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小春日のような幸せ ジョシュアの場合
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俺はグレースの手をしっかりと握っている。暖かい春の日差しに包まれているような心がときめく心地だ。
なぜこうなったかというと、それは飛行機という乗り物に俺たちが乗っているからだ。魔法を使わずに空を飛ぶなんて正気の沙汰では断じてない。けれども魔法のようにこの船は飛んでいる。それが飛行機というものらしい。
グレースは怯えた。俺も怖かったけれども、グレースを励ますために隣の席で震えるグレースの手をそっと握った。そこからずっとこの状態が続いている。とっくに飛行機は空の上だ。
――なんと幸せなことだろう!大手を振ってグレースの手を握り締め続けられるなら、こんな怖さは大歓迎だ……。
3年前にグレースに振られてからもずっと俺はグレースを思い続けていたが、そんなことは内緒だ。この3年間は考えられなかったことだが、大手を振ってグレースの手を握れる今の状態が幸せだった。もしかすると、もう大丈夫だというところまできても手を握り続けていたかもしれないが、グレースは頬を赤らめて俺を見つめるだけで、咎めることはなかった。
俺はグレースの隣で、給仕されたお酒を飲んだ。意外に美味しかった。考えてみれば国王になってから初めて飲んだお酒だ。グレースを王妃に据えることもできたし、今日は数時間の間、グレースの手を握っていられたし、俺は気が緩んでしまった。
グレースにもお酒をすすめたので、グレースの目がとろんとしてきて、俺を見つめる瞳に破壊力抜群の魅力が増したことに俺は途中で気づいてハッとしてしまった。
「グレースは俺のことはもう好きじゃないの?」
ふと自分の心の声がそのまま出てしまっていて、俺は真っ赤になった。グレースの返事を聞くのが怖くなり、グレースの顔も見ずに急に席を立ち、フラフラとトイレの方に歩いて行ってしまった。
「え?」
グレースがそうつぶやいた声だけが聞こえた。
――あぁ!なんてことだろう!酔って気分が良くなってしまって、思わず心の声をそのまま出すなんて……。
――あぁ!魔力で時間を戻せないだろうか?俺がバカなことを言う前に時間を戻したいっ!
真剣に俺は飛行機の通路を歩きながら自分を責めた。思わずペガサスの魔力を呼び寄せて、手にぐっと力を込めた。
手のひらが熱くなり、小さな金色に煌めくペガサスの光が目に前に現れた。このまま時間を戻すかという勢いで深呼吸した瞬間、脳裏にある言葉がよぎった。
『見返りが必要』
一瞬、円深天皇の声が頭に響いた。そして次の瞬間には、昔グレースと訪ねた時に言われたノーキーフォットの魔女の言葉も頭に浮かんだ。
――危ないっ……
俺は危うく勝手な思いで魔力を使うところだったが、集めたペガサスの力を解放した。
――そうだ。身勝手な思いで使うわけにはいかない。自分が盛り上がって心の声が漏れ出たぐらいで俺は何を……
俺は落ち着いて座席に戻った。どうかグレースがさっきの言葉を無視してくれることを祈った。答えを聞くのが怖い。けれども時間は戻せない。
「好きよ」
「えっ?」
俺がグレースの方を慌ててみると、恥ずかしそうに頬を赤らめたグレースが俺の顔を見つめた。
「好きよ」
もう一度グレースはささやいた。酔っているのか瞳は憂いを帯び、とろんとしてふっくらとした唇は半開きでぼうっと俺を見つめている。
「酔っている?」
「はい」
グレースはうなずいたが、俺の手をそっととり、俺の手のひらに『好き』という文字を指で描いた。温かくて柔らかいグレースの手が俺の手を包み、グレースの人差し指で書かれた文字がくすぐったくて、とびきり嬉しくて、俺は笑い出した。
ふふっ
グレースも笑いだし、俺たちは頭をくっつけて笑いあった。
