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第一章 ラバネス半島編
5.予想以上の売れ行き!
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『ボーン食器』が領内でバカ売れしたことで、『ロンメル商会』を設立することになった。
この商会は僕個人が所有する商会で、今はレミリアが副会長として僕の代わりに代表を務めてくれている。
ホントはジョルドに副会長になってほしかったんだけど、彼は父上の片腕なので協力を得ることができなかった。
領都で『ボーン食器』を売り始めて三か月後、ディルメス侯爵家の邸に、周辺の諸侯達が頻繁に訪問してくるようになった。
その内容はどれも『ボーン食器』を安く卸してくれないかというもので、いつも出迎えと諸侯の相手をしなければいけない父上は、段々と疲労の色を濃くしていく。
そんなある日、僕はレミリアは、父上の執務室へ呼び出された。
部屋に入ると、豪華なデスクに座る父上が、真剣な表情で真っ白なマグカップを持っている。
「ただ白いだけの食器と思っていたが、こんなにも流行るとはな。これは私の予想を上回る大変な事態になるかもしれん」
「どういうことでしょうか?」
「『ボーン食器』を卸してくれとブリタニス王国北部の貴族達が邸に訪問しているのは知っているだろう。つい最近も王都に近くに領地を持つ諸侯が我が邸を訪れた」
「『ボーン食器』については『ロンメル商会』が担当しておりますので、販路については私が全て記憶しています。この勢いですと、『ボーン食器』の売れ行きは、ブリタニス王国全土に広がると推測いたします」
「たぶんレミリアの予想通りになるのだろうな。それだけではないぞ。もしかすると王宮から呼び出しがあるかもしれん。もしもの時はシオンも王城に同行することになるから、そのつもりで心の準備をしておくように」
父上にそう告げられた後、僕はレイミアと二人で自室へと戻った。
ちょっとディルメス侯爵領の資金繰りを改善しようとしただけなのに、なんでこんな大事になってるの……そこまで考えてもみなかったよ……
しかし、父上が王都へ行くとなると、多くの兵士を率いて登城しなくちゃらならない、そうなればまた出費がかさむ。
ナブラスト王国との国境での戦いで、それでなくても出費が膨らんでいるのに、何だか僕が引き起こしたことで、父上に迷惑をかけるのは申し訳ない。
そこまで考えた僕は、あることを思いついた。
僕は急いで机の上のインクとペンを手に取り、大きな姿見の前に立ち、鏡に向かって一心不乱に魔法陣を描いていく。
「それは何の魔法陣なんですか?」
「ふふふ……転移の魔法陣だよ。こうすれば王都のある別邸へ転移できるだろ」
「転移の魔法といえば、勇者サトウがご健在の頃、賢者タナカが用いたと言われている魔法ではありませんか。もうシオン様が何をされても私が驚ませんけど……」
女神様の言われていたことは本当で、五百年ほど前に勇者サトウとその仲間達が、魔王を討伐してエクストリア世界を救ったとされている。
もう昔々の話で神話になってしまってるけどね。
やっと『転移』の魔法陣が完成し、それに魔力を流してみると、姿見の内側が歪んだゲートみたいになった。
……これで王都にあるディルメス家の別邸に繋がっているはず。
「ちょっと実験してみよう。鏡の向こう側へ行ってくるよ」
「シオン様が実験材料になるなんて、それはダメです。私が確認して参ります」
「それじゃあ、二人で一緒に行ってみようか」
僕とレイミアは互いの手を握り、鏡の内側へと入っていく。
すると一瞬、上下左右がわからなくなり、次の瞬間には見知った部屋に立っていた。
そして、今にも服を着ようとしている裸のアレン兄上と目が合う。
「ギャー! シオンとレミリアの幽霊が出たー!」
「ワァー! アレン兄上の幽霊が出たー!」
「二人とも冷静になってください」
ギャギャーと悲鳴をあげる僕とアレン兄上の頭を、スッパパンとレミリアが張り倒す。
その衝撃で正気に戻ったアレン兄上が表情を歪めた。
「どうしてシオンが王都の別邸にいるのかな? 詳しく話しを聞かせてくれないか?」
「……転移魔法陣の実験をしていて……ここは別邸だから転移に成功したというかな……」
「転移魔法だって、まさかディルメス侯爵領の邸から転移してきたのか! こんな重大なこと父上に報告する必要があるぞ!」
急いで服の着替えを終えたアレン兄上は、嫌がる僕の腕を掴んで、ぐいぐいと姿見の内側のゲートへ引きずり込む。
その手を振り切って、しぶとく抵抗しているとレミリアに体を抱え上げられ、僕達二人は一気にゲートの中を潜った。
ディルメス侯爵領の邸へ転移し、床に座ってふてくされていると、レミリアがそっと僕に顔を寄せる。
「この件についてはダイナス様へご報告したほうがよいと私も思います。これほどの偉業を成し遂げたのですから、お叱りにはならないでしょう」
「私からも口添えしてやるから大丈夫だ」
二人に説得され、僕はしぶしぶ立ち上がり、皆と一緒に父上の執務室へ向かった。
扉をノックしてアレン兄上が部屋に入ると、その姿を見て驚いた父上が席を立つ。
「王都の別邸にいるはずのアレンがなぜここにいる?」
「……それはシオンが、転移の魔法陣を完成させたらしく……」
「シオン! どういうことか詳しく経緯を話しなさい!」
デスクを拳で叩き、父上の怒鳴り声が部屋中に響き渡る。
それから長時間、説教されることになったのはいうまでもない。
この商会は僕個人が所有する商会で、今はレミリアが副会長として僕の代わりに代表を務めてくれている。
ホントはジョルドに副会長になってほしかったんだけど、彼は父上の片腕なので協力を得ることができなかった。
領都で『ボーン食器』を売り始めて三か月後、ディルメス侯爵家の邸に、周辺の諸侯達が頻繁に訪問してくるようになった。
その内容はどれも『ボーン食器』を安く卸してくれないかというもので、いつも出迎えと諸侯の相手をしなければいけない父上は、段々と疲労の色を濃くしていく。
そんなある日、僕はレミリアは、父上の執務室へ呼び出された。
部屋に入ると、豪華なデスクに座る父上が、真剣な表情で真っ白なマグカップを持っている。
「ただ白いだけの食器と思っていたが、こんなにも流行るとはな。これは私の予想を上回る大変な事態になるかもしれん」
「どういうことでしょうか?」
「『ボーン食器』を卸してくれとブリタニス王国北部の貴族達が邸に訪問しているのは知っているだろう。つい最近も王都に近くに領地を持つ諸侯が我が邸を訪れた」
「『ボーン食器』については『ロンメル商会』が担当しておりますので、販路については私が全て記憶しています。この勢いですと、『ボーン食器』の売れ行きは、ブリタニス王国全土に広がると推測いたします」
「たぶんレミリアの予想通りになるのだろうな。それだけではないぞ。もしかすると王宮から呼び出しがあるかもしれん。もしもの時はシオンも王城に同行することになるから、そのつもりで心の準備をしておくように」
父上にそう告げられた後、僕はレイミアと二人で自室へと戻った。
ちょっとディルメス侯爵領の資金繰りを改善しようとしただけなのに、なんでこんな大事になってるの……そこまで考えてもみなかったよ……
しかし、父上が王都へ行くとなると、多くの兵士を率いて登城しなくちゃらならない、そうなればまた出費がかさむ。
ナブラスト王国との国境での戦いで、それでなくても出費が膨らんでいるのに、何だか僕が引き起こしたことで、父上に迷惑をかけるのは申し訳ない。
そこまで考えた僕は、あることを思いついた。
僕は急いで机の上のインクとペンを手に取り、大きな姿見の前に立ち、鏡に向かって一心不乱に魔法陣を描いていく。
「それは何の魔法陣なんですか?」
「ふふふ……転移の魔法陣だよ。こうすれば王都のある別邸へ転移できるだろ」
「転移の魔法といえば、勇者サトウがご健在の頃、賢者タナカが用いたと言われている魔法ではありませんか。もうシオン様が何をされても私が驚ませんけど……」
女神様の言われていたことは本当で、五百年ほど前に勇者サトウとその仲間達が、魔王を討伐してエクストリア世界を救ったとされている。
もう昔々の話で神話になってしまってるけどね。
やっと『転移』の魔法陣が完成し、それに魔力を流してみると、姿見の内側が歪んだゲートみたいになった。
……これで王都にあるディルメス家の別邸に繋がっているはず。
「ちょっと実験してみよう。鏡の向こう側へ行ってくるよ」
「シオン様が実験材料になるなんて、それはダメです。私が確認して参ります」
「それじゃあ、二人で一緒に行ってみようか」
僕とレイミアは互いの手を握り、鏡の内側へと入っていく。
すると一瞬、上下左右がわからなくなり、次の瞬間には見知った部屋に立っていた。
そして、今にも服を着ようとしている裸のアレン兄上と目が合う。
「ギャー! シオンとレミリアの幽霊が出たー!」
「ワァー! アレン兄上の幽霊が出たー!」
「二人とも冷静になってください」
ギャギャーと悲鳴をあげる僕とアレン兄上の頭を、スッパパンとレミリアが張り倒す。
その衝撃で正気に戻ったアレン兄上が表情を歪めた。
「どうしてシオンが王都の別邸にいるのかな? 詳しく話しを聞かせてくれないか?」
「……転移魔法陣の実験をしていて……ここは別邸だから転移に成功したというかな……」
「転移魔法だって、まさかディルメス侯爵領の邸から転移してきたのか! こんな重大なこと父上に報告する必要があるぞ!」
急いで服の着替えを終えたアレン兄上は、嫌がる僕の腕を掴んで、ぐいぐいと姿見の内側のゲートへ引きずり込む。
その手を振り切って、しぶとく抵抗しているとレミリアに体を抱え上げられ、僕達二人は一気にゲートの中を潜った。
ディルメス侯爵領の邸へ転移し、床に座ってふてくされていると、レミリアがそっと僕に顔を寄せる。
「この件についてはダイナス様へご報告したほうがよいと私も思います。これほどの偉業を成し遂げたのですから、お叱りにはならないでしょう」
「私からも口添えしてやるから大丈夫だ」
二人に説得され、僕はしぶしぶ立ち上がり、皆と一緒に父上の執務室へ向かった。
扉をノックしてアレン兄上が部屋に入ると、その姿を見て驚いた父上が席を立つ。
「王都の別邸にいるはずのアレンがなぜここにいる?」
「……それはシオンが、転移の魔法陣を完成させたらしく……」
「シオン! どういうことか詳しく経緯を話しなさい!」
デスクを拳で叩き、父上の怒鳴り声が部屋中に響き渡る。
それから長時間、説教されることになったのはいうまでもない。
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