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第2章 迷宮都市と主の脅威
幕間 side.ステイン
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(今回は前回お知らせした通り、ステイン視点での22~31話です。1.5人称視点で進みます)
俺はステイン、この迷宮都市ディアラで活動しているCランク冒険者だ。
Bランクパーティ「太陽の剣」というパーティに所属している。ガキの頃街のスラムにいた俺をリーダーであるグリンジャーさんに拾ってもらってからずっとだ。
「太陽の剣」はこの迷宮都市のトップチームで、実力だけなら50人近いそのメンバーの中でもCランク冒険者である俺はそれなりに上にいると自負している。
そして俺は今日、グリンジャーさんに呼ばれ他のメンバーと共に拠点であるパーティハウスにいた。
「魔物の大量発生、ですか?」
「そうです。先日35階層でAランクモンスターサイクロプスが発生したようでしてね。それ自体は討伐されたらしいのですが、その影響か35層を中心に魔物が大量発生、しかも集団暴走一歩手前だとか」
「それ、かなりの大問題じゃないですか!」
「えぇ、なのでギルドからDランク以上のパーティに向けて緊急依頼が発令されました。そして我々『太陽の剣』がその陣頭指揮を執って欲しいとのことです。」
ここディアラには迷宮が存在する。そこには魔物が跋扈していて、下の階に降りる程強い魔物達が生息している。
35階層はその中でも下層と呼ばれる階層であり、ほぼ未開の階層"深層"を除けば最も下の階層区分に分類される。
当然そこに生息する魔物も強く、DランクやCランクと言った中堅が1体1で苦戦する魔物が多い。中にはCランク上位でも苦戦するような魔物もいるほどだ。
そんな下層で魔物が大量発生となれば超がつくほど一大事だ、更にスタンピードとなれば下層の魔物達が階層を無視して暴れ回る。甚大な被害が出ることは明らかだろう。
「今回は状況が状況ですので、この場にいる下層で単独戦力が十分なメンバー全員で向かいます。本日2時にギルドの第1会議室で依頼の説明と作戦会議を行いますので頭に入れておいてください」
「「「はい!」」」
メンバー達の返事を聞いたグリンジャーさんはそのままパーティハウスを後にした。
テンションが上がるのを感じる。Dランクパーティ以上、つまり実力者のみの依頼。しかウチのトップメンバー達と一緒でのだ。俺はワクワクを抑えるように会議に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんでFランク冒険者なんて雑魚がこの場にいるんだ!」
俺は声を上げて立ち上がった。
俺は視線を1人の男に向けている。名前は確かリュートとか言っていた。
今回の依頼は下層での魔物の群れの討伐で一応Dランクパーティ以上のみが参加できるとはなっているが、実質難易度から考えて実力者でなければ参加できない。
事実ここにいる他のメンバーは実力あるDランクが数人いるくらいで残りはみんなC以上だ。
Fランク冒険者なんていう雑魚にこの依頼を受ける資格なんてない。あっていいはずがない。
俺は内より湧き出る情に任せ更に続ける。
「ここに来れるのはDランク冒険者以上だ、お前みたいな場違いはさっさと出てい……っ!」
しかし俺は最後まで言葉を言い切ることができなかった。遮るようにとんでもない圧力が放たれる。まるで首筋に刃物が突きつけられているかのように死を感じる。
何事かと考えるすぐに答えにたどり着く。そして怒りがこみ上げる。
圧力の正体は目の前のリュートとかいう男のさっきであり、俺は Fランク冒険者の殺気に怯んだのだ。
ふざけんじゃねぇ
俺は怒りのままに目の前の男に怒鳴りつけようとする。だがそれはやはり不発に終わる。
「ステイン」
低い声と共に広がる冷たい圧。リュートの殺気に勝るとも劣らないそれは俺の真横から出されている。
俺のリーダーであるグリンジャーさんが怒りの顔を露わにしてこちらにむいていた。俺は何とか抗弁しようとするが、黙らされる。
恩人であり普段温和なグリンジャーさんに窘められたことで俺の気分は酷く落ち込んだ。そしてリュートという男への不満が残ったまま会議は終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気に食わない。
