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しおりを挟むそれから、十年後。
鏡に映る静の姿は、かつての自分とはまるで別人だった。
丸みを帯びていた体つきは影を潜め、無駄な肉の一切ない、骨格の浮き出た細身の身体。
大きな瞳は感情を映すことなく、ただ静かに光を反射していた。
白く、透けるような肌は繊維だった。
世間一般では「美しい」と評される容姿なのだろう。
だが、静自身はそれを誇らしいとも、嬉しいとも思えなかった。
この姿は、努力や幸運の末に手に入れたものではない。
削られ、奪われ、追い詰められた結果として残っただけの、抜け殻のような外見だった。
母親は共に海外へ渡ってからも、静と共に暮らすことはなかった。
日本にいた頃と同じように、最低限の生活費だけを振り込み、静を働かせ続けた。
連絡は業務的で、そこに親子の情などはない。
休みたいと口にすることも、弱音を吐くことも許されない日々。
食事は簡素になり、睡眠時間は削られ、身体は正直に痩せ細っていった。
それでも母は何も言わなかった。息子の太っている姿を醜く感じていたため、むしろいい結果だと感じていたのだろう。
鏡の前に立ち、日々変わっていく自分の姿を見つめながら、静は過去を思い返す。
自分を嘲笑い、蔑み、平然と傷つけてきた人間たちの顔。
教室で浴びせられた言葉。
向けられた視線。
どうでもいい存在として扱われた記憶。
その中に、必ず浮かぶ顔があった。
玲の姿だ。
優しい言葉をかけ、手を引き、恋人だと信じ込ませておいて、結果的に何度も静を底へ突き落とした人物。
あれが本気だったのか、それとも最初から嘘だったのか。
真実はもうどうでもよかった。
ただ、あの存在が静の人生を決定的に歪めたことだけは、紛れもない事実だった。
今頃、どうしているのだろう。
幸せな家庭を築き、子どもに囲まれて笑っているのか。
あるいは成功を掴み、金と地位を手に入れ、何不自由なく生きているのか。
そう想像するたび、胸の奥に黒い感情が溢れ出す。
その幸せを壊したいという冷え切った衝動。
静は約五年、母親のもとで働き続けた。
そしてある日、今まで溜まっていたものが一気に溢れ出し、その関係を断ち切る決断をした。
血の繋がりよりも、自由を選んだ。
その後は現地で日本語講師として働き、生計を立てた。
人に教える仕事は嫌いではなかった。淡々と、感情を交えずにこなすことができた。
貯めた資金で投資を始め、失敗と成功を繰り返しながら、着実に金を増やしていく。
十分な資金を手にした時、静は帰国を選んだ。
日本に戻ってから、やりたいことは一つしかなかった。
かつて自分を踏みにじり、傷つけ、笑いものにした人間たちへの復讐だ。
その先に何が待っていようと構わない。
すでに、失うものなど何もなかった。
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