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05 城下町へ

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 るーんたった、るんたった、知らない世界だ、るんたった。


 ハニー・ビーは召喚された部屋から、あっさりと城外へと辿り着いた。不安げな様子は欠片も無い、鼻歌交じりである。


 部屋を出た後に隠形を使う事も考えたが、この世界の人間が自分を見てどういう反応をするのかを確認したくて、敢えて姿をさらして城内をを歩いた。しかし、廊下の中央を堂々と歩くハニー・ビーを見た使用人たちは、見慣れぬ少女に対して目を伏せたまま廊下の端へ移動し最敬礼を取るので、少々肩透かしの感は否めなかった。


 不審者だろうに、いいのかな。


 ハニー・ビーはそう考えたが、招かれざる客は普通こんなに堂々と城を闊歩したりしないものだ。こそこそとする見るからに怪しい者ならともかく、この国の物ではない服装と容姿、我が物顔に歩く姿とが相まって外国の貴人とであろうと思われたことを、本人は知らない。

 貴人がお付きの者もおらずに一人歩きをしていることに関しては見てみぬふりだ。

 使用人はあくまで使用人。護衛や警備を担う役職ではないのだ。


「さっきの方、どなただったのかしら?」

「さあ?お城のお客様なんでしょうけど、見たことのない方だったわね。お1人で歩いてらしたけど見たこともないようなご衣裳だったから、外国の方ね」

「うちの国ではご令嬢が一人歩きなんて考えられないけど、他所の国にはよその国の風習があるものね」


 ハニー・ビーに大した関心を示すこともなく、こうして彼女は城を1人で歩くことができたのだった。


 さすがに城外に出るときは誰何されるかと思いきや「お嬢様、お1人で大丈夫ですか?何かございましたら此方で対処致しますのでご遠慮なく」と門番に見送られる始末。


 城に入るより出る方が難易度は低いだろうと思ってはいたが、こんなんで大丈夫なのか?国難がどーのと言ってたけど、割と平和な国なお国柄?緩すぎるぞ、ランティス。


 元の世界でいた国程ではないけれど、この国はセキュリティに関してザルなんだなぁと思ったハニー・ビーだった。


 悪い人ではないんだろうな、匂いは良かったし。と、ハニー・ビーはガーラントの事を考えた。

 もちろん、いい人だと言うつもりは無いけど。


 視野が狭くて、思い込みが強くて、器が小さくて、自信過剰の夏虫。うん、いい人ではない。


 ガーラントがハニー・ビーに服従の陣を刻んだ腕輪を差し出したとき、おかしくて笑いそうになったことを思い出す。あの程度の魔法陣であたしを従えることが出来ると思っていたなんてちゃんちゃらおかしい。滑稽至極。

 あの程度で魔法使いの頂点かぁ……いやいや、国王の甥だと言っていたから実力云々ではなく名誉職かもしれん。本当にトップだったとしても、在野に本当の実力者がいるかもだし。あんなことを言っておいて自分が夏虫でしたじゃ笑えない。


 しかし、服従したと考えた彼が出した指示は、召喚の事は内緒にしてね?この国の人を傷つけないでね?嘘ついちゃイヤ。あ、自分を傷つけるのもダメね。なんていう可愛らしい物だった。

 聖女召喚の筈が現れたのは魔女。無かったことにしたいなら、ハニー・ビーの存在そのものを削除すればいい。なのに、ガーラントはそのような命を下さなかった。力量差から言って不可能な事ではあったのだが、やろうともしなかった。


 甘い男だな。


 クスクスと笑いながら、ハニー・ビーは足を進める。


 城を出て先ずあったのは国の機関だろうか?規模の大きな建物がいくつもあった。遠くに馬場も見える。あとは演習場かな?闘技場かな?円形の観客席付き施設。先に進むと貴族街であろう、大きな屋敷が連なっている。連なると言ってもそれぞれ広大な敷地を有していて一軒一軒の距離はある。

 お偉いさんのお家には用は無いしねー、と更に進む。


 歩くこと一時間。段々とお屋敷の規模が小さくなっていき、高級そうな商業施設の前も素通りし、ハニー・ビーはやっと一般庶民の生活圏に辿り着いた。足が疲れた。元の世界では長距離は歩かずに跳ぶことが多かったからちょっと鈍ってる。師匠にバレたら魔封じされた上に未開の地に放り投げられてしまうから鍛え直した方がいいかもしれない。


 鍛錬することを誓ったハニー・ビーは町の様子を確かめる。


 荒んだ感じは無い。待ちゆく人々は清潔だし、小さな子どももが笑顔で走り回っている光景は治安の良さもうかがわせる。


 瘴気とやらで国の危機なんじゃなかったんかい。いやいや、さすがにここは国王の御膝下なんだし、ヤバいのはもっと地方の方か?


 別の世界から誘拐した誰かに何かをさせねばならぬほどの切羽詰まった様子が見えない城下町を眺め、少しほっとしたハニー・ビーはとりあえず現地の通貨を手に入れなければなぁと思った。


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