リュートとかいうやつは結局あのまま作戦に参加した。しかもグリンジャーさんが彼に付き添う形になったのだ。それだけでも不満なのに、あいつはグリンジャーさんの力で真っ先に拠点予定地についてやがった。
しかもそれをさも同然のような態度でいる。
更に、このあとの作戦では参加者の中でも精鋭で構成される下層側から追い立てる側に参加することになったのだ。身の程を知らねぇやつが、覚えてろよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして俺たち下層組は魔物の群れの中を突っ切り、38階層まで到着した。そこはここまでの階層と違いいつも通りの魔物の数であった。
周囲を確認したグリンジャーさんは下層組の他の冒険者パーティ達を集める。
「群れを抜けたみたいですね。では、我々もここから魔物達を上へ追い立てる作業に入りましょうか」
「……グリンジャーさん」
これから上へ登ろうと言う時になってリュートのやつがグリンジャーさんに声をかけてきた。これまで殆ど口出ししてこなかったこいつが突然深刻な顔で話し始めたことに不信を覚える。
そしてリュートのやつは、これがただの大量発生ではないとか言い出した。奇妙な点があるからと。加えて、聞いたこともないような魔物の名前を出して、今回のはそいつの仕業だとか言い出した。
しかもなんと、リュートのやつはこの場に及んで作戦の変更を提言してきやがった。聞いたこともないような魔物を倒すために人員を出せと。
俺は遂にブチ切れた。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
完全に調子に乗っているリュートに俺は怒気をぶつける。あいつもまた俺に向かって殺気を飛ばしてきた。
上等だ。お前がその気ならやってやるよ。FランクとCランクの壁ってのを見せてやる。
「ちょっと、黙っててくれないかな」
「あん!?……っ」
そして、剣の柄に手をかけた俺を見て、リュートのやつは俺をみてため息を吐きやがった。許さねぇ。ケンカを売ったこと後悔させてやる。
俺は剣を抜いた。だが、次の瞬間
リュートの姿が消えた。
そして腹部に衝撃。蹴られたと気づいたのは吹き飛ばされ壁に激突してからだった。
そして更にリュートはいつの間にか手に持っていたものをこちらに飛ばし、それが俺の首筋に刺さる。それは真っ白な短剣である。その短剣は俺の首の薄皮を1枚切っていた。
「ひ……ぃっ」
俺は情けない声を漏らす。
俺が殺されかけたのをみてグリンジャーさんが俺の前に立ち庇う。俺はそれをぼんやりと認識していた。やがて落ち着いたのか2人の雰囲気は穏便に戻り、リュートのやつは再びグリンジャーさんと話し始める。俺は一瞬で殺されかけたという事実に未だ呆然としていた。そして我を取り戻すと共に察した。
こいつは俺よりも遥かに強い
落ち着いた俺は再び2人の話に聞き耳を立てる。どうやらリュートの案が通ったらしい。二正面作戦のように両方に同時に対処する方針のようだ。
俺はチャンスだと思った。
「俺も行かせてくれ!!」
ついて行かねばならない。なんとなくそんな気がしたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして"主"とやらの討伐メンバーに動向した俺は、そこでとんでもないものを見る。巨大な異形の魔物「アルラウネ」。その存在感に俺は圧倒された。
勝てない。そう悟ってしまえる程の力量差。目の前の脅威に足も震える。
だがそんな中でグリンジャーさんとリュートはアルラウネに戦いを挑んだ。俺たちはアルラウネにつられて現れた通路の魔物をなんとかするので精一杯であり、あの化け物相手に実質2人である。
そこから先の戦いは凄まじいの一言だった。俺は魔物達の密度が下がった時にチラチラと視線を向けただけであったが、それでも十分わかる。
行われる高速戦闘、俺では目で追うのがやっとのような速度での高度な動きと技術。単純な力量で化け物のようなアルラウネを圧倒している。
更に途中からアルラウネの姿が変わり、更に苛烈になってもそれは変わらなかった。
そして最後、グリンジャーさんとリュートの連携によって繰り出された一撃がアルラウネを切り裂いた。
目の前の魔物達の処理をしながら見ていた俺は思わず呟いた。
「すげぇ……」
