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第1章

どうする?! 私!

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だって……これって…………。
「精霊…………なの?」
両手ですくうようにもつ手の中には、捕まったことに不服そうな顔をする、小さな妖精と思われるものがいた。
「あら、知らないの?」
その妖精は長い綺麗な銀髪を揺らして私の顔を見上げた。
「確か、妖精って精霊の上位存在とされ精霊の統治者……だとか?」
私は、前に見た本の内容を思い出しながら答える。
「なんだ、知っているじゃないの」
「でも、精霊の上位存在であって精霊とは……」
私がまくし立てると話の間に割り込んでくる。
「人間の上に人間がたつなら精霊も同じように精霊の上には精霊が立つ、同じでしょう?」
何を言っているのと呆れ顔だ。
「それより契約、結ぶんでしょ?」
それからふんふんと私の手のひらから身を乗り出して私の匂いを嗅ぐ。
「え……何?」
妖精は嗅ぎ終わるとふーんと興味を示す。
「あなた、面白そうな匂いがするわね。私の主人になるのには合格と言ったところね」
なんか私のことを主人という割には、捕まっている精霊に上から目線で合格って言われたけど…………立場逆じゃない? 私は、手の中にいるふてぶてしい態度の妖精にムスッとしながらも、まあいいかと気持ちを入れ替えた。
「その、主人って言うのはやめてよ。これから私たち相棒になるんだから。それにどっちの立場が上かはないんだから、対等よ」
「あら、そうなの」
と興味が無さそうな返事をした。
「ところで、上位精霊って名前とかってあったりしないの?」
「あることには、あるわよ」
「じゃあ、あなたの名前は?」
「いやよ。契約はその場で人間がつけるものでしょう」
この妖精の名前をつけようと考えていたのがあっさりと見破られてしまった。
「…………」
「…………」
お互いに黙って見つめ合う。
「教えなさいよ。名前って大事なものでしょう? 今、私がつけたらあなたは新しい名前でこれからを過ごす。でも、あなたが今日、この日まで過ごしてきた思い出は今のあなたの名前と共に残っているでしょう? 友達に名前を呼ばれることも思い出の中に入っているでしょう? それを私は壊したくないの。ほら、それに友達だって悲しむかもしれないじゃない。あなたの名前が変わっていたら」
黙り込んで何かを考えるように一点を見つめるが、しばらくするとはぁっとため息をついた。
「……いいわ、教えてあげる。私の名前は、シーマ。人間のように誰かに愛されて名を与えられるわけじゃない。精霊は、生まれた瞬間に与えられる記号のようなものよ」
「……じゃ、これからあなたの名前はシーマよ」
 私が妖精に名前を言った瞬間に精霊の周りが光だし首輪がポロポロと崩れるように光の粒子となって消えていった。
「よし、今日から私の相棒ね! シーマよろしく!」
私は、妖精シーマに笑顔を向けた。
「ええ、よろしく」
こっちは私とは対照的で、淡々とした口調だった。
「……えっと。精霊を使役できたら、先生に報告に行くんだった……っけ……」
私は、だんだんと顔が青ざめていくのがわかった。そうだ……、先生に報告しなければいけないんだった。どうする?! 私は、周りをウロウロしながら考える。妖精は、精霊の上位存在。私のような一般生徒が捕まえられることはまずない。それを見られた時点で私は異常者だ。その時にまた聞こえてきた。私の頭の中から響いてくるような声が……。
 ――――――人に異常だと思われるな
 
そう、絶対にバレてはいけないのだ。そうなると、妖精の存在は明かすことができないからもう一匹使役してその子を見せることにしよう。

もう1匹、もう1匹………………
あれ、ここは私のお庭じゃなかった? ということは、私のお友達もいるということ……よね。
「ねぇ、あなたいつから精霊を使役していたのかしら?」
「いつって言われてもシーマに名前をつけてからでしょ……?」
たった今使役したシーマに言われても、困惑するしかない。
「違うわよ、私のことは私が1番よくわかっているわ! そうじゃなくて、もうすでに私の前から使役している精霊のことよ」
えっと、何のことだろ…………。
「あなた……その顔は知らないってことね。いいわ、教えてあげる」
妖精シーマは上位精霊であるからこそ私に使役されたことにより、私が使役している精霊が他にいることを知ったようだ。
「あなたが私を魔法で強制的に使役したように、精霊だって自分の主人を決めることがあるわ。まさにその状態ね」
つまり……私が知らない間に精霊自身が私のことをご主人さまと認めて使役されたってこと?? 自分から??
「あなたを主人だって認めるに至った理由があるんじゃない?」
私を主人だと認めるような何か…………。
「あなたが思い出せないのなら、直接会って話を聞けばいいわ」
「えっと、会えるの?」
「使役したことになっているのだから存在はわかるはずよ、まだ名前をつけていないから呼べないだけで」
シーマいわく私の魔力が一本の綱のように、繋がっている精霊がいるらしい。よくわからないけど自分の魔力を辿っていけば精霊に会えるってことね。
私が手を空中に伸ばして魔力を感じ取る。確かに、自分の魔力が一本の綱のように伸びているのがわかる。
「精霊を使役する数は魔力量によって決まるわ、精霊と関われば今みたいにあなたの魔力量関係なく増えていくことになるわよ。人は生まれながらに魔力量が決まっているのだから、気をつけるといいわ」
シーマはこっちを見ずに言った。
…………少しは心配してくれているのだろうか。なんか嬉しいな……。思わず顔が綻ぶ。
「わかった。これからは気をつける。あ、そうだ。まだ名乗ってなかったね私はルリカ、家族からはルリって呼ばれてる。改めてよろしくね」
「知っているわ、あなた……ルリの気配はいつも森で感じていたもの」
いつの間に、妖精に私のこと知られてたんだ……。全然気づかなかった。それに、私のことを名前で呼んでくれた。これでだんだんと相棒みたいに見えてくるかな。
草木をかき分けながら進んでいく、途中で人に会わないようにシーマには人の気配を感じないかを見張ってもらう。でも、それほど遠くはなかったようで結構すぐに見つけられた。
私のもう1匹の使役は、今朝送ってくれた子だった。
「あなただったのね! いつもありがとう、今日は助かったわ」
…………あれ、精霊を使役している場合話せると思ってたんだけど。
「まだ、名前をつけてないから繋がりが弱いんじゃないかしら?」
「じゃあ、最初に名前をつけなくっちゃね!」
けっこう大きいし、かっこいい名前がいいかな? 
……ロロネイア、とかどうかな。ちょっと長いけど……響きがかっこいい感じがする。略称でロロとか呼びたい!
よし、これだ!!
「じゃ、今日からあなたはロロネイアよ!」
すると、透き通るような薄い水色だった精霊が名前をつけた瞬間に動物と同じような色になった。はっきりとした焦げ茶色になったのだ。
 …………色変わるんだ、そういえばポコも色がはっきりしていて動物とそっくりだったな。
これで会話できるかな……?
「ロロ……はどうして、私の使い魔になったのかしら?」
「主様が私を助けてくださったので、力になりたいと思ったのです」
「助けた?」
「はい、魔物から守ってくれ、私に役割をくれました」
役割って朝のことかな、よく頼んでいるし……ありがたいけど。そんなことで使役されちゃっていいの?
でも、そろそろ報告に行かないとだし……。もう使役させたのだから迷っている必要はない、よね。
「ロロありがとう、これからもよろしくね!」
ここからが本題だ。
 
 ――――――私が妖精を使役していることをバレないようにしなければ!

 
私はシーマに内緒話で頼み事をする。
「あのね、シーマ……人前の時は姿を隠して欲しいの。シーマのことはみんなにバレないようにしたくて……!」
いきなり、捕まえておいて姿を消してて欲しいなんて身勝手な理由だってことはわかってる。
「いいわよ」
「え?」
「だから、いいわよ」
「え……いいの? 不満とかあるならちゃんと聞くよ?」
シーマの顔色を窺うも嘘を言っているようにも、不満そうな顔はしていない。……どっちかというとしつこい私の反応に対してげんなりしている、ように見える。
「もともと、大勢の前で姿を見せる気はないし。妖精はこんなに長く姿を見せることなんてないわ」
もちろんルリの前でも姿を消すわ、そう言ってスッと空気に溶け込んで見えなくなってしまった。
まるで、最初っから夢だったかのような静けさに一瞬不安になったものの一応契約したので大丈夫だと思い直した。
「ロロ、これから先生の元に報告に行くからね」
「はい、主様」
……このままだと主様呼びで定着してしまう。
「私はルリカよ。家族からはルリって呼ばれているわ」
「……はい、存じております」
「えっと、ルリって呼んでもいいのよ?」
「いいえ、主様と呼ばせていただきます」
…………………やっぱり主様呼びは変わらないみたいだ。

そうしているうちに開けた最初の場所にきた。
何人かもうすでに使役しているようで、グループがいくつかできていた。……素敵な精霊ばっかりね。兎やらハムスターやらたくさんの種類がいる。私みたいに大きい動物を選んだ人もいるようだった。
「先生、使役できました。この子が私の使い魔のロロネイアです」
「よし、じゃあ精霊の扱いをこの先で講義をおこなっているから行ってくるように」
雰囲気がまた授業のときのに戻っている。
私が奥に向かうとリオンがいた。
「あ、リオン!」
私はすぐに駆け寄った。
リオンは何を使役したんだろう? 私の使い魔は言うまでもなくすぐにわかったようで、駆け寄ってきた。
「お前、今朝のやつか!」
「そうなの、ロロネイアよ!」
我ながらかっこいい名前をしていると自分でも思う。
「…………長いな。でもいいんじゃないか、響きがいい」
1、2秒の間の無言が気になるけど、特に何かを言われることはなかったからよかった。
「リオンの使い魔は?」
リオンの使い魔はあたりを見回してもいないように見える。ということは、小さいのかなと予想をつけながらリオンのポケットをじっくりと眺めても膨らみがない。すぐには教えてくれないリオンに私はそろそろ我慢できずにこたえを要求する。
「教えてよ」
「上だよ、上」
リオンが人差し指を上げて上、上空を指してチョンチョンと示している。
「上?」
リオンの指の先を見上げるとそこには1匹の鳥が旋回していた。真っ黒い翼をはためかせて飛んでいる、カラスだ。
「カラス!」
鳥かー!かっこいいな!
「鳥の方が何かと便利だと思ってな」
その理由はリオンらしい。
「そろそろ人数が集まったので、講義を始めます」
 先生が私たちに声をかけた。……残念。もっと話を聞きたかったけど、仕方ない。また、別の機会に聞くとする。
 講義の内容は簡単だった。
精霊を道具のように使わないこと、信頼が大事で信頼を築けないと力を貸してもらえなくなってしまう。
そして、私たちは今日から1週間精霊と信頼関係を築くことになった。学校に通うのは1週間後、ということだ。
この講義は人数が一定に達するごとに開かれ、私たちが受けた後2回ほど開かれて終わった。みんな使役できたようで最後に先生の話を聞くことになった。このまま私たち生徒は学園に戻る。

私はみんなが先生に注目している間ににリオンの耳に内緒話をする。
「……リオン、少し話があるの。大事な話」
ここで話すのは少し躊躇ってしまうが、やはりリオンには話すべきだと思ったのだ。1番信頼しているのはリオンだから。隠すのは避けたい。
「そうか。わかった」
「実は紹介したい人がいて……」
「……な!?」
「しー! 声が大きい!」
リオンが急に大きな声を出すから前にいた2、3人の子が一瞬振り返った。
「ご、ごめん……」
慌ててリオンが両手で口を押さえる。
そんな驚くようなことを言ったかなぁ、って……リオンのことだから、私が説明しなくても精霊を2匹使役したことが伝わったのかもしれない。
あ……精霊は人じゃないから紹介したい精霊がいる、かな。リオンの様子をチラッと視線を送ると真剣な表情で考えごとをしている。やっぱりバレているようだ。
学園に戻ってもすぐ解散するだけのようで、私たちなどの学園に行くよりも家が近い人たちは解散となった。

 
私たちは、いつもの場所、私たちだけが知っている秘密の場所にきていた。茂みが鬱蒼としており、人の視界を塞ぐように壁になってくれている。真ん中にある大きな切り株を囲むようにして座り私たちは向き合っていた。
最初に話し出したのはリオンだった。
「…………で、話ってなんだ」
リオンが私の目をしっかり見て真剣な表情……っていうか少し顔がこわばっている。
「うん、もうわかってると思うんだけど……」
やっぱり、緊張してきた。だって、私が妖精! あの滅多に見れない上位精霊を使役したなんて、何を言われるのか。
「精霊を紹介したくて、シーマ出てきてくれる?」
「………………なんだ精霊か」
はぁぁっとリオンが肩を落としている。
……ん?今何かボソッと言ったような気がする。
「今、何か言った?」
「ん、なにも」
リオンのさっきまでこわばっていた顔が一気に緩んだ。
はて……?なんか悩みごとでもあったのかな。
あとで、それとなく聞いとこ。
「……シーマ?」
呼びかけてすぐには出てこないシーマ。どっか行ってるのかな。それとも姿を見せてくれないだけ? 
「………………何?」
空気中に溶け込んでいたシーマが私の後ろからスッと姿を現わす。
「さっき、人前には出ないでって言ってたのにもういいのかしら?」
ちょっと不満気な顔をして軽く睨んでくる。
「もう、そんな怒らないでよ。リオンはいいの。私が1番信頼してる人だから」
私が、「ねっ」と言って振り返る。
すると、リオンが固まっていた。
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