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革命編 三章:オラクル共和王国

閃光のミネルヴァ

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 転移魔法によって包囲網を脱したクラウスやワーグナーを含む村の住人達は、青い空に昇る光へ包まれながら姿を消す。
 そして自らの右手の宿る聖紋と未来をシスターに託した『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァは、朦朧とした意識ながらも呪印を利用して転移魔法の効力を失わせた。

 その後に踏み込んで来た『砂の嵐デザートストーム』は、転移魔法で逃げた者達を追えなくなる。
 そして倉庫内に取り残されていたのは、既に血の魔法陣を描いて失血が酷いにも関わらず、自らの右手を切断して身体を血の海に沈めているミネルヴァだった。

 銃を構える傭兵達は、ミネルヴァを発見しながらも血に塗れた状態に驚愕を浮かべる。
 そして僅かに遅れながらも、彼等を率いる【特級】傭兵スネイク自身が倉庫内に踏み込んで来た。

「――……これは……!!」

「団長!」

「奴の血を止めろッ!! すぐに拠点まで運び、輸血の用意ッ!!」

「し、しかしアレは……」

「聖人は失血くらいでそう簡単には死なん! 今ならまだ間に合うッ!!」

「は、はいっ!!」

 一瞬でミネルヴァが失血死しそうになっている状況を読み取ったスネイクは、傭兵達にその事態を防がせようとする。
 そして複数の傭兵達が血塗れの床に倒れているミネルヴァに駆け寄ろうとした時、一つの甲高い音が頭上から鳴った。

「!」

「……なにっ!?」

 頭上から響いた音を聞き、傭兵達とスネイクは頭上へ視線を向ける。
 するとそこには、崩れた屋根や建物の木材を伝うように流れ落ちて来る緑色の球体が見えた。

「手榴弾ッ!?」

「下がれッ!!」

 上から落ちて来る物体が手榴弾だと気付き、全員が動揺しながらも落下地点を予測して離れる。
 しかし落ちて来る手榴弾には安全ピンが外されており、撃発装置が既に起動していた。

 その時に手榴弾が落ちて来る屋根の上には、秘かに息を残している者がいる。
 それは最後まで外で抵抗を続けようとしてた、武具屋の老人だった。

「――……ふっ。これで、最後しまいじゃい……」

 老人は撃たれた腹部から大量の血を流し、青褪めた表情ながらも微笑みを浮かべて呟く。
 そうして最後の力を振り絞り、穴の開いた屋根から室内に向けて最後の手榴弾を投げ込み、下に集まった敵傭兵を狙ったのだ。

 天井の瓦礫に着地した影響で、既に内部の魔石と火薬を覆う緑色の陶器が赤く点滅している。
 更に天井の穴を伝いながら室内に落ちて来る手榴弾は、傭兵達やミネルヴァがいる床へ着地する前に爆発を起こした。

「グッ!!」

「うわぁッ!!」

 室内の中空で爆発した手榴弾の爆風と衝撃が、スネイクを含む傭兵達にも届く。

 その時に爆発した地点は、大きな倉庫を建たせている支柱の近く。
 支柱はその爆発の衝撃によって割れ砕かれ、更に爆発の炎が倉庫の建築材に用いられている枯れた木に火を注いだ。

 爆発とは別に、一つの支柱が砕かれたことで倉庫全体が大きな軋みを起こし始める。
 すると他の支柱や壁が崩れ始め、倉庫が崩れ始めてしまった。

「た、建物が崩れるッ!?」

「全員、退避ッ!!」

「急げッ!!」

 建物が崩れる事を察したスネイクは、部下の傭兵達に退避を命じる。
 そして傭兵達は出入り口となっていた扉から飛び出ると、上や横から崩れ落ちる倉庫を見た。

 倉庫は爆発の衝撃で崩壊し、更に崩れた木材が広まって炎上まで引き起こしている。
 そうした状況でスネイクは倉庫を見つめ、周囲の傭兵達に大声で確認を行った。

「ミネルヴァを回収できそうな……中に踏み込めそうな場所はあるか!?」

「み、右側は無理です!」

「左も、人が通れる場所は……!」

「裏手はっ!?」

「消火して、瓦礫を退かせばどうにか……!!」

「クソ……ッ」

 部下達の声で、倉庫内に再び踏み込んでミネルヴァを回収できるだけの余地がある空間が無い事を把握する。
 更にこの崩壊状況では、ミネルヴァ自身も瓦礫に埋もれている可能性が高い。

 瓦礫から掘り起こして治療の為に拠点へ移す間に、ミネルヴァは確実に死ぬ。
 それを即断できたスネイクは、歯痒さを見せながらも『砂の嵐デザートストーム』に命じた。

「全員、この場から速やかに撤退しろッ!!」

「!!」

「ミネルヴァが死ねば、俺達も死ぬぞッ!!」

「て、撤退!」

「全員、撤退だッ!!」

 スネイクの号令によって、各隊を率いる隊長達も傭兵達に命じながら叫ぶ。
 それによって『砂の嵐デザートストーム』は全員で村から脱出を始め、森を抜けながら山を下りる為に残る気力と体力を全て脚力に注いだ。
 
 逃走する傭兵達の中には村で回収した死体や、重い銃などを捨てる者も居る。
 その中には死んだ黒獣傭兵団の団員達も含まれており、布に包まれた遺体は森の中に投げ出された。

 こうして【特級】傭兵スネイクと『砂の嵐デザートストーム』が逃走する最中、崩れて燃え上がる倉庫内では瓦礫に埋もれている老人とミネルヴァの姿がある。

 老人は出血多量と屋根から崩れ落ちた落下の衝撃を身体に受け、既に意識と息が絶えていた。
 しかしミネルヴァは辛うじて心臓の鼓動を止めておらず、まだ息を残している。

 そんなミネルヴァが、倒れた姿勢で瞼を閉じたまま小さく呟いた。

「――……神よ。……どうか新たな未来に……人々の繋がりに、祝福を――……」

 ミネルヴァはそう呟いた後、火花と煙が舞う中で意識を手放す。
 そして『砂の嵐デザートストーム』が逃走を開始したニ十分後、オラクル共和王国の南方領地にて巨大な閃光が起きた。

 その閃光かがやきが発せられた瞬間、その地を中心とした大気が大きく震える。
 ミネルヴァ達の居た村を中心とした半径十キロメートル以上が白い極光に飲み込まれ、凄まじい振動と衝撃波が周辺地域を襲った。

 衝撃波が及んだ地域の地肌は剥ぎ取られ、様々な物を吹き飛ばしていく。
 それが包囲網として展開していた数万の共和王国兵にも襲い掛かり、大小様々な被害を同じ大陸に住む者達に与え、オラクル共和王国に異常が起きた事を伝えさせた。

 『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァは、その異名の如く『閃光』となってこの世から消える。
 その生涯は百六十年という長い年月をていたが、『聖人』として生きる者にとっては儚く短い人生だと言ってもいい。

 しかし彼女の最後は、『希望つながり』に満ちた笑みを浮かべていた。
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