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第5章 森王動乱

極限の肉体

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「「身体強化・Ⅹブースト・エクストリーム』!!」


 隆人が叫ぶと共にその身体からこれまでの比較にならない程の青白いオーラが吹き出す。滝のような光に隆人の姿を覆い隠す。
 そのあまりの勢いに怯んだ様子を見せたラルフだが、それも一瞬で、すぐにそのオーラごと押しつぶすと言わんばかりに、大剣が真上から一直線に振り下ろされた。


  ガキィン

『!?』


 白い光を2つに裂きながら進む大剣だが、その進行は突然止められる。同時に光がかき消え中から両手持ちにセロを構えた隆人が現れる。


 その姿は"静か"。先程までの溢れんばかりのオーラは今や鳴りを潜めている。
 これまでの身体強化は段階が上昇するとその身体から荒ぶるように噴出するオーラは増大していたが、今の隆人は膨大なオーラを纏う事は無く、ほんの少しその身が白く輝く程度で実に静かな佇まいである。


 しかし、ティナの天霊眼のように魔力を見ることができれば気づくだろう。極限まで高められたその力は隆人の外へと放出される事なくその内に渦巻いていることに。その穏やかな力の中で途轍もない力が存在していることに。


 振り下ろされたラルフの大剣は隆人のセロによって止められている。なおもラルフは進めようと力を込めるがガチガチと音を立てて揺れるだけでそれ以上微塵も進むことはない。


 ラルフは片手で隆人は両手であるが、たしかに始めて、暴走したラルフの動きを止めたのだ。


 ユニークスキル身体強化、発動者のMPを消費し、一定時間その消費量に合わせてその者の身体能力つまりステータスを上昇させるスキル。
 非常にシンプルでありながらスキルレベルとその者の持つ元のステータス次第で際限なく上昇し爆発的な力を生み出す強力なスキル。


 そしてそのLV.10が到達した最大段階である身体強化・Ⅹブースト・エクストリーム。は当然、これまで使用してきたⅤやⅦを大きく上回る上昇率で隆人のステータスを高める。
 それも格段に。




 隆人/人間族 LV. 280 job 戦士

 HP   986/1449  MP    320/743  (80)

  STR  745(1490)
  MND  676
  VIT  705(1410)
  AGI  726(1452)

         魔法適正 風
 スキル 
  ユニークスキル 身体強化 LV.10☆
 〈神速〉〈剛力〉〈鉄壁〉〈転魔〉〈霊装〉

  パッシブスキル 危機回避 LV.3
          状態異常耐性 LV.5☆
          各種属性耐性 LV.4

  習得スキル   天駆 LV.3☆
          ストレージ LV.4
          HP回復 LV.4 
 〈ヒール〉〈ハイヒール〉〈メガヒール〉
          換装 LV.3  ……







「森王ラルフ。見せてあげるよ、俺のスキル身体強化の本当の姿をね」



 大剣を受け止めたままの姿勢で、隆人がニヤリと口元を傾ける。そのまま体重移動と剣の角度を変えて、流す。先程はラルフの尋常でない力によってねじ伏せられたが、今度は完璧にその力の全てを受け流す。


「はっっ!」


 大剣を逸らした隆人は、そのまま流れるような動きでセロを抜き放つ。その様子に何かを感じ取ったラルフが飛び退く。
 豪脚をもって本能のまま後退する。


『ガァッ』


 しかし、隆人の剣の方が速い。ラルフが隆人から距離を取った瞬間、ラルフの体に一瞬のうちにいくつもの小さな傷が刻まれる。
 暴走し獣に近しくなったラルフが予想外の痛みと驚きに吠える。


「逃がさないよ!」


 言葉と共に隆人が地を蹴りラルフを追う。身体強化・Ⅹに縮地法を利用した0か最高速へと瞬時に至る加速。それはまるで隆人のみ世界とは別にあるかのような速度で肉薄する。その動きは暴走したラルフの絶速をも上回る。
 

『ガァァァァァ!!』
「まだ上がるのか」


 だが、接近されたラルフも為すがままではない。もう一度大きく咆哮する。渇きの力が一段と強く伝播するのと共にその周囲から奪った大量の生力がラルフへと集まる。傷が修復されていき、その肉体が更に膨張し、迸る力が増大する。


 次の瞬間、肉薄した隆人がセロを振る。圧縮され一撃のようにすら見える速度に成った数閃の切りつけがラルフを襲う、がラルフはその全てを受け止める。


 速度で勝る隆人の高速の斬撃をラルフが野生の反射と凶悪な膂力でもって受ける。


「せやぁっ」
『グォゥ』


 再び拮抗状態に陥るのか、そう思われた2人の剣戟だが、隆人が空中で足場がないとは思えない曲芸じみた動きでラルフの側面へと回り込み、その回転を利用した蹴りをお見舞いする。
 ただの蹴りとは言え隆人の身体強化・Ⅹの筋力が込められたそれはもはや蹴りというより凶悪な鈍器による殴打であり、ラルフの身体が吹き飛ぶ。


