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第26話 フローラVS神官アリア

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 神官アリアの前に、紅茶色の髪と翠緑色《エメラルドグリーン》の瞳をした猫神族が立っていた。

 フローラは戦斧の先端にある槍を地面に突き刺した。
 戦斧を使うと殺傷してしまう可能性があるので、素手で闘う事にしたのだ。

「獣ごときが私に勝てると思わない事ですね~」

 神官アリアが、フローラを見下した視線を送る。

「にゃー! 人の事をそんな風にバカにしちゃダメ! お父さんとお母さんから、『人をバカにしちゃダメ』って教わらなかったの?」

 フローラが、諭すように怒る。

「獣人ごときに礼節を守るようには両親には教わりませんでしたよ~」

 神官アリアが、嘲弄する。

「獣人って……、私は正確には猫神族だにゃー」

 フローラが、指摘する。

「ね、猫神族?」

 神官アリアが、驚愕した。 
 猫神族は猫神という神の末裔と言われている。
 人間よりも遙かに高貴な存在であると、聖教教会で認定されている希少種だ。

「馬鹿な……。猫神族が、こんな所にいる訳がありません~」
「ところがいるんだにゃー」

 フローラは胸を張る。

「ふん。虚言は私には通じませんよ~。さあ、死になさい」

 神官アリアは、

「『浄化《ピロフィケーション》の炎《ファイア》』」

 と唱えた。

 50人の人間をまとめて焼き尽くすだけの火力を持つ魔法が、フローラめがけて襲い掛かる。

 だが、フローラは一瞬で回避した。

 そして、あっと言う間に距離をつめて、神官アリアの横に出現する。

「ふん!」

 フローラは手加減して、神官アリアにデコピンをしようとした。

 嫌な女の子だけど、女の子は女の子だ。 

(手加減しないといけないにゃー)

 と、フローラは考えていた。
 フローラのデコピンは、並の人間なら気絶するくらいの威力がある。

 だが、フローラのデコピンは弾き返された。
 神官アリアの肉体がいつの間にか、白い魔法光でおおわれていた。
 その光にフローラのデコピンは弾き返されたのだ。

「うにゃ! 弾かれた」

 フローラは警戒して距離を取る。

「無駄ですよ。この『聖《ホーリー》なる防壁《ガード》』は、貴女ごときでは破壊できませんよ~」
「う~ん。どうしようかにゃー? 確かに素手で破壊するのは難しそうだねー」

 フローラは、腕を組んで考えた。

「貴女のようなお馬鹿さんは、考えるだけ無駄ですよ~」

 神官アリアが、笑声をあげる。

「フシャー! 私は確かにお馬鹿さんだけど、本当の事を言われると腹が立つよ!」

(なんて嫌な子だにゃー)

 フローラは憤慨した。
 そして、ふと気付く。
 神官アリアの後ろに大きな岩がある事を。

「やった! すごいアイデアを思いついたにゃー!」

 フローラが明るい声を出し、いきなり走り出した。

 フローラは神官アリアを迂回して、巨岩にむかって走る。
  
 翠緑色《エメラルドグリーン》の瞳の猫神族が、巨岩を目指している事に神官アリアが気付く。

「バカな事を! 貴女の考えなどお見通しですよ~!」

 神官アリアは、手をフローラめがけてかざした。

「その巨岩を私に向かって放りなげるつもりでしょう~?」

 神官アリアが呟く。

(あんな巨岩を持ち上げられるわけがない。やはり、愚かな獣です~) 

 神官アリアは、浅はかな考えをもつ獣人を笑った。
 
 そして、『聖《ホーリー》なる防壁《ガード》』を解除して、攻撃魔法を詠唱しようとする。

「引っ掛かったにゃー♪」

 その時、フローラが突如反転して神官アリアにむかって疾走した。

 まるで瞬間移動のように、フローラは神官アリアの背後にまわり、彼女を後ろから羽交い締めにした。

 フローラのあまりの速さに、神官アリアは目で追う事ができなかった。

「やっぱりだにゃー! 貴女のバリアーは、攻撃する時は解除するんでしょ? そうしないと攻撃魔法を撃てないんだにゃー」

 フローラに、後ろから羽交い締めにされた神官アリアは、恐怖で身を凍らせた。

 紅茶色の髪の猫神族の力はあまりに強く、神官アリアは微動だに出来なくなった。 

「そして、私が至近距離にいると、バリアーを張れないんでしょ?」
「な、なぜ分かったのですか~?」
「直感♪ 私は直感だけは鋭いんだにゃ~♪ そりゃ!」

 フローラは神官アリアをお姫様抱っこすると、いきなり空中に投げた。

「ぎゃああああああ!」

 神官アリアの身体がボールのように空にむかって飛ぶ。

 20メートル以上も上空に飛んで、当然ながらその後、重力に引かれて落下した。

「ひえええええっ!」

 神官アリアは泣き叫んだ。
 地面に衝突して死ぬ。
 そう確信した。

「よっ♪」

 ボフっ! と音がした。
 フローラが優しく神官アリアを抱き止めたのだ。
 さすがにこれだけやれば、戦意を喪失するだろうとフローラは思った。

「さて、え~とアリアちゃんだっけ? ちゃんとカインに謝ってね?」

 だが、神官アリアは無言だった。
 恐怖のあまり神官アリアは気絶して、白目をむいて舌を出していた。
 口から泡を吹いており、女の子としてアウトな顔をしている。

「うにゃー、やりすぎたかな?」

 フローラはそっと神官アリアを地面に寝かせた。
 まあ、いいか。

「結構悪口も言われちゃったし、どこも怪我をしてないから大丈夫だにゃー」  

 それにカインの悪口を言った子らしいから、良いよね♪ 
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