それは本心から出た言葉で、もうリュートに対する不満や格下に見るような気持ちは無くなっていた。
あったのは遥か高みにいる存在に対する羨望であった。
俺はステイン、この迷宮都市ディアラで活動しているCランク冒険者だ。
Bランクパーティ「太陽の剣」というパーティに所属している。ガキの頃街のスラムにいた俺をリーダーであるグリンジャーさんに拾ってもらってからずっとだ。
「太陽の剣」はこの迷宮都市のトップチームで、実力だけなら50人近いそのメンバーの中でもCランク冒険者である俺はそれなりに上にいると自負している。
そして俺は今日、グリンジャーさんに呼ばれ他のメンバーと共に拠点であるパーティハウスにいた。
「魔物の大量発生、ですか?」
「そうです。先日35階層でAランクモンスターサイクロプスが発生したようでしてね。それ自体は討伐されたらしいのですが、その影響か35層を中心に魔物が大量発生、しかも集団暴走一歩手前だとか」
「それ、かなりの大問題じゃないですか!」
「えぇ、なのでギルドからDランク以上のパーティに向けて緊急依頼が発令されました。そして我々『太陽の剣』がその陣頭指揮を執って欲しいとのことです。」
ここディアラには迷宮が存在する。そこには魔物が跋扈していて、下の階に降りる程強い魔物達が生息している。
35階層はその中でも下層と呼ばれる階層であり、ほぼ未開の階層"深層"を除けば最も下の階層区分に分類される。
当然そこに生息する魔物も強く、DランクやCランクと言った中堅が1体1で苦戦する魔物が多い。中にはCランク上位でも苦戦するような魔物もいるほどだ。
そんな下層で魔物が大量発生となれば超がつくほど一大事だ、更にスタンピードとなれば下層の魔物達が階層を無視して暴れ回る。甚大な被害が出ることは明らかだろう。
「今回は状況が状況ですので、この場にいる下層で単独戦力が十分なメンバー全員で向かいます。本日2時にギルドの第1会議室で依頼の説明と作戦会議を行いますので頭に入れておいてください」
「「「はい!」」」
メンバー達の返事を聞いたグリンジャーさんはそのままパーティハウスを後にした。
テンションが上がるのを感じる。Dランクパーティ以上、つまり実力者のみの依頼。しかウチのトップメンバー達と一緒でのだ。俺はワクワクを抑えるように会議に向かった。
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「なんでFランク冒険者なんて雑魚がこの場にいるんだ!」
俺は声を上げて立ち上がった。
俺は視線を1人の男に向けている。名前は確かリュートとか言っていた。
今回の依頼は下層での魔物の群れの討伐で一応Dランクパーティ以上のみが参加できるとはなっているが、実質難易度から考えて実力者でなければ参加できない。
事実ここにいる他のメンバーは実力あるDランクが数人いるくらいで残りはみんなC以上だ。
Fランク冒険者なんていう雑魚にこの依頼を受ける資格なんてない。あっていいはずがない。
俺は内より湧き出る情に任せ更に続ける。
「ここに来れるのはDランク冒険者以上だ、お前みたいな場違いはさっさと出てい……っ!」
しかし俺は最後まで言葉を言い切ることができなかった。遮るようにとんでもない圧力が放たれる。まるで首筋に刃物が突きつけられているかのように死を感じる。
何事かと考えるすぐに答えにたどり着く。そして怒りがこみ上げる。
圧力の正体は目の前のリュートとかいう男のさっきであり、俺は Fランク冒険者の殺気に怯んだのだ。
ふざけんじゃねぇ
俺は怒りのままに目の前の男に怒鳴りつけようとする。だがそれはやはり不発に終わる。
「ステイン」
低い声と共に広がる冷たい圧。リュートの殺気に勝るとも劣らないそれは俺の真横から出されている。
俺のリーダーであるグリンジャーさんが怒りの顔を露わにしてこちらにむいていた。俺は何とか抗弁しようとするが、黙らされる。
恩人であり普段温和なグリンジャーさんに窘められたことで俺の気分は酷く落ち込んだ。そしてリュートという男への不満が残ったまま会議は終わった。
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気に食わない。
リュートとかいうやつは結局あのまま作戦に参加した。しかもグリンジャーさんが彼に付き添う形になったのだ。それだけでも不満なのに、あいつはグリンジャーさんの力で真っ先に拠点予定地についてやがった。
