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しおりを挟む「そ、そんなの嘘……。玲くんは優しいから僕に気を遣ってっ…」
掠れた声でそう口にした瞬間、胸の奥がきりきりと痛んだ。
自分でも分かっている。ひどく失礼な言葉だということも、玲を傷つけかねないということも。
それでも、どうしても否定せずにはいられなかった。
「なんで、そう言い切れるの?」
静かな問いかけだった。責めるでもなく、呆れるでもない。ただ理由を知りたいという声音。
それが余計に静の胸を締めつける。
「だって……僕のこと、好きになる人なんて、いないはずで……。みんな、僕のことを……」
言葉が、そこで途切れた。
続きを言おうとした瞬間、脳裏に一斉に浮かび上がったからだ。
役立たずだと言った家族の顔。
キモい、デブだと笑ったクラスメイトの声。
無視され、存在しないもののように扱われてきた日々。
それらが一気に押し寄せ、呼吸が浅くなる。
静の身体は小刻みに震え出し、耐えきれず両手で顔を覆った。
「……っ」
喉の奥が詰まり、声にならない息だけが漏れる。
視界が暗くなり、自分がどこにいるのかさえ分からなくなりかけた、そのとき。
ふわりと、温もりが包み込んだ。
「静」
玲の腕が、静の背中から肩、そして頭までを包み込む。
逃げ場を塞ぐようでいて、不思議と息苦しさはなかった。
「俺は、静のことが好きだよ。」
耳元で、はっきりとした声が響く。
「飽きるまで、何回でも言ってあげる。誰がなんと言おうと、俺は静のことが好きだから。」
力強い言葉とは裏腹に、その抱きしめ方は驚くほど優しかった。
まるで、壊れ物を扱うように。
玲は静の背中を、一定のリズムでトントンと叩く。
「大丈夫。大丈夫だよ、静。」
何度も、何度も。
その声と動きに合わせるように、乱れていた呼吸が少しずつ整っていく。
震えも、次第に治まっていった。
「……ありがとう、玲君。」
静は小さく頷きながら、無意識に玲の制服の袖をきゅっと掴んでいた。
離されるのが怖い、という気持ちがそのまま形になったようだった。
その様子を見て、玲はふっと微笑む。
「何それ。可愛いね。」
「か、可愛くなんかないっ……」
反射的に否定すると、玲は首を横に振る。
「ううん。可愛いよ。何しても、綺麗で可愛い。」
そう言ってから、少しだけ困ったように笑った。
「今はさ、こんな単調な言葉しか言えないけど……そのうち、もっとうまく、ちゃんと伝えられるようにするから。」
胸が、じんわりと熱くなる。
静はそのまま、玲に抱きつく腕にぎゅっと力を込めた。
「……玲君、大好き。」
そう囁いた瞬間、抱きしめ返す腕に力がこもったのが分かった。
玲の鼓動が、さっきよりも速い。
「俺ね。」
少し間を置いて、玲が口を開く。
「今まで、自分から告白したことないんだ。今日が初めて。」
「……え?」
「めちゃくちゃ素っ気ない告白に見えたかもしれない。でも、緊張したし……本気なんだ。それだけは、分かってほしい。あと、今からいうこと笑わないでね。」
玲が息をのむ音が、はっきりと聞こえた。
そのまま、二人の視線が自然と絡み合う。
「俺と……付き合ってくれませ、んか。」
玲君が辿々しか言った。
同時に、視界が滲んだ。
「玲君と一緒にいたいっ…」
答えた瞬間、苦しいくらいに強く抱きしめられる。
「ありがとう、静。大事にするから。」
耳元で囁かれたその言葉と、胸に響く心臓の音が、嘘じゃないと教えてくれる。
「僕も……玲くんのこと、大事にさせて。」
その言葉に、玲は目を細め、そっと額を合わせた。
「好きだよ、静。」
繊細な声が部屋に溶ける。
玲の端正な顔が静の顔を覗き込み、二人の唇が重なった。短い音を立てて唇が離れていく。
とても柔らかくて、暖かくて幸せに包まれる。
「……玲くん。」
「ん?」
「きっと僕、今までで……今が一番幸せなんだと思う。」
噛み締めるように言うと、玲はふっと笑って、静の頭に頬を寄せる。
「俺も、幸せだよ。」
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