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side ジルヴェール ⑦ ー決意ー

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僕に抱かれ達した後に意識を失ったフィーは、意識を失う直前まで僕の名前を呼び続けていた。
僕のことを心から愛してくれている事に突き上げるような喜びが胸を貫いたけど、涙を流しながら僕の名前を呼ぶフィー見ると、ひどく傷付けたようで切なくなる。

フィーのまだ涙に濡れるその頬を優しく撫でる。
フィーが攫われたと思った時はひどく激昂したが、こうして隣にフィーがいてくれるだけでもう十分だ。
フィーの可愛い顔を見ていたらさっき強請られた事を思い出し、また欲を孕んでくるのがわかる。
さっきは全然フィーを愛撫できなかったし。
でも今はフィーの身体に無理してはいけないから、このまま寝かせることにした。

あぁ、早くフィーを思いっきり喘がせたい……


夜中、フィーがうなされながら僕の名前を呼んでいる声で目が覚めた。
フィーは僕を探すように身じろぎ、うわ言のように僕の名前を呟く。その眦から涙が一粒零れ落ちた。
あまりにもの痛ましさに、僕はフィーをぎゅっと抱きしめると、頭を撫でた。
フィーは安心したように眠った。

翌朝起きたらフィーは元気そうだったけど、それから暫く夜中になるとうなされる事が続いたので、僕はフィーをぎゅっと抱き締めながら寝るようになった。

不安になるフィーを少しでも安心させようと、僕はフィーを連れて領地での政務にでた。
兄に知られた今、フィーを隠す意味も無くなった。
社交会から遠い領地なのですぐには噂にはならないだろう。

事件から半月ほど経ってフィーの状態もだいぶ落ち着いてきた頃、王都にいる国王陛下、つまり父上から呼び出された。
フィーも一緒に王都へ来るようにとのお達しであった。
フィーを伴うことが躊躇われたが、フィーは付いて行くと言い張った。

王都へ戻り、フィーと共に陛下に謁見する。
人払いがされているようで、僕たち2人以外は陛下と宰相だけだった。
軽く青ざめているフィーの手を握り謁見に臨むと、予想外の事を言われた。

「……ジルヴェール。災息であったか? 急な呼び出しですまない。この最近の兄トリスティンの様子は知っているか? フィーリアス公爵令嬢と婚約破棄をする前からおかしな様子ではあったが、半月ほど前に顔に傷を負って帰ってきてから、全ての政務において精彩を欠く。臣らの評判も前から悪くはなかったが良くもなかった。それが今や悪くなる一方だ。このままあやつに王位を継がせるわけにはいかなくなった。突然だが、トリスティンを廃嫡しお前に王位継承権を渡そうと思う」

「……陛下。兄上は今少し心が疲れているだけなのです。暫くすれば兄上もまた以前のように戻りましょう」
「……やはりお前はそう言うか……実はこれはトリスティン達ての願いでな。お前に王位継承権を譲りたいと」
「……っ! 兄上がっ!!……」

困惑し、僕は一度フィーの顔を見る。フィーも驚いているようだった。

「……一度兄上と話をさせてください。その後決めさせていただきたいと思います」



ラクスを護衛として供につけ、渋るフィーを僕の離宮へおいて兄上のところへ向かう。
フィーを攫おうとした兄上に絶対フィーの姿を見せるわけにはいかない。
どうせ護衛なんて必要ないし、スペアの僕に付き従う人間はほとんどいなかったから、僕は1人で兄上のところへ向かった。

事件ぶりに会う兄上は、人が変わったような有り様だった。
爽やかで溌剌とし、自信満々でどこか人垂らし然としていた兄上はおらず、その目は落ち窪んでげっそりと窶れきり、頬に残るまだ生々しい傷跡を隠そうともしていない。
兄上は僕を見て、軽く身体を震わせた。
そのまま何も言いそうにない兄上に、礼儀を失するとは思ったが僕から話しかける。

「……兄上……お元気そうでは…ないですね……陛下から聞きました……」
「……お前は……そ、の……身体はどうなのだ…?」

顔を伏せたまま酷く怯えたように話す兄上の姿は、僕の記憶に全くないもので少し動揺した。

「……お陰様で、傷一つありません。……元気にしております……」
「……そうか……良かった……」
「……兄上は……その。顔の傷が残ってしまい、申し訳ありません……」
「……っ! 気にするな……全ては、自分が招いたことだ……」

兄上はどこな泣きそうな顔をしながらそう言うと、ここに来て初めて僕と目を合わせた。

「……兄上。何故、王位継承権を放棄されたのですか? 別に僕はそんなもの望んでいません。……僕はフィーさえいればそれで満たされるのです……」

「……そうだな。……俺はずっとお前を見下していたんだ。自分ではそんなことすら気付いていなかった。同じ立場の人間として見ずに、ただ俺のスペアとしている。それだけの存在だった。あの時、俺は初めてお前と向き合ったんだ。初めてお前を認識したことに、ようやく気が付いた……そして、そう気が付けば自分がいかに愚かだったかも気付かされた。今までの自分をどうして誇れることができようか? お前の資質をまざまざと見せつけられ、どうして俺が国王として立つ事ができようか……この国に立ち民を導いて行くのはお前だ」
「……っ! それはっ! しかし、兄上だって今まで努力してきたではないですか!? それに兄上は決して無能ではありません!……僕でなくとも……」

兄上からもらう初めて真摯な言葉に、僕は酷く動揺した。

「……俺はもう、自信がない……」
「……兄上の気持ちはわかりました。ですが、少しだけ時間をください」

僕は離宮にいるフィーに決めてもらおうと思った。僕が王位を継げば必然的にフィーも王妃となるからこそ、フィーの意見を重視したいと思った。
今まで頑張りすぎていたフィーに、今更王妃としての責務に縛られて欲しくない。

離宮に戻りフィーに状況を説明するとやはり驚いていた。
本当は僕もこのまま兄上が王位を継いでくれた方が、フィーとの時間が沢山持てるし何よりフィーの姿を見せる機会も減っていいと思っている。
フィーは僕だけ見ていればいいし、僕だけに見られていればいい。
といった発言をしたら、『や、ヤンデレ?……』と遠い目をしながらフィーがぽそっと呟いていた。

でも、結局フィーは僕が王位継承権を譲り受けるべきだと主張した。国のためには、とかなんとか言っていた。やっぱりフィーは真面目だなぁ。兄上に任せておけば良いのに。
まぁその方がフィーと早く結婚できるからいいかな、と思った僕は王位継承権を継ぐ事を決めた。

「フィー。じゃあ早く僕のお嫁さんになってね」

そう言ってフィーに口付けをした後、結婚式を最短最速で行う為の手筈を頭の中で巡らせていったーー

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