しかもそれをさも同然のような態度でいる。
更に、このあとの作戦では参加者の中でも精鋭で構成される下層側から追い立てる側に参加することになったのだ。身の程を知らねぇやつが、覚えてろよ。
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そして俺たち下層組は魔物の群れの中を突っ切り、38階層まで到着した。そこはここまでの階層と違いいつも通りの魔物の数であった。
周囲を確認したグリンジャーさんは下層組の他の冒険者パーティ達を集める。
「群れを抜けたみたいですね。では、我々もここから魔物達を上へ追い立てる作業に入りましょうか」
「……グリンジャーさん」
これから上へ登ろうと言う時になってリュートのやつがグリンジャーさんに声をかけてきた。これまで殆ど口出ししてこなかったこいつが突然深刻な顔で話し始めたことに不信を覚える。
そしてリュートのやつは、これがただの大量発生ではないとか言い出した。奇妙な点があるからと。加えて、聞いたこともないような魔物の名前を出して、今回のはそいつの仕業だとか言い出した。
しかもなんと、リュートのやつはこの場に及んで作戦の変更を提言してきやがった。聞いたこともないような魔物を倒すために人員を出せと。
俺は遂にブチ切れた。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
完全に調子に乗っているリュートに俺は怒気をぶつける。あいつもまた俺に向かって殺気を飛ばしてきた。
上等だ。お前がその気ならやってやるよ。FランクとCランクの壁ってのを見せてやる。
「ちょっと、黙っててくれないかな」
「あん!?……っ」
そして、剣の柄に手をかけた俺を見て、リュートのやつは俺をみてため息を吐きやがった。許さねぇ。ケンカを売ったこと後悔させてやる。
俺は剣を抜いた。だが、次の瞬間
リュートの姿が消えた。
そして腹部に衝撃。蹴られたと気づいたのは吹き飛ばされ壁に激突してからだった。
そして更にリュートはいつの間にか手に持っていたものをこちらに飛ばし、それが俺の首筋に刺さる。それは真っ白な短剣である。その短剣は俺の首の薄皮を1枚切っていた。
「ひ……ぃっ」
俺は情けない声を漏らす。
俺が殺されかけたのをみてグリンジャーさんが俺の前に立ち庇う。俺はそれをぼんやりと認識していた。やがて落ち着いたのか2人の雰囲気は穏便に戻り、リュートのやつは再びグリンジャーさんと話し始める。俺は一瞬で殺されかけたという事実に未だ呆然としていた。そして我を取り戻すと共に察した。
こいつは俺よりも遥かに強い
落ち着いた俺は再び2人の話に聞き耳を立てる。どうやらリュートの案が通ったらしい。二正面作戦のように両方に同時に対処する方針のようだ。
俺はチャンスだと思った。
「俺も行かせてくれ!!」
ついて行かねばならない。なんとなくそんな気がしたのだ。
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そして"主"とやらの討伐メンバーに動向した俺は、そこでとんでもないものを見る。巨大な異形の魔物「アルラウネ」。その存在感に俺は圧倒された。
勝てない。そう悟ってしまえる程の力量差。目の前の脅威に足も震える。
だがそんな中でグリンジャーさんとリュートはアルラウネに戦いを挑んだ。俺たちはアルラウネにつられて現れた通路の魔物をなんとかするので精一杯であり、あの化け物相手に実質2人である。
そこから先の戦いは凄まじいの一言だった。俺は魔物達の密度が下がった時にチラチラと視線を向けただけであったが、それでも十分わかる。
行われる高速戦闘、俺では目で追うのがやっとのような速度での高度な動きと技術。単純な力量で化け物のようなアルラウネを圧倒している。
更に途中からアルラウネの姿が変わり、更に苛烈になってもそれは変わらなかった。
そして最後、グリンジャーさんとリュートの連携によって繰り出された一撃がアルラウネを切り裂いた。
目の前の魔物達の処理をしながら見ていた俺は思わず呟いた。
「すげぇ……」
それは本心から出た言葉で、もうリュートに対する不満や格下に見るような気持ちは無くなっていた。
あったのは遥か高みにいる存在に対する羨望であった。
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