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勇者ハーゲンの敗北4
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「今後のご活躍を期待しておりますよ。勇者ハーゲン殿。貴方に莫大な報酬を毎月渡しているのは、いずれ魔王を倒す『真の勇者』となる可能性があるからです」
ウルバヌス司祭は、一度言葉を切り、語を継いだ。
「追放したカイン=ベルマーに、実力と名声で劣る『勇者』など、存在価値がありません。私は、次回の魔族討伐に貴方が失敗するようならば、カイン=ベルマー殿を『勇者』に認定するように、法皇猊下に進言するつもりです」
「なっ!」
勇者ハーゲンは、雷に打たれたような衝撃に身を震わせた。
「ば、馬鹿な! ヤツは農民の息子だぞ! 勇者に認定されるのは、初代勇者の血を継ぐ者だけだ! カインのような下賤な輩に、初代勇者の血など一滴も流れてはいない!」
「それは世間の者がよく勘違いする誤解ですな」
ウルバヌス司祭は、嘲弄の声を響かせた。
「『勇者』とは、魔王を倒した者に与えられる称号です。現在の貴方の『勇者』の称号は、仮初めのモノ。いわばヤル気を出して頂く為に用意した便宜上の称号です」
「な、なんだと……」
勇者ハーゲンは、衝撃のあまり身体をぐらつかせた。
椅子に手をおいて、かろうじてバランスを取る。
それ程までに、心身が動揺していた。
「つまり、農民であろうと、奴隷であろうと魔王を倒した者こそが、真の勇者なのですよ。今ひとつ、初代勇者の血を引き継ぐ者だけが、『勇者』となったというのは俗説であり、誤りです」
「ど、どういう事だ!」
「歴史上、魔王を倒した『勇者』は、史料で実在を証明されている者を数えると、23名。その内、13名が初代勇者の血を継いでいました。ですが、残りの10名は初代勇者の血を継いではいませんでした」
「そ、そんな……」
勇者ハーゲンの全身が震えていた。
自らのアイデンティティーが根底から覆されるような衝撃が全身を襲う。
「おそらく、『初代勇者の子孫だけが勇者となった』という俗説が、ここまで流布したのは吟遊詩人や物語、歌劇などの影響でしょうな。物語としては貴種流離譚として、『尊き血筋』というのは万人受けしますから」
ウルバヌス司祭は、学者のように淡々とのべた。
「勇者の出自も様々ですよ。王族、貴族、平民、中には奴隷だった者もいます。ですが、出自などはどうでも良いのです。『勇者』の証は魔王を倒し、世界に平和をもたらした強者。それだけですから」
「あ、ありえない。そんな事が……、有り得るはずが無い」
勇者ハーゲンは、幼児がだだをこねるように、首を振った。
「いいえ、真実です。お疑いなら、星神教会本部にある歴史資料編纂部においで下さい。証拠の古文書をお見せしますよ」
ウルバヌス司祭が、ふいに鋭い視線を勇者ハーゲンにおくる。
「ここまで言えば、カイン=ベルマー殿を『勇者』に推薦するという私の話に、正当性がある事が理解できましたか? どうか、強くなって下さい。勇者ハーゲン殿。貴方が、『勇者』としての栄光を手に入れたいならば、強くなる事です」
ウルバヌス司祭は、クルリと勇者ハーゲンに背を向けた。
「今の所、私の見立てでは、カイン=ベルマー殿の方が、貴方よりも遙かに強い」
ウルバヌス司祭は肩越しに、勇者ハーゲンに視線を投じた。
「研鑽を重ねて、強くなって下さい、勇者ハーゲン殿。追放した人間よりも弱いなどと言われては、男としての面目すら立ちますまい?」
ウルバヌス司祭が、退出し、護衛の聖騎士5名も後に続いた。
ドアが閉められた。
一人残った金髪碧眼の勇者は、顔面を蒼白にしたまま、彫像のように立ち続けていた。
かつてこれ程の屈辱を受けた事はなかった。
やがて、力尽きたように椅子に座ると、勇者ハーゲンは、獣のように絶叫した。
ウルバヌス司祭は、一度言葉を切り、語を継いだ。
「追放したカイン=ベルマーに、実力と名声で劣る『勇者』など、存在価値がありません。私は、次回の魔族討伐に貴方が失敗するようならば、カイン=ベルマー殿を『勇者』に認定するように、法皇猊下に進言するつもりです」
「なっ!」
勇者ハーゲンは、雷に打たれたような衝撃に身を震わせた。
「ば、馬鹿な! ヤツは農民の息子だぞ! 勇者に認定されるのは、初代勇者の血を継ぐ者だけだ! カインのような下賤な輩に、初代勇者の血など一滴も流れてはいない!」
「それは世間の者がよく勘違いする誤解ですな」
ウルバヌス司祭は、嘲弄の声を響かせた。
「『勇者』とは、魔王を倒した者に与えられる称号です。現在の貴方の『勇者』の称号は、仮初めのモノ。いわばヤル気を出して頂く為に用意した便宜上の称号です」
「な、なんだと……」
勇者ハーゲンは、衝撃のあまり身体をぐらつかせた。
椅子に手をおいて、かろうじてバランスを取る。
それ程までに、心身が動揺していた。
「つまり、農民であろうと、奴隷であろうと魔王を倒した者こそが、真の勇者なのですよ。今ひとつ、初代勇者の血を引き継ぐ者だけが、『勇者』となったというのは俗説であり、誤りです」
「ど、どういう事だ!」
「歴史上、魔王を倒した『勇者』は、史料で実在を証明されている者を数えると、23名。その内、13名が初代勇者の血を継いでいました。ですが、残りの10名は初代勇者の血を継いではいませんでした」
「そ、そんな……」
勇者ハーゲンの全身が震えていた。
自らのアイデンティティーが根底から覆されるような衝撃が全身を襲う。
「おそらく、『初代勇者の子孫だけが勇者となった』という俗説が、ここまで流布したのは吟遊詩人や物語、歌劇などの影響でしょうな。物語としては貴種流離譚として、『尊き血筋』というのは万人受けしますから」
ウルバヌス司祭は、学者のように淡々とのべた。
「勇者の出自も様々ですよ。王族、貴族、平民、中には奴隷だった者もいます。ですが、出自などはどうでも良いのです。『勇者』の証は魔王を倒し、世界に平和をもたらした強者。それだけですから」
「あ、ありえない。そんな事が……、有り得るはずが無い」
勇者ハーゲンは、幼児がだだをこねるように、首を振った。
「いいえ、真実です。お疑いなら、星神教会本部にある歴史資料編纂部においで下さい。証拠の古文書をお見せしますよ」
ウルバヌス司祭が、ふいに鋭い視線を勇者ハーゲンにおくる。
「ここまで言えば、カイン=ベルマー殿を『勇者』に推薦するという私の話に、正当性がある事が理解できましたか? どうか、強くなって下さい。勇者ハーゲン殿。貴方が、『勇者』としての栄光を手に入れたいならば、強くなる事です」
ウルバヌス司祭は、クルリと勇者ハーゲンに背を向けた。
「今の所、私の見立てでは、カイン=ベルマー殿の方が、貴方よりも遙かに強い」
ウルバヌス司祭は肩越しに、勇者ハーゲンに視線を投じた。
「研鑽を重ねて、強くなって下さい、勇者ハーゲン殿。追放した人間よりも弱いなどと言われては、男としての面目すら立ちますまい?」
ウルバヌス司祭が、退出し、護衛の聖騎士5名も後に続いた。
ドアが閉められた。
一人残った金髪碧眼の勇者は、顔面を蒼白にしたまま、彫像のように立ち続けていた。
かつてこれ程の屈辱を受けた事はなかった。
やがて、力尽きたように椅子に座ると、勇者ハーゲンは、獣のように絶叫した。
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