身体強化・Ⅹブースト・エクストリーム。これまでの段階を超過する高い身体能力を得ることができるのはもちろんだけど、このスキルにはいくつか副産物がある」


 飛ぶラルフを見ながら、蹴り抜いた姿勢で隆人が告げるように言葉を発する。そしてまた何もない空中を蹴り、ラルフへと迫る。


「一つは身体を使用するいくつかの能力スキル技術アーツを一段上の次元へと引き上げること。『天駆』」


 そう言いながら更に空中を蹴って加速しラルフに追いつく。そのまま死に体のラルフの周りの宙を蹴りながら連続攻撃をしかけ、そこにラルフを縫い付ける。本来連続で、地につくことなく3度しか空中を足場にできないはずの天駆だが、それを遥かに超えて飛び回る。


 360度立体的な高速移動による連続攻撃を流石のラルフも対応しきれず更にその一つ一つに魔力が込められており、ラルフの硬い肉体を少しずつ超えてその身体にいくつも斬創が生まれる。
 だが、やはりラルフもそのままやられることはなく攻撃を受けながらもその動きに反応し、反撃の一太刀を放つ。


「『神速』」
『ガァッ!!』


 その寸前、隆人が身体強化の派生、上昇するステータスを全て速度(AGI)へと変換する「神速」を発動し、天駆を使用しその場から消え、ラルフの大剣は虚しく空を切る。身体強化・Ⅹでの神速はもはや瞬間移動の域である。


 そしてその姿はラルフのすぐ上にあった。


「そしてもう一つ。エクストリーム発動中は一部の派生スキルのクールタイムを大幅に省略できる」


 神速でラルフの上を取った隆人はすぐさま神速を解除し、その拳はがっちりと握られている。
 そして力一杯振り抜く。


「『剛力』!!」
『ガァアアアア!!!』


 同時に今度は剛力、ステータスを筋力(STR)へと変換させる派生スキルを発動、極限まで高まった筋力を拳に宿し、ラルフを殴りつける。
 まるで弾丸のような速度でラルフの巨体が地面へと叩きつけられた。


 隆人もその近くに着地し、息をつかせぬままラルフへと駆け寄っていく。


「"朧"」


  更に緩急の動きで残像を生み出す技術である朧で隆人の姿が揺れていくつも現れる。Ⅹによって一段上に引き上げられたそれは、残像という程度を超えて分身とも呼べる程である。


「『魔力剣・剣界』!」


 そしてその状態で先程と同じように天駆を駆使しながら全方位からラルフを切りつける。いつの間にか再びストレージから取り出していた氷河の剣を左手に握り双剣で、分身すら生み出して見えるほどの圧倒的なまでの手数を以って、そこに斬撃の結界を生み出す。


 その空間の中に入ったものを大小様々に敷き詰められた無数の斬撃によって閉じ込め切り裂く。
 隆人の剣の技術と速度があって初めて使える奥義。


 ラルフが抜け出すことのできないまま、その無数の斬撃を一身に受け、全身が一瞬にして赤く染まる。ラルフが痛みに吠える。


『ガァァァァァァァァァア!!』


 何度目かになる渇きの咆哮。隆人の力を更に奪い、周囲の生力を奪い、自らの回復を図ろうとするが、それは失敗に終わる。
 なぜか、全くと言っていい程に周囲から生力が奪えないのだ。そしてその理由はすぐに明らかになる。
 周囲の景色が変化しており、隆人とラルフを中心として、一定範囲が荒地のように木が一本と生えない地帯になっていたのだ。


「『森の裁きーー荒地の漠』。ラルフよ、もうその渇きの力は使わせぬぞ」


 聞こえる声。それはラルフの真横から聞こえてるくる。その声の主は里長ハイリヒであった。
 隆人とラルフが戦う間に、森の木々達を操る事ができるユニークスキル森の裁きを使い、辺り一帯の渇きから無事に残っていた木々達を全てラルフの渇きの範囲内から外に移動させた。それによってぽっかりとラルフを中心に緑が無くなり、生力を奪えなくなったのだ。


 木々の移動という荒業をこれ程の規模で、しかも未だバイサールとの戦闘から回復し切れていない状況で展開した事でかなり無理をしているようで、里長の表情は苦しげに大きく歪み、口元から血が垂れる。
 だがその瞳には強い意志が込められている。


「今だ、リュート殿」
「あぁ。これでーー」


 隆人の剣界を始めとしたダメージと渇きにより生力を奪えなかった事でラルフの動きが止まる。始めてできたラルフの明確な隙。


 同時に隆人もまた動きを止める。朧による分身も姿を消し、深く構えたまま魔力をセロへと注ぎ込んでいく。
 一瞬の停止。1秒にも遠く満たない時間であったが、世界が止まったかのような感覚になる。


 そして隆人が駆ける。ラルフとのすれ違いざま、その魔力を限界まで込めたセロを横薙ぎに振り抜いた。


「終わりだぁぁぁ!!」


 その最後の一撃は、魔力の解放と共にラルフの首を落とす。





  『感謝スル』




 その瞬間、隆人の耳にそんな言葉が届いたような気がした。穏やかな、それでいて雄大さの感じられる声。隆人は残心の姿勢のまま笑い、呟く。


「安らかに眠れ、森の王よ」


 そして、ラルフがその巨躯を崩すのと同時、隆人もまた、力尽きたようにその場に倒れ伏した。
 


(ラルフ戦終了です!長かったっ……。なんとか形にできました。次回から少しだけ恒例の幕間が入ると思います。入らなかったらすみません笑)
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