71 / 87
26.何気ない大切な時間③
しおりを挟む
(私、本当にこの人よりも夢の方を優先したいのかな)
確かに今でも自分のワインバーを持つのは夢だけど、こうして慶弥さんと過ごす時間も有限だと思うと、堪らなく愛おしくて大切なものだと思う。
それに子どものことも、実際に欲しいと思ってもすぐに授かるかどうか分からない。こんなに素敵な恋人がいるのに、夢がどうだとか拘ってる場合だろうか。
「ねえ瑞穂。スモークチーズ買ったらダメ?」
「別にいいよ。メモにないからダメなんて言わないよ」
「やった」
ニッコリ笑う慶弥さんに、はしゃぎすぎだと苦笑する。
(だって、こんなにも些細なことが楽しくて愛しくて仕方ない)
「子どもみたいだよ」
慶弥さんに前髪がピンで留まったままだと教えてあげると、急に恥ずかしそうに顔を赤くして、消えたいと小さな声で呟く姿が堪らなく可愛い。
「早く教えてよ」
「気付いてると思ってたから」
そんなやり取りをしながら買い物を終えると、思ったよりもたくさん買い込んだ荷物を積んで車に乗り込んだ。
帰り道はすっかり暗くなっていて、陽が落ちるのが早くなったなんて話をしつつ、社員寮に戻ってから私が料理してる間に慶弥さんにはお風呂に入ってもらい、早速夕飯の支度に取り掛かる。
慶弥さんのリクエストに応えて魚料理を一品、安売りしてた塩鯖を塩抜きして唐揚げにしてから、炒めた野菜と一緒に特製の甘酢だれに漬け込む。
多分それだけでは足りないだろうから、もう一品かぼちゃのそぼろ煮も作る。
慶弥さんの味の好みがまだいまいち分からないので、とりあえず今日のところはお酒が進むように少しだけ濃い味付けにしてみた。
そして小松菜と厚揚げで和え物を作ると、ちょうどいい頃合いでご飯が炊けて、慶弥さんもお風呂から上がってきた。
「ご飯出来てるよ」
「いい匂いだね。瑞穂もお風呂入ってくるよね?」
「うん。先に済ませてくる」
「分かった。もしかしたら電話してるかもしれない、ごめんね」
「いいよ。じゃあちょっとお風呂入ってくるね」
慶弥さんと入れ替わるようにお風呂を済ませると、上がったタイミングで、やっぱり慶弥さんは電話をしていた。
そっと近付いてお風呂から上がったことを知らせると、すぐにキッチンに引き返して料理を温め直し、少し味見した鯖の南蛮漬けが、いい感じに味が染みて美味しくなっている。
「うん。美味しい」
炊き上がったご飯をさっくり混ぜて、いつでも盛り付けられるようスタンバイすると、ようやく電話が終わったらしい慶弥さんが寝室から顔を出した。
「ごめんね瑞穂、お待たせ。念の為にタブレット持ってきてて正解だった」
「お疲れ様。すぐ用意出来るけど、どうする?」
「食べるよ。俺も手伝うよ」
「じゃあご飯よそってくれるかな。ごめんね、食器が少ないから丼鉢になるけど」
「構わないよ。じゃあ俺がやるね」
狭いキッチンに二人で並んで食事の用意をすると、冷やしておいたビールも出して、段ボールが積まれたリビングでようやく乾杯する。
「はい乾杯、いただきます!」
「乾杯。いただきます」
缶ビールのまま乾杯すると、やっとゆっくりしてテレビを見ながらたわいない話をしつつ夕食を楽しんだ。
確かに今でも自分のワインバーを持つのは夢だけど、こうして慶弥さんと過ごす時間も有限だと思うと、堪らなく愛おしくて大切なものだと思う。
それに子どものことも、実際に欲しいと思ってもすぐに授かるかどうか分からない。こんなに素敵な恋人がいるのに、夢がどうだとか拘ってる場合だろうか。
「ねえ瑞穂。スモークチーズ買ったらダメ?」
「別にいいよ。メモにないからダメなんて言わないよ」
「やった」
ニッコリ笑う慶弥さんに、はしゃぎすぎだと苦笑する。
(だって、こんなにも些細なことが楽しくて愛しくて仕方ない)
「子どもみたいだよ」
慶弥さんに前髪がピンで留まったままだと教えてあげると、急に恥ずかしそうに顔を赤くして、消えたいと小さな声で呟く姿が堪らなく可愛い。
「早く教えてよ」
「気付いてると思ってたから」
そんなやり取りをしながら買い物を終えると、思ったよりもたくさん買い込んだ荷物を積んで車に乗り込んだ。
帰り道はすっかり暗くなっていて、陽が落ちるのが早くなったなんて話をしつつ、社員寮に戻ってから私が料理してる間に慶弥さんにはお風呂に入ってもらい、早速夕飯の支度に取り掛かる。
慶弥さんのリクエストに応えて魚料理を一品、安売りしてた塩鯖を塩抜きして唐揚げにしてから、炒めた野菜と一緒に特製の甘酢だれに漬け込む。
多分それだけでは足りないだろうから、もう一品かぼちゃのそぼろ煮も作る。
慶弥さんの味の好みがまだいまいち分からないので、とりあえず今日のところはお酒が進むように少しだけ濃い味付けにしてみた。
そして小松菜と厚揚げで和え物を作ると、ちょうどいい頃合いでご飯が炊けて、慶弥さんもお風呂から上がってきた。
「ご飯出来てるよ」
「いい匂いだね。瑞穂もお風呂入ってくるよね?」
「うん。先に済ませてくる」
「分かった。もしかしたら電話してるかもしれない、ごめんね」
「いいよ。じゃあちょっとお風呂入ってくるね」
慶弥さんと入れ替わるようにお風呂を済ませると、上がったタイミングで、やっぱり慶弥さんは電話をしていた。
そっと近付いてお風呂から上がったことを知らせると、すぐにキッチンに引き返して料理を温め直し、少し味見した鯖の南蛮漬けが、いい感じに味が染みて美味しくなっている。
「うん。美味しい」
炊き上がったご飯をさっくり混ぜて、いつでも盛り付けられるようスタンバイすると、ようやく電話が終わったらしい慶弥さんが寝室から顔を出した。
「ごめんね瑞穂、お待たせ。念の為にタブレット持ってきてて正解だった」
「お疲れ様。すぐ用意出来るけど、どうする?」
「食べるよ。俺も手伝うよ」
「じゃあご飯よそってくれるかな。ごめんね、食器が少ないから丼鉢になるけど」
「構わないよ。じゃあ俺がやるね」
狭いキッチンに二人で並んで食事の用意をすると、冷やしておいたビールも出して、段ボールが積まれたリビングでようやく乾杯する。
「はい乾杯、いただきます!」
「乾杯。いただきます」
缶ビールのまま乾杯すると、やっとゆっくりしてテレビを見ながらたわいない話をしつつ夕食を楽しんだ。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
堅物上司の不埒な激愛
結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。
恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。
次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。
しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる