君に不幸あれ。

ぽぽ

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二人の間には少しの沈黙が走った。


「静……あいつらに、いじめられてたの……?」


背中越しに、玲の声が恐る恐る届いた。
振り返らず、正面を見つめたまま、静は小さく頷く。


「……ずっと?」

「うん」


短い答えのあと、また重たい沈黙が落ちた。


「……っ、ごめん」


震えた声だった。


「何が?」


静は感情を含まずにといかえした。


「一緒にいたのに……ずっと気づいてあげられなくて……ごめん……」


今にも泣き出しそうな声。
その響きに、胸の奥が微かに疼いた。

(僕のことなんてどうでもいいくせに。気持ち悪いって思ってたくせに)

玲が、前を歩く静の指先に、そっと触れようとした。

たが、静はその手を、反射的に払いのけた。
玲が瞳を丸くして静を見る。
だが、静はそれに対して反応を見せることなく再び歩き出した。


「静……?」


呼びかけは、無視した。


「……もう、別れよう」

「……は?」


背後で、短く息を呑む音がする。


「なに……別れるって、どういうこと……?」


あっさり受け入れられると思っていた。
だから、玲のあまりにも動揺した声に、静は一瞬だけ戸惑った。


「そのままの意味だよ。恋人関係、やめよう」

「……それは…俺が、静があんな状況だったのに気づかなかったから?」

「違う」


即座に否定する。


「もっと別の理由。もっと根本的なこと」

最初から、裏切るつもりだったこと。
金目的で自分に近づいてきたこと。

それ以上は、口にしなかった。


「……あと、はい」


静はポケットから財布を取り出し、中に入っていた札をすべて抜き出して、玲に乱暴に差し出した。

だが、玲は受け取ろうともしない。
感情を失ったように、ただ固まっている。


「……何、これ」

「今まで玲くんが僕に使ったお金。足りないかもしれないけど」


押し付けるように差し出しても、玲は動かない。

付き合ったのは、金が目的だったはずなのに。


「……いらない」


かすれた声。


「そんなの、いらない……」

「なんで? 必要でしょ」

「いらないから……静に、そばにいてほしい……」


切実な声音だった。
思わず、引き寄せられそうになる。
静は唇を噛みしめた。

このまま一緒にいても、また裏切られる。


「そういうの、いらないから」


静の言葉に、玲の表情がひどく歪んだ。

小さく、呆然としたように呟く。


「こういう時、人を引き止めたことなくて……どうしたらいいのかわかんない」


玲は自身の髪をクシャリと掴んで、苦しげな表情を浮かべる。
その言葉さえ、騙していた罪悪感から出たものなのだと静は自分に言い聞かせた。


「……じゃあね」


それだけを残して、静は歩き出す。

名前をもう一度呼ぶ声が聞こえたが静は振り返らなかった。

それ以降、静は玲の前に姿を現すことはなかった。
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