俺はとんでもなく幸せだった。彼女は俺を好きだという。そのことだけで、この3年間のことは俺の中ではなかったことになりそうだった。
舞い上がった。
なぜこうなったかというと、それは飛行機という乗り物に俺たちが乗っているからだ。魔法を使わずに空を飛ぶなんて正気の沙汰では断じてない。けれども魔法のようにこの船は飛んでいる。それが飛行機というものらしい。
グレースは怯えた。俺も怖かったけれども、グレースを励ますために隣の席で震えるグレースの手をそっと握った。そこからずっとこの状態が続いている。とっくに飛行機は空の上だ。
――なんと幸せなことだろう!大手を振ってグレースの手を握り締め続けられるなら、こんな怖さは大歓迎だ……。
3年前にグレースに振られてからもずっと俺はグレースを思い続けていたが、そんなことは内緒だ。この3年間は考えられなかったことだが、大手を振ってグレースの手を握れる今の状態が幸せだった。もしかすると、もう大丈夫だというところまできても手を握り続けていたかもしれないが、グレースは頬を赤らめて俺を見つめるだけで、咎めることはなかった。
俺はグレースの隣で、給仕されたお酒を飲んだ。意外に美味しかった。考えてみれば国王になってから初めて飲んだお酒だ。グレースを王妃に据えることもできたし、今日は数時間の間、グレースの手を握っていられたし、俺は気が緩んでしまった。
グレースにもお酒をすすめたので、グレースの目がとろんとしてきて、俺を見つめる瞳に破壊力抜群の魅力が増したことに俺は途中で気づいてハッとしてしまった。
「グレースは俺のことはもう好きじゃないの?」
ふと自分の心の声がそのまま出てしまっていて、俺は真っ赤になった。グレースの返事を聞くのが怖くなり、グレースの顔も見ずに急に席を立ち、フラフラとトイレの方に歩いて行ってしまった。
「え?」
グレースがそうつぶやいた声だけが聞こえた。
――あぁ!なんてことだろう!酔って気分が良くなってしまって、思わず心の声をそのまま出すなんて……。
――あぁ!魔力で時間を戻せないだろうか?俺がバカなことを言う前に時間を戻したいっ!
真剣に俺は飛行機の通路を歩きながら自分を責めた。思わずペガサスの魔力を呼び寄せて、手にぐっと力を込めた。
手のひらが熱くなり、小さな金色に煌めくペガサスの光が目に前に現れた。このまま時間を戻すかという勢いで深呼吸した瞬間、脳裏にある言葉がよぎった。
『見返りが必要』
一瞬、円深天皇の声が頭に響いた。そして次の瞬間には、昔グレースと訪ねた時に言われたノーキーフォットの魔女の言葉も頭に浮かんだ。
――危ないっ……
俺は危うく勝手な思いで魔力を使うところだったが、集めたペガサスの力を解放した。
――そうだ。身勝手な思いで使うわけにはいかない。自分が盛り上がって心の声が漏れ出たぐらいで俺は何を……
俺は落ち着いて座席に戻った。どうかグレースがさっきの言葉を無視してくれることを祈った。答えを聞くのが怖い。けれども時間は戻せない。
「好きよ」
「えっ?」
俺がグレースの方を慌ててみると、恥ずかしそうに頬を赤らめたグレースが俺の顔を見つめた。
「好きよ」
もう一度グレースはささやいた。酔っているのか瞳は憂いを帯び、とろんとしてふっくらとした唇は半開きでぼうっと俺を見つめている。
「酔っている?」
「はい」
グレースはうなずいたが、俺の手をそっととり、俺の手のひらに『好き』という文字を指で描いた。温かくて柔らかいグレースの手が俺の手を包み、グレースの人差し指で書かれた文字がくすぐったくて、とびきり嬉しくて、俺は笑い出した。
ふふっ
グレースも笑いだし、俺たちは頭をくっつけて笑いあった。
俺はとんでもなく幸せだった。彼女は俺を好きだという。そのことだけで、この3年間のことは俺の中ではなかったことになりそうだった。
舞い上がった。
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