属を外した。そして、その手を取って立ち上がらせた。
「担ぐが、いいな?」
男性とも女性とも言える、中性的な声。クエナにはそれが誰なのかよくわかった。大地から空を仰ぐクエナとは対照的な存在。いや、それさえ包括してしまいそうなほど大きな存在。
彼とも彼女とも言えないその存在は、何も言わずに頷いたクエナを担ぎ上げた、そして、部屋を出ると、強い風が吹いてくる狭い通路を走った。後ろからいくつもの足音が聞こえる。追手がついているのだろう。
クエナを担いだその人は、狭い通路を抜けて、もっと風の強い場所に出た。それは大きなクルーズ船の甲板で、追われるままに走っていくと、ついに船のヘリまで辿り着いてしまった。
しかし、そこでその人が追い詰められることはなかった。彼とも彼女とも言えないその人は、クエナを担いだまま、海の方へと跳んだ。
追手の人間たちは、海へと落ちていくはずのクエナたちを追った。しかしそこには何もなく、ただ、船に割られた波が大きな動きで去って行くだけだった。
突然、現れて消えた人間、おそらくは攫われたクエナを取り戻しにきた何かだったのだろう。追手の人間たちは、誰もそこにいないのを確かめると、その場から去っていった。
四、パレスチナの月
ここはどこだろう。上半身は暖かいが、足元が寒い。両手と両足は硬い椅子に括り付けれていて、身動きが取れない。薄いワンピースをはおっただけなので、足元から吹いてくる冷たい風が、次第に体に回り始めてきた。目の前は目隠しされていて見えない。
クエナは疲れ切っていた。何度も何度も誰かがここに来て、自分の中を引っ掻き回しては大事な情報を抜き取っていった。いや、まだ情報は残っているから、コピーされたのだろう。クエナとクリスフォード博士をさらった人間がそれで何をしようとしているのか、それはわからなかった。よくないことに使われるのだろう、そんな予感もした。
ふと、風が止まった。誰かの気配がする。遠くから、靴音を立ててこちらに近づいてくる。また情報を抜かれるのだろうか。恐怖で体が硬くなる。しかし、それもわずかな間だった。その靴音は、クエナが閉じ込められている部屋の前で止まって鍵を開け、中に入ってきた。
新しい風が吹いた。暖かくはないが爽やかな風だ。懐かしい風、故郷のアンデス山脈を吹き渡る厳しい風。そして、晴れた日の日向に吹く柔らかな風。
クエナのすぐ前に立ったその人は、彼女の目隠しはそのままで、彼女を椅子に縛り付けていた金属を外した。そして、その手を取って立ち上がらせた。
「担ぐが、いいな?」
男性とも女性とも言える、中性的な声。クエナにはそれが誰なのかよくわかった。大地から空を仰ぐクエナとは対照的な存在。いや、それさえ包括してしまいそうなほど大きな存在。
彼とも彼女とも言えないその存在は、何も言わずに頷いたクエナを担ぎ上げた、そして、部屋を出ると、強い風が吹いてくる狭い通路を走った。後ろからいくつもの足音が聞こえる。追手がついているのだろう。
クエナを担いだその人は、狭い通路を抜けて、もっと風の強い場所に出た。それは大きなクルーズ船の甲板で、追われるままに走っていくと、ついに船のヘリまで辿り着いてしまった。
しかし、そこでその人が追い詰められることはなかった。彼とも彼女とも言えないその人は、クエナを担いだまま、海の方へと跳んだ。
追手の人間たちは、海へと落ちていくはずのクエナたちを追った。しかしそこには何もなく、ただ、船に割られた波が大きな動きで去って行くだけだった。
突然、現れて消えた人間、おそらくは攫われたクエナを取り戻しにきた何かだったのだろう。追手の人間たちは、誰もそこにいないのを確かめると、その場から去っていった。
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