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96.続 一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。
しおりを挟む「精霊に土地神、か。そのような存在のことなど、聞いたことも無い」
「ですが実際、今目の前に居るではないですか。父上」
唸るフレッドお義父さまに、パトリックさまが取り成すようにおっしゃってくださるも、フレッドお義父さまは難しいお顔でアップルパイさんとウエハースさんを見つめている。
「パトリックの言う通りですわ、お父様。聖獣が実在するのですもの。精霊が居たとしても不思議ではないわ」
空想世界のお話のようね、と言いながらカメリアさまはウエハースさんとアップルパイさんに、にこやかにご挨拶された。
それに対し、ウエハースさんとアップルパイさんも丁寧に挨拶を返す。
そんななかでも、フレッドお義父さまの疑念は消えないご様子で。
「何か、悪事を働いて封印されていたのではないのか?」
『違う!土地神様が復活されれば、この地はもっと豊かに栄える!』
「さほど悪い土地ではないよ、今も」
渋い顔で厳しい言葉をおっしゃったフレッドお義父さまに、ウエハースさんが噛み付くように答え、それに対しまたフレッドお義父さまが挑発するように言い募られる。
あ、検知の魔法。
そうしてフレッドお義父さまがウエハースさんと言いあらそ・・・お話しされているのをはらはらと見ていた私は、ロータスお義母さまがウエハースさんとアップルパイさんに検知の魔法をおかけになったことに気が付いた。
そうか。
それで、フレッドお義父さまが挑発するような言葉をかけていらしたのだわ。
相手に邪な”気”があれば、その激した心に表れ易い。
そのための挑発であり、今のはおふたりの連携だったのだと私は心底感心してしまった。
事前に何も相談なく、こうして自然に互いの力を合わせることが出来る。
そんな関係にパトリックさまと私もなれたらいい、と強い憧れを持った。
「フレッド。悪い”気”はありませんわ」
そしてロータスお義母さまがおっしゃった言葉に、フレッドお義父さまも頷かれる。
「分かった。精霊殿、検知をかけるなど試すようなことをして悪かった」
フレッドお義父さまが頭をお下げになれば、ウエハースさんとアップルパイさんが一瞬ぽかんとしてから同時に首を横に振った。
『そうか、検知か。正直だな。検知されるなど不快に思わないでもないが、まあ構わない。当主として、必要なことなのだろう』
やはり力が落ちているのか、と検知されている事実に気づけなかったことこそをウエハースさんが憂う。
『わたしたちに邪心が無いと判断されたのなら、改めてお願いします。わたしたち、ローズマリーが必要なんです』
そしてアップルパイさんが、両手を組んでフレッドお義父さまに祈るように懇願すれば、何故かパトリックさまが私の肩をひしと抱き寄せた。
「ローズマリーは渡さない」
その強い声に驚いて見上げれば、パトリックさまが厳しい瞳でウエハースさんとアップルパイさんを見ている。
『なっ!菓子を作って欲しい、と言っているだけだろう!ほんと心狭いな、お前!』
「分からないじゃないか。ローズマリーは、聖獣に選ばれるほどなんだ。油断すれば、俺が手を出せない世界へ、また連れて行かれてしまうかも知れない」
悲壮にさえ見えるパトリックさまの表情とその声に、私はテオとクリアと出会ったときのこを思い出した。
あのとき、私は確かに理屈では理解できない森に迷い込んだ。
そしてパトリックさまの力で私はこの現世に戻って来ることが出来て、とても感謝しているし、パトリックさまも安堵された。
それでもパトリックさまは、直接自分が行けない場所に居る私を案ずることしか出来なくて、随分と歯がゆい思いをされたのだろう。
そして、その再発を恐れていらっしゃるのだろう。
分かっているようで分かっていなかった、その苦悩の深さを見た気がして、私はパトリックさまの袖を、ぎゅ、と握った。
「わたくし、何処にも行きませんわ。ずっとパトリックさまのお傍におります」
真っ直ぐに瞳を見て言えばそのはしばみ色の瞳が緩んで、言葉は無くともしっかりとパトリックさまの袖を掴む手に手を重ねてくれる。
ああ。
私は、本当に幸せ者です。
「ああもう、なにこのローズマリーの可愛さ!パトリックも溶けるのではと思うほどに幸せそうで、でも男前とか!今のふたりを記録映像に残しておきたいくらいだわ!」
私の目を見つめる、やわらかくあたたかなパトリックさまの瞳が嬉しくて、そのまま見つめ合っていると、弾けるようなカメリアさまの声がして、私ははっと我に返った。
今ここに居るのは、私とパトリックさまだけではない。
ふたりだけではないどころか、初対面のウエハースさんやアップルパイさんが居るうえに、公爵家の皆さまが見ていらっしゃる前で恋愛脳全開してしまったことが恥ずかしく申し訳なく、私はそっとパトリックさまから放れよう・・・として失敗する。
「昔の私達を見ているようだな、ロータス」
「何を仰っているのです。貴方は、今でも変わらないではないですか」
「それはそうだろう。私の、君への想いが色褪せることなど無いのだから」
ん?
あら?
しかし、恋愛脳全開になっているのは私とパトリックさまだけではないようで、私たちを温かく見守ってくださるおふたりの仲良いご様子に、私もほっこりとなった。
フレッドお義父さまに抱き寄せられ、頬にキスを受けて照れていらっしゃるロータスお義母さまが可愛い。
私も、パトリックさまとずっと仲良くいられますように。
思い、パトリックさまの手に指を添わせれば、パトリックさまは私の手を優しく握り込んでくれた。
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