1,031 / 1,360
革命編 六章:創造神の権能
穿たれる壁
しおりを挟む『天界』で繰り広げられる戦況の一つ、ウォーリスの側近である機械人間アルフレッドとの戦いに変化が生まれる。
アルフレッドが操る人形達は魔鋼で形成されている為に破壊できず、武玄や巴を含む実力者の五名は数において絶対的な不利に追い込まれていた。
そんな彼等が窮地に陥る直前、義体の自爆に巻き込まれそうになった巴は『青』に救われる。
すると直弟子であるテクラノスに託した『青』は、そのまま神殿の大階段に飛翔しながら向かった。
テクラノスは召喚魔法を駆使し、箱舟に積載していた百体の新型魔導人形達を戦場に転移させる。
そして右手に持つ錫杖を振るいながら、襲撃して来る敵勢力の人形達と相対させた。
『――……!!』
三メートル程の全長で走る銀色の新たな魔導人形達は、人型の姿を見せながら両手の指を前に突き出す。
すると十本の指が魔力の光を灯し、全方位から押し寄せる黒い人形達に向けて魔弾を連射し始めた。
放たれる魔弾によって、魔鋼の人形達を傷付ける事は出来ない。
しかし放たれる魔弾の威力は凄まじく、一発命中しただけでも黒い人形達を数十メートル先まで吹き飛ばしていた。
それによって黒い人形達の密集地帯は散らされ、押し寄せる勢いは完全に失われる。
するとテクラノスは周囲に立つ者達に向けて、声を向けながら言い放った。
「人形の相手は、我と魔導人形で行う! お前達は、敵拠点にいる敵を倒せっ!!」
「助かる! ――……行くぞ、バリスッ!!」
「はい!」
「任せたぞ、テクラノス」
テクラノスの言葉に応じ、元七大聖人のシルエスカとバリスが最初に走り出す。
それを追うようにゴズヴァールも走り、殿軍を務めるテクラノスに人形達の対処を任せた。
そうした最中、意識を戻した巴が膝を立たせて起き上がる。
その容態を確認する武玄は、巴に肩を貸しながら問い掛けた。
「……っ」
「巴、やれるか?」
「……無様を晒しました。……やれます」
「分かった。――……行くぞっ!!」
「はい!」
武玄は巴の状態を確認すると、互いに応じる形で三人の後を追う。
そしてテクラノスと魔導人形達の援護を受けながら、彼等は敵拠点となっている黒い塔を目指した。
それに対して、黒い人形達の攻勢が止められた光景を投影された映像越しに塔内部のアルフレッドは確認する。
すると迫る五名に意識を向け、その迎撃を行う為に塔自体の迎撃機能を作動させた。
『魔導人形が加わった程度で――……この拠点を落とせると思うなっ!!』
黒い塔の表面に再び棘のような砲塔が出現し、そこに巨大な魔力が収束し始める。
その狙いは迫って来るシルエスカ達であり、狙われる側の者達も迎撃が来ることを察した。
そして五秒にも満たない時間で、黒い塔から凄まじい魔力砲撃が放たれる。
その威力を知るシルエスカ達は、なんとかそれを回避しようと四散しようとした。
しかし次の瞬間、殿軍を務めているテクラノスが大声で叫び伝える。
「散るな! そのまま走れっ!!」
「!」
テクラノスの声で四散しようとする五名の足が止まると、彼等の前に走り出た五体の新型魔導人形達が上空へ跳躍する。
そして五体が両腕を前に突き出すと同時に作り出した範囲の広い結界が展開し、放たれた魔力砲撃を受け止めて見せた。
しかし魔導人形の母船すらも易々と破壊した魔力砲撃を、数体の魔導人形が作り出した結界で防げるはずがない。
そう考えるアルフレッドの声が、塔の外部に響き渡った。
『馬鹿め、そんな魔導人形の結界で――……っ!?』
「……我の作った魔導人形を、甘く見るな」
侮りの声を向けたアルフレッドに対して、テクラノスは鋭い眼光と言葉を向ける。
すると魔力砲撃を受け止めた魔導人形達の銀色に覆われた装甲が剥がれ落ち、黒い装甲が見え始めた。
その黒い装甲が露出されたことで、テクラノスの操る魔導人形がどのような性能を持つかが明らかになる。
それは未来で造られた劣化希輝鋼の魔導人形とは異なり、無尽蔵の魔力を保有する魔鋼で造られた魔導人形だった。
『まさか、こちらと同じ魔鋼の魔導人形だと……っ!!』
「お前達の人形風情と、一緒にするなよっ!!」
『なっ!?』
アルフレッドの驚愕に対して、テクラノスは苛立ちを含む声でそう告げる。
すると前面に展開させた結界で受け止めた魔力砲撃は、結界を通じて魔導人形に吸収され始めた。
弾くでもなく逸らすでもなく、膨大な魔力砲撃を魔鋼で吸収する。
それを魔導人形の性能として組み込んだテクラノスの技術力は、未来のアリアを確実に上回っている事を証明していた。
更に左右に展開していた別の魔導人形達が、その場に歩み出て来る。
そして二体の魔導人形が黒い塔に両手を向けると、両腕が変形しながら砲塔のように組み合わせた。
すると一体の魔導人形が、腕の砲塔から巨大な魔力砲撃を放つ。
そして敵側の砲塔に対して砲撃を逆に浴びせながら、相手の砲撃を完全に押し返した。
そうした光景を間近で見上げるシルエスカや武玄達は、各々に驚愕の表情を浮かべながら言葉を発する。
「これは……こんな魔導人形が……!?」
「……やはりコレは、あの時の魔導人形……!」
「テクラノスめ、こんなモノを作れたのか……!」
「……異国の絡繰りも、やはり侮れんな」
「そうですね……」
テクラノスの造り上げた魔導人形に対して、シルエスカは今まで見た事が無い性能に驚くしかない。
一方でバリスの方は、帝国のローゼン公爵領地を襲撃した魔導人形とテクラノスの魔導人形が同じモノだと察した。
ゴズヴァールもまた、魔法師としての技量しか知らないテクラノスが、こうした技術力を持つ魔導師だった事を改めて理解する。
そして武玄と巴は閉鎖的な自国に無い魔導人形の技術に驚き、感心するような表情を見せた。
そうした五名に対して、再びテクラノスが叫び伝える。
「任せろと言ったぞ! ……お前達も、使命を果たせっ!!」
「おうっ!!」
その言葉を受け取った五名は、各々に自分達が託された使命を果たす為に動く。
迎撃と防御をテクラノスの魔導人形に完全に任せた五名はそのまま駆け抜け、敵拠点の黒い塔まで一気に近付けた。
そして全員が顎を上げると足を止めると、黒い塔の天辺を確認しながら言葉を向け合う。
「上は、もう開いていないっ!!」
「いつの間にか、閉じられていたようですな」
「ならば、やる事は一つ」
「私達の全力で――……」
「この塔を打ち砕くッ!!」
出入り口の無い黒い塔に対して、五名はそれぞれにやるべき事を統一させる。
その手段として各々が身構え、魔鋼で形成された黒い塔の表面に身体を向けた。
シルエスカは長槍と短槍を組み合わせて一つの赤槍に組み合わせ、生命力と魔力で形成した『生命の火』を纏わせる。
その傍らでバリスは右腕を伸ばしながら長剣を突き出すと、生命力と風属性の魔力を合わせ練りながら踏み込みを強くした。
ゴズヴァールは右腕に備わる籠手を突き出すように動くと、そこから打拳を外して右手に備え掴む。
更に自身の肉体を瞬く間に魔人化させ、牛鬼族の姿となりながら自身の体内を巡る生命力と魔力を全身から右腕に込め始めた。
武玄は抜いていた長刀を鞘に収め直し、月影流が出せる最大の斬撃を放つ為に肉体を脱力させる。
そして巴も左脚を軸にしながら右脚を前に出し、肉体に纏わせる生命力を右脚に集中させた。
すると全員が身に着けている装備が、僅かに肉体を膨らませる。
既に全員がエリク達と同様の装備を『青』から与えられており、各々が数十倍まで高められた肉体能力で同じ個所に攻撃を仕掛けた。
「――……『穿つ紅蓮の槍』ッ!!」
「『疾風の突剣』ッ!!」
「月の型、『弦月』ッ!!」
「『旋風脚』ッ!!」
「――……オォオオオッ!!」
それぞれが己の全力を発揮し、魔鋼の外壁に攻撃を加える。
シルエスカは赤槍を投げ放ち、それに合わせてバリスが放った生命力と風属性の魔力で形成された突きが魔鋼の壁に凄まじい衝撃で激突した。
そして武玄の抜刀した長刀の気力斬撃が赤槍の底柄を打ち、その槍刃を表面に食い込ませる事に成功する。
その食い込みを深くするように巴の右脚も赤槍の底柄を殴打し、更に食い込みを強くさせながら表面に亀裂を生じさせた。
それに呼応するように、ゴズヴァールは赤槍の底柄に右拳を打ち付ける。
自らの体重と速度、そして何十倍にも増幅された渾身の拳が赤槍の食い込みを加速させると、黒い魔鋼の表層に巨大な亀裂が生じた。
すると次の瞬間、赤槍が奥まで差し込まれたと同時に亀裂部分の魔鋼が割れ砕ける。
それによって黒い塔の壁面に穴が出現し、それを見た五名は歓喜を見せぬまま穴から壁内へと飛び込んだ。
「行くぞっ!!」
「狙うは、敵拠点の施設破壊っ!!」
「そして、敵勢力の側近を討伐!」
「ついでに、囚われておる女子達がいれば――……だな!」
「はい!」
全員は各々に声を向け合い、自分達の役割を改めて再確認する。
そして塔内部の真下から内部を探り、人形達を制御し操っているアルフレッドの討伐を目指した。
それに対して侵入を許してしまったアルフレッドは、自分の居る室内で苦々しい声を漏らしながら呟く。
『……ただの聖人や魔人に魔鋼が壊され、しかも侵入された……。……ふっ、はは……ハハハ……ッ!!』
この状況に唖然としながらも笑いを浮かべるアルフレッドは、同じ室内に儲けられている細長い球体状の機械を起動させる。
するとその内部から外で戦っていたアルフレッドの姿と同じ義体が現れ、それが赤い光を灯した瞳を開けながら出て来た。
更に他にも設置されていた機械から、同じ造形の義体が続々と現れる。
合計で五体の義体が意思を宿すように赤い瞳を見開くと、それに向けてその室内に居るアルフレッドは命じるように声を向けた。
『――……侵入者を排除しろ』
アルフレッドが命じる声に対して、その義体達は無言のまま走り出す。
そして開け放たれた出入り口から出て行くと、それぞれが侵入して来た五名を排除する為に向かって行った。
こうしてウォーリスの側近アルフレッドとの戦いは、テクラノスとその魔導人形達の参戦によって終幕が近付く。
追い詰められたアルフレッドは自身に残された義体を全て操り、侵入して来た五名の排除に全力を注ぎ込み始めたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる