44 / 63
44.幸せって、どんなものだったかしら?
しおりを挟む『ところでマチルダ、時々君の思考に出てくる【ゲーム】と言うのはなんだ』
あら、急に何の話かと思えば……そう言えば私、ずっと声を出していなかったわね。
いつのまにこの状態に慣れちゃったのかしら。
『そんなことはどうでもいい。【ゲーム】とは一体何か教えてくれ』
人の考えてることを勝手に読んでおいてなんて言いざまなのかしら。そんなことなんて。
って、考えてること全部筒抜けじゃないっ!
『仕方がないだろう。マチルダは話すのが苦手なんだろう? で、あるならば思考を読むしかない』
人のことを愛し子だとか言ってるくせに、なんて横暴!!
勝手すぎるわっ!
そう思い切り精霊王たちを睨みつけたけど、二人(?)ともどこ吹く風。
闇の精霊王なんて、
『いいから、さっさと【ゲーム】のマチルダとは一体誰のことか教えてくれ』
と要求までしてくるじゃないの。
超いらつくけど、どうせ読まれるならさっさと読ませちゃったほうがいいわね。面倒だけど。
ゲームはゲームよ。
主人公の愛し子を操って、この世界に似た世界を悪から救う、遊びのこと。
そう前置きして、意気揚々と頭の中に描くゲームの世界。
もうずいぶん昔のことだから、ちょっと……かなり脚色が入っているかもしれないけれど、主たるストーリーと印象的な場面はまだ頭の中に残っていた。
一つめの映像は、パッケージ。
愛し子と説明書きされたルフィナを攻略対象者と精霊王たちが囲み、それをマチルダ悪役連合が端のほうから、羨ましげに忌々しげに睨んでいるものだ。
『ルフィナが愛し子? あり得ない』
早速、森の精霊王が文句を言い始めたわ。
『なんだこれはっ。愛し子はマチルダだぞ。あの娘ではないっ! それに私は愛し子の願いが無ければ聖女などに力を貸したりしないぞ!!』
ルフィナに加護を与える森の精霊王――――自身の姿に目を瞠り、
『なんだこれは。マチルダが悪だとっ! それに愛し子を戦わせるなど!! あり得ないっ!』
マチルダと相対するルフィナと攻略対象者、そして精霊たちの姿に、地団駄を踏み、
『聖女が愛し子に頭を下げさせるだとっ!』
って、庭をざわざわさせ始めちゃった。
草は伸びるし、花は咲くし、木々は一回り幹が太くなるし、かろうじて庭って状態から、森になっちゃいそう。
『そんな世界滅ぼしてしまえっ!』
森の精霊王の中では、ゲームの中でもルフィナが聖女で、マチルダは愛し子のようね。
闇の精霊王は、そんな森の精霊王を面白そうに眺めていたけど、私がいるガゼボの周りがやけに立派な葉をつけた蔦が暴れ回り始めたら、流石にも慌てて森の精霊王を拘束した。
『闇のぉ、止めてくれるな』
『馬鹿な事を言うな。ありもしないことでこの地を壊すつもりか』
『だけどぉ~』
疲れ切った闇の精霊王に、ぐでぐでな森の精霊王は泣きごとを言っている。
でも、このままだとみんな森に飲まれちゃうものね。
『マチルダ、ゲームと言うものはとても面白いね。君が考えたものなのか?』
いいえ、違うわ。
ゲームは私が前にいた世界で、私の知らない人が考えたもの。
『前の世界……』
闇の精霊王が首をかしげる。
あら、つい前の世界って考えたけど、異世界転生なんて言って分かるのかしら?
『イセカイ、テンセイ……あぁ、そうか。そうなのか……』
闇の精霊王は、まじまじと私を見つめて、大きく頷いた。
『マチルダ、近いうちに光の神殿に行ってくれないか?』
「嫌ですわ」
『あぁ、分かっている。だが、是非行って欲しい』
え、何故ですの? 二度とあんな所には近付きたくありませんわ!
『だが、マチルダ。君が望まなくとも、この国の人々は君に愛し子としての役割を求めるだろう』
「役割?」
『闇を払うのは聖女の仕事だ。だが聖女が力を手に入れるには愛し子の願いが不可欠。いずれ聖女によって愛し子が明らかにされるだろう』
なんてこと……そんな話、聞いてないわよ。
『だろうね。だからその前に、君の願いを叶えなければならない』
――――願い?
あぁ、そうでしたわね。本来、望まなければ、叶えれないのでしたわね。
でも、光の神殿と、私の願い。
何の関係があるのかしら?
『マチルダの願いと言うよりは……歴代の愛し子の願いだ』
意味が掴めなくて眉をひそめれば、闇の精霊王は何とも言えない表情になった。そして、
『マチルダ、君の言う前の世界で、君は幸せだったかい?』
ってそう尋ねられて、頭の中に前世のイメージが浮かび上がった。
胸に溢れた温かい気持ちに、答えを口にしようとして――――時間切れ。
グリフ様に見つかってしまったから。
闇の精霊王も、森の精霊王も、暴れまくった木々も、邸に続く扉が開いた途端、何事も無かったように元の状態に戻って……
私だけがガゼボに取り残された。
君が愛し子だとか言ってたくせに、酷いと思わない?
私は、闇の精霊王に言ってやりたかった。
私は……。
62
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる