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第一章 ラバネス半島編

1.女神との会話、そして転生

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無限の時空間を漂っている~。

そこで俺はハッと気づいた……自分が死んだのだと……

大学を卒業してから、中堅企業に就職し、たまの休みの日にはアニメを観て、ゲームをし、ラノベを読む、ささやかな独身生活。

自分の人生に何の展望もなかったけど、それなりに静かに暮らしていたんだよな……

今思えば、もっと旅行もしたかった……もっと豪華な料理も食べたかった……それに一度くらい恋愛というものを体験したかったな……

まさか焼きマシュマロを口一杯に頬張っている最中に喉を詰まらせるなんて……その上、そのことでパニックになり、心臓発作を引き起こすとは思わなかった。

マンションの部屋で俺の死体を発見した人は、いったいどんなリアクションを取ったのだろうか。


「それはもう、何をやってるんだって感じで、救急隊員の皆さんも呆れていましたよ」


物思いに耽っている俺の近くから、突然、鈴の音のようなキレイな声が聞こえきた。


その声に驚いて辺りを見回すと、周囲は真っ白な空間へと変わっていて、俺の意識は神殿のような建物の中に漂っていた。

そして、目の前には、キラキラ光る豪華な椅子に座る、光輝く女性が笑い涙を流している。


「笑ってごめんさないね。でも、日頃からの不摂生で体に脂肪が溜まっていたことが原因なんだけど、まさか焼きマシュマロを喉に詰まらせているタイミングで、心臓発作が起きるなんて運が悪かったわよね」

「あなたは誰ですか?」

「見てわからないかな。私はあなた達の住んでいた世界とは違う異世界――エクストリア世界の女神よ。ほら、全身が光り輝いてるでしょ」


そういえば透き通った肌がキラキラと輝いている。


……こんな人間がいたら、真っ暗な夜でも明るそうだな。


「今、変なこと考えませんでした?」

「いえ……それでいったい俺に何の用ですか?」

「そのことを伝えにきたんですよ。おめでとうございます。厳正なガチャの抽選の結果、あなたはエクストリア世界に転生することになりました。パチパチパチパチ。剣と魔法の世界ですよ。魔獣やドラゴンだっています。夢の異世界ですよ。よかったですね」


……よくわからないけど、エクストリア世界という異世界へ転生できるみたいだな……これが現実の世界だったら、新手の詐欺商法か、似非宗教の勧誘を疑うところだよ。


厳正とか言ってるけど、ただガチャで当たっただけだろう……それで異世界に行く転生者を決めていいのか女神よ……さっきまでのやり取りで、いい加減にしか感じられないのだけど……


「また変なこと考えたでしょ」

「そんなことはないですよ。それでエクストリアの世界って、どんな世界なんですか?」


せっかく転生できるのだから、事前に情報を集めておくことは重要だよね。

その情報によって生き方を考えないといけないからさ。

ピカピカと光っていて、顔の微妙な表情まではわからないけど、女神は何やら言い淀んでいる。


「実は……五百年ほど前に魔王が魔族や魔獣従えて、世界を支配しようとした時期があって、それを日本から転移した勇者が、魔王が討ち滅ぼして侵略は阻止されたんだけど……」


それは俺が読んでいたラノベでも良くあるパターンだ、定番といってもいい。

言いにくそうだから、その後のことが気になるんだけど……


「魔族や魔獣の侵略によって世界が荒廃しちゃったのよね。今は人族が世界の大半を支配して……だから安定した大国がないの。少し大きな国が栄えると、すぐに他の国々から攻撃が集中して、これじゃあ文明も発達しないし、経済も発展しないわ」


……だから、日本の知識を持っている俺が、ガチャの抽選で選ばれたわけか……


日本人であれば、アニメやラノベで異世界転生にも慣れているし、日本の知識があるから文明や経済を発展させることもできる……でも、それってちょっと安易な気がするのは俺だけだろうか?


それに女神の説明をまとめてみると、今のエクストリア世界って、昔の日本の戦国時代に似た状態になっている気がする……

そんな中へ平和ボケの日本人である俺が転生したところで、国を建国する前に、殺されるような気がするけど……


「どうして、あなたってそうネガティブなのかな。それって日本人の悪い癖よね。もっとポジティブに生きなきゃ、人生はどんなことが起こるかわからないんだからね。気軽に転生してくれたらいいから」

「悲観的な推測しかできないんだけどね」

「何の能力もなく、いきなり転生させて放り出すなんてことはしないわよ。これでも一応は女神よ。どんな恩恵でも与えられるわ。さあ、何か望みがあるなら素直になんでも言ってみて」

「それならお金をくれ。一生、めちゃくちゃ散財しても尽きることのない莫大な富を」


そう……金さえあれば、冒険者に魔獣の討伐を依頼してもいい。


小さい島を買って、可愛くてキレイなメイド女子を雇って、毎日イチャイチャすることも夢ではない。

金があれば、面倒な国の再建なども金の力でパッと解決できるし、人を雇って商売をしてもいい。

今まで両手を広げて意気揚々と語っていた女神の動きがピタリと止まる。


「怠惰は大罪ですよ。怠ける者食うべからずです。お金は働いてきちんと自分で稼ぐことです。そんな要望は女神として許せません」


さっきはなんでもいいって言ったじゃないか……


転生した最初の時点で全く資金がなければ、文明も経済も発展させることなんて無理だよな。

あー、こんなことなら、転生したら冒険者になって、どこか田舎で丸太小屋でも建てて、スローライフでも送ろうかな。


「ちょっと待ちなさいよ。それはダメだからね。資金のことはキチンと考慮するからヘソ曲げないでよ」


さっきから薄々感づいてはいたけど、これって絶対に俺の思考を読んでるよな。

まあ、今は実体がないから、表情で誤魔化したりもできないけどね。


光り輝く豪華な椅子から立ち上がった女神は天に向かって両手をかかげる。

すると真っ白な空に青白い巨大な魔法陣が現れ、そこから光の柱が一気に俺に下りてきた。


「もう、色々と説明するのが面倒臭くなってきたわ。恩恵は授けたから、さっさとエクストリア世界へ行ってらっしゃーい」

「まだ何にも決まってないじゃないか。もう少し話し合おう……まだ、心の準備がぁぁあああ!」


こうして魔法陣の眩い光に包まれ、俺はエクストリア世界へと転生するのだった。
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