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8.トリッキー・ナイト3
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二月の終わりに、引っ越しをした。
同じ頃に、大学に払う納付金を、沢野さんが出してくれた。
今日は、三月五日。土曜日。
沢野さんの部屋に、行くことになっていた。
一月に、作りおきの料理をたくさん作った。たぶん、もう、ほとんどなくなってるはずだから、また、料理を作りたいと思っていた。
朝の早いうちに、マンションの前に着いてしまった。
午前六時ちょっと。いくらなんでも、早すぎた。
「どうしよっかな……」
荷物が多いから、中に入りたかった。
旅行用のスーツケースには、食材が詰めこまれてる。肉と魚は、すぐにでも冷蔵庫に入れたい。
合い鍵で、入っちゃおうか。びっくりするかな……。
「行くか」
七時になる前に、沢野さんが起きてきた。
あたしを見て、「うわっ」と言った。
「ごめんなさい」と謝ったら、「いいけど。僕、まだ夢を見てるのかなー」なんて、かわいいことを言っていた。
作っておいた朝ごはんを出して、二人で食べた。
「前のおかずって、もうないみたいですけど。味は、どうでしたか?」
「おいしかったよ。ごちそうさまでした」
「よかった。苦手なものとか、ありました?」
「とくには。あー。中華風の炒め物は、ちょっと辛かった」
「ごめんなさい。唐辛子の粉を、入れすぎたかも」
「調味料も買ってくれたんだよね。食材とかのお金を、払ってなかった」
「それは、いいです。あたし、いつも出してもらうばっかりで……。
大学のお金も、ありがとうございました。助かりました」
「ううん」
「今日は、料理を作って、また、冷蔵庫に入れたいと思ってて。
あたしは、ここで作業してるので、好きなことをしててください」
「わかった。たぶん、見てると思う」
「いいですけど。疲れるから、座っててください」
「うん。ありがとう」
ルームウェアのままの沢野さんが、ソファーに座ってる。
あたしは、台所にいた。スマホで好きな音楽をかけて、鼻歌を歌いながら、料理を作った。
祐奈みたいに、手早くはできないけど。ゆっくり、ていねいに作った。
ぎょうざのたねを白い皮で包む時も、雑にやらないで、ひとつずつ、きれいな形になるようにした。
心をこめるって、こういうことなんだなと思った。
「話しかけてもいい?」
「いいですよ」
スマホの画面にふれて、音楽を切った。
沢野さんが、あたしを見ている。
「礼慈は、料理がうまいんだよ」
「みたいですね」
「僕は、てんでだめだね。覚えた方がいい?」
「どうでしょう。あたしも、そこまでうまくはないです。
でも、作るのは、きらいじゃないです」
「そうなんだ」
「料理って。作ること自体よりも、毎日なにを作るかで悩むのが、大変なんだと思います」
「それは、あるかも。実家にいた頃は、母さんから、しょっちゅう聞かれてた。
『今日は、なに食べたい?』って。僕と妹たちが」
「いいお母さんですね」
「それは、認めるけど。
ハンバーグとから揚げのくり返しだと、それはそれで、だめって言われるし。めんどくさいなーって、思うこともあった」
「ぜいたくですよ」
「そうだね」
同じ頃に、大学に払う納付金を、沢野さんが出してくれた。
今日は、三月五日。土曜日。
沢野さんの部屋に、行くことになっていた。
一月に、作りおきの料理をたくさん作った。たぶん、もう、ほとんどなくなってるはずだから、また、料理を作りたいと思っていた。
朝の早いうちに、マンションの前に着いてしまった。
午前六時ちょっと。いくらなんでも、早すぎた。
「どうしよっかな……」
荷物が多いから、中に入りたかった。
旅行用のスーツケースには、食材が詰めこまれてる。肉と魚は、すぐにでも冷蔵庫に入れたい。
合い鍵で、入っちゃおうか。びっくりするかな……。
「行くか」
七時になる前に、沢野さんが起きてきた。
あたしを見て、「うわっ」と言った。
「ごめんなさい」と謝ったら、「いいけど。僕、まだ夢を見てるのかなー」なんて、かわいいことを言っていた。
作っておいた朝ごはんを出して、二人で食べた。
「前のおかずって、もうないみたいですけど。味は、どうでしたか?」
「おいしかったよ。ごちそうさまでした」
「よかった。苦手なものとか、ありました?」
「とくには。あー。中華風の炒め物は、ちょっと辛かった」
「ごめんなさい。唐辛子の粉を、入れすぎたかも」
「調味料も買ってくれたんだよね。食材とかのお金を、払ってなかった」
「それは、いいです。あたし、いつも出してもらうばっかりで……。
大学のお金も、ありがとうございました。助かりました」
「ううん」
「今日は、料理を作って、また、冷蔵庫に入れたいと思ってて。
あたしは、ここで作業してるので、好きなことをしててください」
「わかった。たぶん、見てると思う」
「いいですけど。疲れるから、座っててください」
「うん。ありがとう」
ルームウェアのままの沢野さんが、ソファーに座ってる。
あたしは、台所にいた。スマホで好きな音楽をかけて、鼻歌を歌いながら、料理を作った。
祐奈みたいに、手早くはできないけど。ゆっくり、ていねいに作った。
ぎょうざのたねを白い皮で包む時も、雑にやらないで、ひとつずつ、きれいな形になるようにした。
心をこめるって、こういうことなんだなと思った。
「話しかけてもいい?」
「いいですよ」
スマホの画面にふれて、音楽を切った。
沢野さんが、あたしを見ている。
「礼慈は、料理がうまいんだよ」
「みたいですね」
「僕は、てんでだめだね。覚えた方がいい?」
「どうでしょう。あたしも、そこまでうまくはないです。
でも、作るのは、きらいじゃないです」
「そうなんだ」
「料理って。作ること自体よりも、毎日なにを作るかで悩むのが、大変なんだと思います」
「それは、あるかも。実家にいた頃は、母さんから、しょっちゅう聞かれてた。
『今日は、なに食べたい?』って。僕と妹たちが」
「いいお母さんですね」
「それは、認めるけど。
ハンバーグとから揚げのくり返しだと、それはそれで、だめって言われるし。めんどくさいなーって、思うこともあった」
「ぜいたくですよ」
「そうだね」
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