1,035 / 1,360
革命編 六章:創造神の権能
叡智の光
しおりを挟む天界で繰り広げるシルエスカを含む一行は、魔鋼の人形と機械人間を操るアルフレッドを討つ為に敵拠点に侵入する。
そして老執事バリスや牛鬼ゴズヴァールに後背を任せ、狼獣族エアハルトの嗅覚を頼りにしながらシルエスカは黒い塔の上層を目指した。
螺旋状に描かれる階段を駆け上がる二人は、壁や床から出現する黒い人形達を悉く退けながら進む。
そうした状況で前を走り人形を蹴り飛ばしたエアハルトに対して、シルエスカは声を張り上げながら問い掛けた。
「敵の本体は、まだかっ!?」
「もう少しだ!」
「クッ!!」
シルエスカは赤槍を突き出しながら後背に迫る黒い人形達を押し出し、螺旋階段から落としていく。
数が増していく人形達の包囲網は再び出来上がりつつあり、二人はそれを突き崩しながら進んでいた。
しかしエアハルトの嗅覚以外に敵本体の居場所が分からず、それ等を知覚できないシルエスカは苦難の階段を登り続ける。
そんなシルエスカの思考を察するかのように、エアハルトは前を走り跳びながら言い放った。
「俺を信用できんなら、ゴズヴァールのところにでも戻れ!」
「!」
「あの姉妹といい、馬鹿皇子《ユグナリス》といい、赤髪をした人間共は気に喰わん。――……それでも手を貸してやっているんだ、有難く思えっ!!」
「……なんだ、いったいっ!?」
迫る黒い人形を二体同時に蹴り飛ばしたエアハルトは、そう言いながら先を走る。
その物言いに対して不満を態度で明かすシルエスカだったが、それに抗議する暇も無く押し寄せる黒い人形達を退けながら階段を登り続けた。
そして二人は階段を登り終え、再び平坦な通路を走る。
そこから広い空間に出ると、エアハルトは上を見上げながら告げた。
「――……ここの上から、匂いがする!」
「真上……何も見えん、ならば……!」
エアハルトの見上げる視線を確認し、シルエスカも上体を逸らして顎を上げる。
すると底の見えない暗闇が天井を覆っており、シルエスカは生命力で強化した視力でも見えない。
そこでシルエスカは周囲に火球を作り出し、それを天井に向けて叩き放つ。
火球により天井の暗闇は明かりに照らされ、エアハルトが指し示す存在を目にする事が出来た。
しかしその光景は、シルエスカを僅かに困惑させる。
「これは……!?」
シルエスカを思わず困惑させたのは、まるで底の無い深みに暗闇が沈む巨大な穴。
そこには何も存在せず、ただ天井の無い広い空間が広がっているだけだった。
それを確認したシルエスカは、周囲にも火球を漂わせながら室内を他に何か無いか確認する。
しかし自分達が来た道とは逆位置に通路しか存在せず、特に施設や装置と言えるモノは置かれていない空間だけだった。
何も無い室内を改めて見渡すシルエスカは、疑問の表情を浮かべながら呟く。
「ここはまだ、途上という事だな。おい、先を急――……」
「……嗅いだ匂いが、来る」
「!!」
自分達の居る場所がまだ上層《うえ》では無いと考えたシルエスカは、エアハルトに先へ進むよう促そうとする。
しかしその声を遮るように、エアハルトは向こう側の通路を見ながらそうした言葉を見せた。
それに対して驚きながらも警戒を戻すシルエスカは、通路の先へ視線を送る。
すると音も無く向こう側の通路から、一つの黒い人影が跳び出して来たのを二人は確認した。
その人影は両足を付けて着地すると、火球を漂わせるシルエスカとエアハルトの姿を目にしながら声を向ける。
「――……彼等は……」
「アレは、アズマ国の忍者……!?」
シルエスカの火球で照らされた人影は、身に着けている黒い忍装束と仮面から覗き込む黒い瞳を明かす。
するとその場に現れたのが巴である事に気付いたシルエスカは、歩み寄りながら声を向けた。
「武玄は?」
「親方様は機械人間の相手を。……そちらの男は、途中で艦橋に現れた……」
「ゴズヴァールと同じ、魔人仲間だ。……それより、ここまで登って来たのか?」
「ええ。貴方達も?」
「彼は、敵本体の居場所が察知できるらしい。その案内で来たのだが、この真上だと……」
「真上、ですか……」
「そちらに、階段が在っただろう? 更に上層まで登る必要が――……」
「いいえ。こちら側には、もう上層まで登れる階段はありません」
「……えっ」
「そちらの通路に、在るのでは?」
「……こちらの通路《みち》は、我々が通った。だが、上層に続く階段は無かったぞ」
シルエスカと巴はそうした話を向け合い、互いに眉を顰めながら表情を強張らせる。
互いに相手側の通路に上層まで続く階段があると思っていたらしく、その認識が異なっている事を自覚させられた。
そんな二人に対して、エアハルトは鼻息を漏らしながら呟く。
