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終章:エピローグ

死神の眷属

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 フラムブルグ宗教国家が四大国家連盟へ再加入するのを防ぐ為、非加盟国は【血盟の覇者ブラッドボーン】という組織を雇い暗殺者達を帝国へ差し向ける。
 そして連盟国の代表者に潜む協力者スパイを利用し、転移魔法の一種である設置型の簡易転移陣ゲートウェイを使って帝城へ侵入を果たした。

 そうして転移陣ゲートを抜けた四人は帝城と思しき一画の隅に転移し、周囲を見回しながら場所を確認する。
 しかし纏め役リーダーの男は訝し気な様子を浮かべ、疑問の声を浮かべた。

「――……妙だな」

「ん?」

「予定では、帝城しろの中に転移陣ゲートを設置する予定だったはずだ。……だが……」

「……そうね。……ここ、何処?」

「……兵士達の、訓練場のように見えるが――……ッ!!」

「!?」

 帝城内に侵入したはずの四名は、周囲の景色を確認し訝し気な表情を浮かべる。
 そこは想像していた煌びやかな造形の帝城しろ内部とは異なる、暗闇に覆われながらも地面と弓や剣の鍛錬を主目的とした訓練場が存在していた。

 すると次の瞬間、その訓練場に一つの足音と何かを地面が引き摺るような音が聞こえる。
 それを聞いた構成員三人纏め役リーダーは表情を強張らせ、注視するように目を凝らした。

 そんな彼等に対して、歩み寄る人物は声を発する。

「――……いらっしゃい、待ってたよ」

「……若い男の声……。……誰だ?」

「協力員か?」

「いや、違う。……コイツは――……!!」

 暗闇から歩み寄って来る声を聞いた構成員達は、最初は協力者だと考える。
 しかし纏め役リーダーは更に目を凝らすと、歩み寄って来る人物の状況に驚愕を浮かべた。

 その人物は二人の男が身に着ける衣服の襟首を掴みながら、地面を引き摺っている。
 するとそんな二人を前へ投げると、構成員達は驚愕した様子を浮かべた。

「こ、これは……!!」

「あの時に来た、囮の……!?」

「……ならばこっちは、本命の協力員か……!!」

 構成員達が見たのは、顔面を歪めながら血を吹き出し気絶している酒場に来た囮役の協力員おとこ
 そしてもう一人は、組織が懐柔し協力員にしていた今回の国主首脳会議にも参加していた連盟国の代表者だった。

 どちらも顔面を強打され血を拭き出している光景を見下ろし、纏め役リーダーや構成員達は表情を渋らせながら状況を理解する。
 そんな彼等が動く前に、その二人を投げ出したその人物は問い掛けた。

「おじさん達が、暗殺者でいい?」

「!!」

本命こっちの人が帝城なかでコソコソしてたから、少し事情を聞いてみたんだ。……その転移魔法の陣ゲートで来たって事は、そういう事でいいんだよね?」

「……ッ」

「で、囮役そっちの人も様子が変だったから話を聞いたんだ。そうしたら、宗教国家フラムブルグの教皇を暗殺しに来るんじゃないかって聞いてね」

 敢えてそう問い掛ける若い男に、構成員達は沈黙を貫く。
 それでも纏め役《リーダー》は後ろに視線を傾かせ、それに立つ女魔法師に無音で意図を伝えた。

 それを僅かに頷いて理解した女魔法師は、自分達が出て来た転移陣ゲートに手を触れて逃げ道を作ろうとする。
 しかし次の瞬間、地面に置かれて広げられていた巻物スクロールは切り刻まれ吹き飛ばされた。

「!?」

「げ、転移陣ゲートがっ!?」

「――……駄目だよ、いきなり逃げるなんてさ」

「!?」

「せっかく来たんだから、僕と遊ぼうよ。でも、何して遊ぼうか?」

「……この野郎ッ!!」

せっ!!」

 逃げ道となる転移陣ゲートを破壊された構成員の中で、荒げた口調の男がその声の主に対して襲い掛かる。
 その速度は常人とは比較できぬ程に速い迫り方であり、更に武器としている籠手には構築式の文字が刻まれていた。

 籠手それを起動させながら電撃を纏わせた右拳が、対峙する相手に振り向けられる。
 しかしその青年は、その拳を軽く左手で受け止めた。

「な――……ガハァアッ!?」

「ッ!!」

 常人であれば一瞬で気絶してもおかしくない籠手の拳を平然と受け止める青年に、構成員の男は驚愕を浮かべる。
 しかし次の瞬間に驚愕を浮かべた顔面に細長い何かで強打が打ち込まれると、その男は軽々とした中空を舞いながら地面へ転がった。

 そして二人の協力員と同じように、地面へ突っ伏し意識が飛んだ状態へ陥る。
 すると僅かに薄れた雲から月の光が漏れると、その青年の姿を照らして見せた。

 その姿を見た纏め役の男リーダーは、表情の強張りを強めながら声を零す。

「……青色の髪……。それに、その姿……。……まさか、『青』の七大聖人セブンスワンか?」

「えっ、違うよ。あぁ、でも当たってはいるのかな」

「何……!?」

「僕の名前は、マギルスって言うんだ。暗殺者のおじさん達、知ってる?」

「マギルス……マギルスだとッ!?」

「まさか、あの……!?」

英雄エリクの仲間か! ――……散開ちれ、逃げるぞっ!!」

 自身の名を口にした青年の正体がマギルスだと知ると、彼等は更に警戒を高めながら身を飛び退く。
 そして気絶した仲間や協力者達を置いたまま、他の三人は散るように訓練場から逃げ始めた。

 するとマギルスは微笑みを浮かべ、腕を組んで瞼を閉じながら彼等に呼び掛ける。

「いいよ、鬼ごっこで遊ぼうか。じゃあ、十秒だけ数えたら捕まえに行くねー」

「クッ!!」

「鬼ごっこだと……!?」

「馬鹿にしやがって……!!」

 マギルスの言葉を聞いた面々の中で、明らかに舐められた態度に怒る構成員の一人おとこが胸元から取り出した短剣をマギルスが居る場所へ投げる。
 それもまた常人では捉えきれぬ速度ながらも、マギルスは瞼を閉じたまま柄部分を掴んで素早く投げ返した。

 それが短剣を投げた構成員おとこの膝に命中し、叫び声が発せられる

「グァアアッ!?」 

「――……しぃちはぁちきゅう――……じゅう! じゃあ、捕まえよっか」

「――……がはぅ!?」

「グェエッ!!」

 予告通り十秒を数え終えたマギルスは、自身の足に精神武装アストラルウェポンを纏わせる。
 そして次の瞬間、膝を射抜かれて転がる構成員と女魔法師の背後に青い閃光が走った瞬間、二人の後頭部に衝撃が与えられて吹き飛んだ。

 その二人は気絶している者達と同じように顔面を強打され、そのまま元の場所まで戻されながら地面へ倒れ伏す。
 更に纏め役リーダーである男の方へ青い閃光が向かった瞬間、それに対応するように籠手に仕込まれた手高刀カタールが飛び出しながら正確に迎撃した。

「ッ!!」

「ヒュー、やるぅ!」

 それを軽々と停止し避けたマギルスは足を止め、微かに口笛を吹きながら微笑みの声を纏め役リーダーの男に向ける。

「おじさんは、そこそこやるね」

「……逃亡は不可能か。……ならば、貴様を殺して凌ぐしかあるまい」

「殺せるつもり? 僕をさ」

「俺が殺すと決めて殺せなかった者は、この百二十年で一人もいない」

「百年? ふーん。じゃあおじさん、聖人なんだ」

「そうだ。……お前は知らないか? 【死神シニカミ】という称号の暗殺者を」

「!」

「俺がその暗殺者、【死神シニカミ】だ」

 目の前の人物が【死神シニガミ】と称されている暗殺者だと言われ、マギルスが僅かに驚きを浮かべる。
 それに対して口元を微笑ませた暗殺者シニガミは、両手に仕込んだ籠手から手甲刀カタールを出しながら構えた。

「ふっ、どうやら知っているようだな。俺の恐ろしさは」

「あっ、それは知らない」

「!?」

「でも死神って呼ばれてるんだね、おじさん。――……釣り合ってないよ、それ」

「なんだと……!?」

「死神って、神様でしょ? おじさん、別に到達者かみさまじゃないよね?」

「!!」

「それに僕ってさ、一応はの神様を敬ってる種族なんだ。――……だからさ、勝手に死神それを名乗らないでくれる?」

「……ッ!!」

 今まで微笑んでいたマギルスが、突如として僅かな怒りを浮かべて殺気を放つ。
 その理由となった【死神シニガミ】の名を持つ暗殺者あいてに明確な不快を言葉で伝えた後、暗殺者は凄まじい速さで斬り込んだ。

 しかし次の瞬間、マギルスは背負う大鎌を引き抜く。
 そして互いの刃が交差するように流閃となり、二人が交差するように通り過ぎた。

 すると二秒にも満たぬ時間の硬直後、暗殺者あいての首がズレ落ちる。
 そしてそのまま地面へ転がる暗殺者の頭部は、立ったままの胴体からだを見上げながら絶句した表情を浮かべた。

「ぁ……あぇ……?」

「……じゃあね、死んだおじさん。これで許してあげる」

 百年以上を生き聖人へ進化していた暗殺者あいてを、マギルスは一瞬で決着に導く。
 そして殺気を引かせながらいつもの笑顔へ戻すと、そのまま暗殺者は瞳から生気を無くして死んだ。 

 するとマギルスは倒れている他の侵入者達を見ながら、こうした呟きを零す。

「……お姉さん達も、そろそろやってる頃かな」

 そう述べながら月明かりが浮かぶ空を見上げ、マギルスは刈り取った暗殺者の首と遺体を抱えて気絶した侵入者達と同じ一箇所へ集める。
 そして少し考えた後、こうした行動を始めた。

「うーん、連盟国こっち代表者おじさん達は殺しちゃ駄目なんだっけ。じゃ、残りは貰っていいよね?」

『――……ヒヒィン』

「そうだね、そっちの女の人は転移魔法が使えるみたいだし。証人で残しとこうか。――……じゃ、いただきます!」

 隣に薄らと見える青馬ファロスの助言を聞き、マギルスは侵入者の中で残る男二人の首を躊躇いなく刈り取る。
 すると次の瞬間、青い色の魔力が首を刈り取った遺体を覆い、そこに在る肉体や魂が分解され青い魔力となってマギルスに取り込まれた。
 
 すると地面などに付着した血すらも分解されていき、マギルスは変換された三人分の青い魔力を吸収し終える。
 そして笑顔を浮かべながら、隣に居る青馬に声を向けた。

「――……うん。聖人だけあって、意外とちからをくれるね!」

『ブルルッ』

「ちゃんと使えるね、『魂食いソウルイーター』。――……僕が首を取った相手は、僕のちからになる。エリクおじさんの血を飲んで取り戻した、首無族デュラハン能力ちから

『……ブルルッ』

「大丈夫だよ、皆には秘密にするから。――……それに、これなら死体も血も残らないし。大騒動にはならないから、明日はあの子が楽しみにしてる結婚式が出来るね」

『ヒヒィン』

「そうだね、このおじさん達を渡しに行かなきゃ。――……でも、持っていくの面倒臭いなぁ。お前が誰か呼んで来てよ」

『ブルッ』

「普通の人には見えないって? もぉ、しょうがないなぁ」

 マギルスと青馬ファロスはそうした話を行い、捕えた者達を引き渡す為に警備の兵士にその事を伝えに行く。
 そうした出来事に対応したのはローゼン公セルジアスであり、教皇を暗殺する為に転移魔法を使った暗殺者が帝城へ侵入した事を理解した。

 しかしマギルスの要望もあり、その事実は公とされずに伏せられる。
 更に二つの連盟国から来た代表者達ふたりが暗殺者を手引きしようとした件については、同じ連盟国の代表者達を真夜中に捕らえて祭典が終わり事情を把握できるまで拘束する事になった。

 こうしてガルミッシュ帝国の新帝都で起ころうとした教皇暗殺は、マギルスによって未然に防がれる。
 それを功績として誇る様子も無いまま、マギルスは両親の結婚式を楽しみにしている友達シエスティナの為に活躍して見せたのだった。
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