君に不幸あれ。

ぽぽ

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「え? あのデブやばくね?なんで血垂らしてんの?」

「怖いんだけど!! ホラーじゃない?!何?!」


廊下を駆け抜ける静の耳に、容赦のない声が次々と突き刺さる。
好奇と嫌悪が混じった視線が、全身に突き立てられてくるのがわかった。

それでも、静は足を止めなかった。

どんなに汚く見られてもいい。
どんなに軽蔑されてもいい。

玲に会いたい。

今の自分を見ても、玲ならきっと優しく受け止めてくれる。

息を切らしながら屋上へ向かう。
だが、放課後ということもあってか重たい扉を開けた先に、玲の姿はなかった。

次に向かったのは、三年生の学年の階。玲の教室だった。

走っていく間も先ほどのような声が静へとかかる。乱れた呼吸を必死に整えながら、廊下の壁に身を寄せ、玲の教室についた。そっと扉の隙間から中を覗く。
そこには、確かに玲がいた。

玲の周りを、五、六人ほどの男女が楽しげに囲んでいる。

その姿を見ただけで、胸の奥がふっと緩んだ。
さっきまで頭を支配していた恐怖や不安が、嘘のように薄れていく。

よかった、いた。

周囲の人たちがいなくなってから声をかけよう。
そう思い、静は見つからないように息を殺して待った。

その時だった。

教室の中から、はっきりと会話が聞こえてきた。


「ねえ、玲さ。
最近、なんかひと学年下のデブと仲がいいみたいな話聞いたんだけど本当?」


おそらく、この前、玲と話していた女子生徒が広めたのだろうということは予測がついた。


「あの、しー……なんとか君だっけ?」


その名前の曖昧さが、余計に胸を締め付けた。
それが、自分のことだとわかってしまったから。

しばらくの沈黙のあと、聞き慣れた声が響く。


「うん?しー、なんとか?」


一瞬、安堵しかけた。
だが、次の言葉が、すべてを壊した。


「あー……あれね」


そして。


「あの可哀想なやつでしょ?」


頭の中が真っ白になる。
聞き間違いだと、必死に自分に言い聞かせた。

けれど、それは間違いなく玲の声だった。
いつも静を包み込むように話しかけてくれた、あの優しい声。

それが今は、鋭い棘となって胸に突き刺さる。


「たまたま屋上に行った時に、おもしろうだったから絡みに行っちゃった。
揶揄うと面白い反応するから、つい構っちゃったんだよね。そしたら懐いちゃって」

「玲ウケる。
そんなことしたら、あのデブ可哀想じゃーん」


視界が、ゆっくりと暗く沈んでいく。

立っていられず、静はその場に座り込んだ。
耳を塞ぎたい。
聞きたくない。

そう思うのに、身体が言うことをきかない。


「あいつには近寄らない方がいいよ。ちょっと優しくしたら多分すぐに好きになられるよ」


玲は少しの間を置いた。


「好きになられたら迷惑でしょ。」

「え!それは確かにめちゃくちゃ迷惑かも!でも、もしかしたら玲のことも好きになってるんじゃないの?」 

「そのうち突き放す予定だから大丈夫」


一言一言が、静の心を削っていく。

その瞬間、理解してしまった。
全部、演技だった。

優しさも、言葉も、触れ合った時間も。
すべてがからかわれるための道具だった。

静はよろめきながら立ち上がり、教室から離れた。
足元が覚束ず、倒れそうになりながら、ただ家へ向かって歩く。

気づけば、母親の姿はどこにもなかった。
靴も脱がず、そのまま玄関に倒れ込む。


「……この世に、生まれてこなきゃよかった……」


呟くようにそう言って、静は目を閉じた。
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