「どうやら、ここで行き止まりらしいな」
「……なら、ここから先は……!?」
「そもそも、あんな人形共を作り出しているくらいだ。塔の内部構造を変えてる事も、簡単に出来たんだろう」
「ッ!!」
「……手詰まり、という事ですか」
エアハルトは魔鋼で出来た塔自体が変形し、敵本体の足元まで近付ける構造が無くなった事を察する。
それを聞いた巴は納得したように真上を見つめ、シルエスカは苦々しい表情を浮かべた。
そうした最中、エアハルトの嗅覚が微かに動く。
すると周囲を見回しながら、強張らせた表情と声を見せた。
「……チッ、ここもか」
「!」
そうした声で周囲を見るエアハルトに続き、他の二人も変化に気付く。
他の通路や室内と同じように、魔鋼で形成された周囲の壁や床から黒い人形達が生み出され始めた。
這い出て来る黒い人形達の光景に、三人は背中合わせに身構えながら三方へ身体の正面を向ける。
すると次の瞬間、塔全体が凄まじい揺れで傾くように動いた。
「なんだっ!!」
「この揺れ……また何かが……?」
「……伏せろ!」
「!?」
突然の揺れに新たな事態を予見しながら身構えていたシルエスカと巴に対して、エアハルトは自身の嗅覚で何かを感じ取る。
それを伝えるように伏せるよう告げると、二人は咄嗟に身を屈めた。
すると次の瞬間、エアハルト達が居た魔鋼の壁に赤い熱が帯び始める。
更に魔鋼の壁が溶解するように爛れると、そこから白く輝いた魔導砲撃が貫く光景を三人は見上げた。
「これは……!?」
「テクラノスの魔導人形共だっ!!」
「!?」
「奴め! それが出来るなら、最初からやれ……チッ!!」
こうした事態で何が起きているかを察するエアハルトの言葉に、シルエスカと巴は困惑の瞳を浮かべる。
そうした塔内部の外側では、魔導師テクラノスが魔鋼の人形達を同質の新型魔導人形で粉砕し終えた。
そして百体の新型魔導人形達を使い、外部から敵拠点の上層部分に対して集中させた両腕の魔導砲撃を放つ。
魔鋼から捻出される高出力の魔導砲撃が百体分も重なると、同質の魔鋼すら溶かし貫く強力な熱線を浴びせる事に成功していた。
「――……我々に侵入された事で、敵は内部構造の状況に集中する。そして危機だと感じれば、必然として侵入者の届かない上層部分まで逃げる。……そこを焼き尽くせばっ!!」
テクラノスは外部の黒い人形達を処理し終えた後、仲間達の侵入による敵の行動を予測する。
そして敵拠点の上層部分に狙いを定め、魔導人形達を使って敵側近《アルフレッド》の狙撃を狙った。
すると魔導人形達は合わせるように魔導砲撃を放つ両腕を横に流し、敵拠点の上層と中層を別けながら溶断する。
それにより黒い塔の先端部分は傾き始め、エアハルト達がいる室内に外部の光が見え始めた。
「……外が……!!」
「上層を焼き切って、落とすつもりか……!!」
「……テクラノスッ!!」
「!」
外部の光が見える程に傾いた塔の上層を内部から確認したシルエスカと巴は、互いにテクラノスの狙いを僅かに遅れて理解する。
しかし新たな匂いの変化に気付いたエアハルトは、外に居るテクラノスに聞こえない叫びを向けた。
それと同時に、敵拠点の外壁に変化が起きる。
塔全体に砲撃用の砲塔が複数も出現し、そこに膨大な魔力が収束し始めた。
そしてテクラノス達や魔導人形達が居る場所を含む周囲一帯に、凄まじい魔力砲撃を放射し始める。
その魔力砲撃は精密と呼ぶのに懸け離れた乱射ながら、テクラノスの魔導人形達に浴びせるように届く。
そして自身の身を守るように数体の魔導人形に結界を展開させながら防御に回させたテクラノスは、敵の砲撃に耐えながら魔導人形の魔導砲撃で塔を完全に焼き切ろうとした。
「……我の叡智が、神にも届くことを証明しろっ!!」
『――……お前達に、ウォーリス様の邪魔は――……ッ!!』
互いが相手の砲撃を受けながら先に仕留めようとする二人の撃ち合いは、次の瞬間に決着を迎える。
魔導人形側の魔導砲撃は見事に塔の上層を溶かし切り、先端部分となる箇所を白い大地へ落下させた。
それにより黒い塔から放たれていた魔力砲撃は止まり、内部に居た黒い人形達も含めて人形達や機械人間達も停止する。
しかし撃ち合いの最後、敵拠点側の魔力砲撃によって臨界点突破した魔導人形達は爆発を起こした。
それに巻き込まれるようにテクラノスも吹き飛び、周囲に立ち込める炎と黒煙の中に紛れながら姿を見失う。
この攻防により、敵勢力の拠点となっていた魔鋼の塔は破壊される。
その決着は当人達にも把握できないまま、次なる戦いに場面は移ろうとしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる